白い鼠
昔、子供の学校の門に大きな獅子の石像が二つ向き合って建っていた。ある日、その石像の前でボロボロな着物を着て鼻を垂らした汚い老婆が虱をつぶしていた。子供たちは老婆を見ると唾をかけたり、土の塊を投げたりして老婆をからかった。
王小という子がそれを見て「“七十歳の老人を打たず、八十歳の老人を罵らず”何も悪くないお婆さんを苛めてどうするんだ」と怒ると子供たちは口々に「可哀相なら連れて帰ってお前の家のお婆さんにしろ」と王小を笑った。「よし、連れて帰る」と王小は汚い老婆を嫌がりもせず家へ連れて帰った。王小の母もまたいい人で喜んで老婆を迎えた。
こうして半月過ぎたある日、老婆は「王小、わたしは今日出て行くよ」と言った、王小母子が「お婆さん、一人になってまた乞食をするよりここにずっといたほうがいいですよ」と引き止めると、老婆は「あんたたちは本当にいい母子だ、実はわたしは天界から悪人と善人を調べに来た神だ、天帝は悪人がいるこの地方を数日中に洪水を起こして水没させることを決定した。あんたたちは舟を準備して学校の門の石の獅子の目が赤くなったらすぐ舟に乗って逃げろ、その時水に流されているどんな生き物を助けてもいいが人間だけは助けてはいけない」と言って姿を消した。
そこで王小母子は老婆の言う通り、すぐ舟大工に頼み一艘の舟を作り洪水に備えたが、王小はその日から勉強に身が入らず、先生に便所へ行くと言ってはあの石の獅子を見に行った。先生は気にかけなかったが仲間の子供たちはおかしいと思い「お前、すぐあの獅子を見に行くが何があるんだ」と王小を問い詰めた。正直な王小は嘘がつけず、あの老婆の話を全部話した。それを聞いた子供たちはみんな「あの獅子は石だぞ、目がどうして赤くなるんだ?そんなのは昼間の夢の出鱈目だ」と笑った。
そして子供たちは王小をからかってやれと相談して、ある日、絵の具で石の獅子の目を赤く塗っておいた。そうとは知らない王小は石の獅子の目が赤くなったのを見て慌てて家へ帰り、母親に「おっかさん、石の獅子の目が赤くなった、早く舟を出そう」と言って舟に乗ると、たちまちゴーと音を立てて大水が押し寄せ、村人はみんな流されてしまい、舟に乗った王小母子だけが助かった。
王小母子が舟に乗って行くと、途中で水の中をアップアップしながら白い鼠が流されて来た、王小は「鼠さん助けてあげる、早く舟に乗りなさい」といって白鼠をすくって舟に乗せた。
するとまた蟻の一団が大きな葉っぱにつかまって、今にも大きな波に呑み込まれようとしている、王小は手を伸ばして蟻の乗った葉っぱをすくい「蟻さん、舟に乗りな、あたしの家はあんたの家だと言った。
またしばらくすると、今度は蜜蜂の一群がブンブンうなりながら飛んで来て今にも大水の中に落ちそうになる、王小は「蜜蜂さん、心配するな、疲れたら舟にとまりな」と言って蜜蜂たちも助けた。
洪水は引かず小さな船はなおも流されて行くと、前から揺りかごが流れて来た。見ると中に赤ん坊がいるので王小が抱き上げようとすると、母親は「神様は人を助けてはいけないと言っていたではないか」と言って王小を引き止めたが、王小は「でも、おっかさん、赤ん坊をほっておくことはできない」と言って抱き上げ舟に乗せた。
するとまた溺れかかった蛇が流されて来たのでこの蛇も助けた。舟は三日三晩流され続けやっとある岸に着いて、王小母子は蜜蜂、蟻、蛇と別れ、赤ん坊と白鼠とそこで一緒に暮らすことにした。
白鼠は命を救ってくれた恩返しに時々王小の家に皇帝の倉から銀貨を盗み出して持って来た。
こうして十年経ち王小は十九、拾ったあの赤ん坊も十歳となった。王小の母は拾い子ををまるで自分の子のように面倒をみてやっていた。
ある日、焼餅売りの爺さんが来ると拾い子は焼餅が食べたいと騒いだ。王小の母親は息子と拾い子が所帯を持つ時のためにお金を蓄えておきたかったので「お前、毎日あれこれ買いたいと言ってもおっかさんにはそんなにお金はないんだよ」と言うと、拾い子は口をとがらして「おっかさんは俺が可愛くないんだ」と言って外へ飛び出してしまった。
さて、実は焼餅売りの爺さんは皇帝の隠密で倉から銀貨を盗んだ犯人を密かに捜していたのだ。外へ飛び出した拾い子は「うちには銀貨があるのに焼餅を買ってくれない」と泣いていると、隠密の焼餅売りが「坊や、泣くんじゃない、おっかさんが買ってくれないなら、わしが一つあげよう」と言って拾い子に焼餅を一つやると「坊やのうちに銀貨あるって本当かい」と聞いた、拾い子は涙をこすりながら貰った焼餅をムシャムシャ食べ終わると走って家へ帰り、王小の母が見ていないすきに銀貨を盗み出して隠密の焼餅売りの爺さんに見せた。
銀貨には皇帝の倉の印があったから、たちまち王小は捕らえられ、城の大牢に入れられてしまった。牢獄に入れられた王小は拾い子では母の面倒はみられまいと悲しんでいると白鼠が現れて「王さん心配しないで、お母さんの面倒はわたしがみます」と言った。それから白鼠は毎日、王小に弁当を持って来た。
しばらくして皇女が不思議な病気にかかり、皇帝は四方八方に医者、薬を求めたが治らない。皇帝は熱い鍋の上の蟻のように焦り、あちこちに『皇女の病気を治した者には黄金千両と高い位を与え、若者であれば皇女の婿にする』と高札を掲げ天下に布告した。布告から一ヶ月、皇女の病気を治せると言う者が百人来たが一人として治せる者はなく、その者はすべて殺された。
白鼠が来て王小に「あなたが皇女の病気を治せば、死罪を免れそのう皇女を妻に娶れます」と教えた。「わたしには治せないよ」 「この病気は陰陽の瓦で炙った蛇の血を飲めば治るのです」 「だが、そんな蛇の血は何処にあるんだ」すると白鼠は王小が助けたあの蛇を連れて来た。王小が蛇の血を採るのをためらっていると、蛇は刀の上を這って自分の体に傷をつけ血を出した、王小はその血を陰陽の瓦で炙り、それを獄卒を通して皇帝へ献上し皇女に飲ませると皇女の病気は治った。
皇帝は王小を呼び、朝廷の銀貨を盗んだ罪で死罪だが皇女の病気を治した手柄で無罪とし、放免すると告げた。だが王小は「布告には皇女の病気を治した者が若者なら皇女の婿にするとあるのに、皇帝はそれを変えるのですか」と聞いた。
皇帝は自らもそれは理ではないと思っていたが、王小を皇女の婿にしたくはないと、粟二斗に砂二斗を混ぜ、それを一夜のうちに粟と砂に綺麗に分ければ皇女と結婚させるという難題を出した。王小が困っていると白鼠が来て心配するなと蟻に助けを求めに行った、すると蟻は集団を作って来て、粟は粟、砂は砂と夜明けの鶏が鳴く前にすっかり分けてしまった。
そこで皇帝はまた王小に、明日の正午に皇宮の奥庭に並べた二九十八の花駕籠のどの花駕籠に皇女が乗っているかを当てれば皇女の婿に迎えると難題を出した。花駕籠の窓には幕がかかているのにどうして分かるかとまた王小は困ってしまった。
するとまた白鼠が来て「王小さん、蜜蜂に頼みますから心配ありません」と言って白鼠は王小が助けた蜜蜂の処へ行って今までの事を話した。蜜蜂は飛んで来ると王小に「わたしたちが皇女の乗った花駕籠の上に止まりますから、その花駕籠を臆さずに指しなさい」と教えた。
翌日、王小は皇宮の奥庭に並んだ十八の花駕籠の美しさを一つ一つ比べながら見ていると、蜜蜂がブンブンと飛んで来て中古の花駕籠の上に止まった。王小は「皇女が乗っている花駕籠はこれです」と指した。皇帝は王小を負かすことができず、それに一度布告したことを変えては天下の人々に笑われると考え、皇女を王小に娶わせた。
薛天智故事選 00.5.27