亀がくれた酒
ずっと昔、王二という村人が薪を売って女房や子供と暮らしていた。
ある日、王二が市場で薪を売って家へ帰る途中、赤い腹掛けをした二人の子供が道端で小さな亀を柳の枝で突っついて苛めていた。
亀が突っつかれて頭としっぽを縮めているのを見た王二は可哀相になって「この亀はまだ小さいのに可哀相だ、小父さんに売っておくれ、小父さんがお前たちに銅銭を一枚づつやるから餅でも買ってお食べ」と言った。二人の子供は顔を見合わせていたが、銅銭を受け取り亀を放すと影もかたちも何処かへ消えてしまった。
王二は麦藁帽子を脱ぎ亀をいれて家へ持って帰った。女房が「帽子の中に何が入っているの」と聞いたが王二は女房に亀の子を子供から買ったとは言えず、慌てて「道で拾った亀だ」と言うと小さな素焼きの鉢に亀を入れて床の隅に置いた、明日河へ逃がしてやるつもりだった。
さて、王二は一日の仕事ですっかり疲れ、晩御飯を食べるとぐっすり寝込んでしまったが、夜中に小便がしたくなり、外の光を頼りに草履を探すと、なんと床に一尺ほど水がたまり草履がプカプカ浮かんでいる、驚いた王二は夢かと腿をつねったが痛い、目がかすんだのかと足で床を探ると水で濡れる、王二はハッと、亀が怒って俺を溺れさせようしたのではないかと気がついた。王二は心配して女房を起こそうとしたがやめ、心の中でそっと“亀よ、亀よ、明日お前を河に放してやるからな”と言うと、アラ不思議、床の水はなくなり草履を履いてみると乾いている、周りを眺めても少しも濡れていない、亀はと見ると素焼きの鉢の中で首を縮めて寝ている。
それからまた目を閉じた王二は夢を見た。青い服を着た白い髭の老人が現れ「わしは河の神だが天界の掟に触れたので玉皇大帝があの日、二人の神を子供に変え、わしに罰を与えていたのだ、その時、お前が金を出してわしを救ってくれたので罪を免れた。
わしはその恩を返すから、明日の朝早く、門の敷居の下を三尺掘ってみろ、すると青い石があって、その下に千年たった酒の瓶がある、それを元にして市場で店を開き瓶から酒を一斤一斤、丁寧に汲み出して売ればお前は生涯幸せに暮らせること間違いなしじゃ」と言って消えた。
王二は夢から覚めると急いで「おいおい、灯りをつけろ」と女房を起こした。よく寝ていた女房は灯りをつけると不機嫌に「こんな夜中に何さ」と言った、王二は夢のことを話し始めた、女房は初めはろくに聞いていなかったが、真に迫った王二の話しぶりに引き込まれ、半信半疑で灯りに油をたし、着物を着ると王二と一緒に門の敷居の下を掘った。
やがて一番鶏が鳴くと汗だくの夫婦の耳に“カッチ”と音がして青い石の板が見えた、その下に黒く光る瓶が出てきた、きっちとしまった蓋を開けると馥郁とした酒の香りが漂った。
翌日、王二は家を売り、町の市場の一角を借り、この酒を売り始めた。王二の店の酒を飲んだ人々はみんなこれ以上の美酒は天下に得がたいとほめそやし、俄かに有名になり、毎日、酒を買う人々が押し寄せた。
王二は河の神の言う通り、瓶から酒を一斤一斤、丁寧に汲み出して客に売り三年、店はますます繁盛した。
ある時、王二はしばらく南方に商売に出かけることになり、女房に「俺がいない間、お前独りで店をやっていかなければならないが、どんなに客が増えても瓶から酒を一斤一斤、丁寧に汲み出して売ることを忘れるな、決して面倒くさがるなよ」と言って聞かせた。
王二が商売に出かけた後も大勢の人が酒を買いに来た。ある客が祝い事に使うと二百斤の酒を注文した。王二の女房は“二百斤の酒を瓶から丁寧に一斤一斤、汲み出していては何時までかかるかわからない、それより大きな瓶にこの酒を入れ水をかき混ぜて増やして売ろう”と考えた。
さて、女房が水を混ぜた酒を大きな瓶に入れて出した時、青い服を着た白い髭の老人が大勢の客を押し分けて店に入って来ると「酒を売るには売る良心がある、酒はわしが持って行く」というと姿を消した。女房が驚いて大きな瓶に入れた水を混ぜた酒を見ると瓶の中の酒は一滴もない、慌てて河の神の亀がくれたあの酒の瓶を探すと、瓶は羽もないのに、飛んでいってしまったのかなくなっていた。そこではじめて女房は己の犯した罪に気がつき、地べたを叩いて 泣き叫んだ。
薛天智故事選 00.7.1