金の美女

 郷試に合格した王秀は官職を求めて都へ行こうとしたが体の不自由な母を残して行くこともできず、かといって食べるにもことかき、都へ行く旅費さえろくにない貧乏では、母の世話をする人を雇う金もない。王秀はいろいろ考えたあげく、母に「おっかさん、私がおぶって都へ行きます」と言うと、母は首をふって「秀や、都までは何千里、一日二日で着くわけではない、あたしをおぶって行くなんて“労多くして効少なし”ましてや試験の時期におくれたら大変だ、あたしは行かない」と答えた。「でも、おっかさん一人では死んでしまいます、私だけで行くことはできません」そこで王秀の母は息子の言う通りにするしかなかった。

 時は夏の真っ盛り、太陽は火を噴くように照りつける。書生である王秀はもともと痩せていて力があるわけでもない。真夏の太陽の下を母を背負って旅するのは容易ではない。二歩行ってはあえぎ三歩進んでは止まり、汗は流れるようだ。空腹になれば残飯を貰ってしのぎ、金がないから宿はとれず、廟の軒下に寝た。

 ある晩、王秀は母と山の荒れた廟にたどり着き、母をゆっくり休ませると自分は体を曲げて寝た。夜半になって王秀は誰かが横にいるような気がして、手を伸ばしてみると柔らかな人の体に触れて驚いた。なんと明るい月の光りに照らされて花のような美しい女が横に寝ているではないか。
 王秀はガバッと起き上がり「あなたはどなたですか、こんな夜更けにこんな所に来て」と聞くと、女は羞しそうにして「あたしは麓の金家村の娘です、あなたとあたしは前世の因縁で結ばれていたのです、今宵夫婦になって、とも白髪まで添い遂げたいのです」と言うや、サッと王秀の胸にしなだれかかり、艶っぽい声で「お馬鹿さん、逃げないで」と言った。

 王秀の心の奥に艶やかな香りがしみ体が痺れ、まさに水の流れに舟が行くようにそのまま娘を抱こうとしたが、ハッと気がつき娘を強く押し返すと、「どうかあなた自分を大切にして下さい。私、王は男と女の仲を乱したくはありません」と言うと、女は平気で顔を赤らめもせず口をすぼめ、いたずらぽそうに「魚を見て食べない猫なんていないわよ、胸にすがっりついた女を押し返すなんて大馬鹿よ。いままでこの村にそんな男はいなかったわ」と言うと、女はまた迫ってきた。
 王秀は怒って「あなたは恥じも外聞も感じないのですか、私は……」 「何だって言うの、あなたはどうしたいのよ」「私に言い寄るのは止めて下さい」 「アラ、あんたみたいな聖人君子は見たことないわ」女はそう言うと、裾をたくり上げ、なよなよした白い腿をを見せ、色ぽっく腰をしならせた。
 王秀は慌てて目を閉じると女を突き飛ばした、すると女はバタッと音をたてて倒れ、そのまま何時までも起き上がらない、アッと王秀の体に冷や汗が流れた、“もしかすると娘は俺に突き飛ばされて死んでしまったのではないか”と思い、すぐかがんで娘の体を見ると、娘の姿は影も形もなく、金色に光る黄金の像が横たわっていた。

 王秀の母が目を覚まし「秀や、こんな夜更けに眠らないで、何かあったのかい」と聞いた、王秀は今までどんな事が起こっていたかを母に言って聞かせた。母はそれはよかったと喜んだが、黄金の像を見ると「この思いがけない財宝を手にするわけにはいかない、早く届けなければ」と言った。

 王秀が黄金像を持ち上げようとすると天空から「その黄金像は財宝にも色情にも心を動かさなかったあなたたち賢い母子に天帝が感動されて賜ったのです、受け取りなさい」と言う声が聞こえた。有り難くそれを聞いた王秀母子は天空に向かって感謝の礼を捧げた。
 翌日、王秀と母は黄金の像を砕いて金に換え、馬車を買って都へ乗り入れた。そして王秀は更に上級の進士に合格した。
 こうして王秀母子はそれから富貴な暮らしを過ごしたということである。           

             薛天智故事選                               00.4.16

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