まだら牛の仙女  

 沈陽西南の新民県花牛村には村の名前に感動的な由来が伝えられている。
 昔、この村の長者に雇われた牛飼いの李良という若者が六十過ぎた老母と暮らしていた。李良は毎日、村の西南に流れる河の南岸の広い草地に牛を放しに行く。牛飼いは誰でも牛が好きなものだが李良は群れの中でも牝のまだら牛を可愛がっていた。このまだら牛はよくなついておとなしく、作物を踏んだり、走り回ったりして李良を困らせることはなかった。それで李良はいっそうこの牝牛を可愛がり、毎日、美味しい草のある処で食べさせ、河で体を洗ってやった。  

 ある夏の昼、李良は牛たちに涼しい処で草を食べさせ、自分は柳の木の下に蓑を敷き麦わら帽を顔にかぶせて横になり、うつらうつらしていると若い娘の軽やかな声で「李良さん、李良さん」と呼ばれ、驚いて目を覚ましてみると何処から来たのか十七八の綺麗な娘がにこやかに立っている、「私を呼んだのはあなたですか」と聞くと、娘はうなずき「あなたは何時も独り身の辛さを嘆いているけど、着物の繕いをしてくれる人はいないの」と言った。「ええ」「今日はわたしが破れた上着を繕い、汚れた靴下を洗ってあげるわ」 「でも私はあなたを知りませんけど」 「習うより慣れろ、というから今にわかるわ」娘はそう言い、李良がまだけげんそうな顔をしていると「わたしが住んでいる処や名前はまた会った時に教えます、でも二人のことを人に言わないでね」と言った。李良は突然美しい娘が何処からともなく現れて、優しく親しげに言ってくれるので嬉しくなり、誰にも言わないと約束した。  

 それから娘は毎日お昼になると来て、李良と一緒に座ってお喋りした。半月たって李良は“この娘は何処の人かはっきりしないし、どうして私が昼寝している時に来て私が牛を追いに行くと見えなくなるのだろう、今日はその様子を見てみよう”と思い、何時ものように蓑の上に横になり麦わら帽子を顔にのせ、寝たふりをしながら、目を丸くして帽子の隙間から見ていた。
 すると近くにいたまだら牛が体をふるわせると、あの美しい娘の姿に変わって楽しそうに走って来た。李良は“アッ、あの娘は牛の仙女だったのか、俺のお嫁さんになってもらおう”と思うとサッと立ち上がって慌てて「う、牛の仙女さん、もう行かないで」と叫んだ。牛の仙女は顔を赤くすると甘い声で「あなたがそう言ってくれるのを待っていました。おっしゃる通りわたしは天界の神牛です、わたしは天の河の水を飲んだために下界へ追われたのです。李良さん、わたしが牛の仙女でもいいならあなたと一緒に暮らします」と言った。  

 李良が牛の仙女を連れて家へ帰ると老母は大喜び、近所の人がお祝いに来て娘のことを聞くと名前は牛小花と言い、地方から李家へ嫁いで来たのだと答えた。小花は老母に孝養を尽くし、夫に仕え、朝早くから夜おそくまで家事をこなし、近所の人々はみんな李良は賢い働き者の妻を娶ったと褒めた。

 小花のことは一が十に十が百になって長者に伝わると、長者は李良を屋敷に呼びつけ「わしは大金持ちで田畑は千傾あり、多くの牛馬があるが美しい妻がない、お前の女房をわしにくれるなら、お前に金貨二百両、銀貨三百両、畑四十畝、牛馬五十頭やる、もし嫌ならお前の女房にわしの屋敷の庭に積んだ麻を一晩できちんとまとめて片付けさせろ、一番鶏が鳴くまでにできなければお前の女房は俺のものだ」と言った。李良は家へ帰り小花に長者の難題を話した。
 すると小花は「そんなこと心配ないわ、わたしが行って片付けて来る」と言った。その晩、小花は長者の屋敷の庭へ行くと仙術を使って鶏の鳴く前に庭に積まれた麻をきちんと片付けてしまった。夜が明けて長者は庭に積んだ麻が片付いているのを見て自分が負けたと引き下がるしかなかった。  

 するとこんどは県知事が駕籠に乗って来て、李良に「わしには権力と金があり、妻も妾もいるが、お前の妻のような美しい妻がない、もしお前の妻をわしにくれるなら、わしはお前を高官につけ金持ちにしてやるが、どうじゃ」と言った。
 李良が県知事の話を小花にすると、小花はまた「そんなこと心配ないわ、わたしに任せて」と言って、県知事の前に出ると腕輪をはずして地面に置き「この腕輪をあなたが拾い上げれば、わたしはあなたについて行きます」と言った。
 県知事は心の中で“こんな小さな腕輪は一両にも足りない、三歳の子供だって持てる、わしが好きになったのだ”と嬉しくなって、地面の腕輪を拾いあげようとしたが、どうやっても持ち上がらない、必死になって引っ張っても腕輪は地面に根を張ったようにビクともしない。県知事は恥かしくなって赤くなったり青くなったりしたが、そばで笑っている小花を見るとカッとなり、家来に命じて小花を駕籠に押し込めようとした。すると大きな音が響き駕籠は宙に舞い上がった、県知事は驚いたとたんに小便を漏らし、小花が仙術を使ったとは知らず、これは無理に女をさらおうとしたわしを天帝が罰したのだと思い慌てて逃げ帰った。  

 こうして十何年か経ち、李良は息子と娘に恵まれ幸せに暮らしていた。ある年の夏、大雨が降り続いて秋になっても止まず、河の水はみるみる増えて矢のように流れ、老若男女を問わず人々は命がけで河の土手を高くしたが間に合わず河は土手を越え、洪水になろうとする時、一声高い牛の声が響くと村の中から何十もある大きなまだら牛が現れ、河岸へ行くと溢れ出す河の水をゴクゴクと飲みだした。みるみる河の水が三尺も下がり人々は呆然としていたが、まだら牛は何時の間にか消えていた、そして同時に李良の妻の小花の姿も見えなくなった。

 それで人々はあの洪水を食い止めたまだら牛は李良の妻の小花だと分かり、牛小花が人々を救ったので再び天界に召されることを知った。
 それから人々は小花の功績を忘れないようにこの村を花牛村と名付けたのである。        

              薛天智故事選                             00.5.19

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