竹 梅
昔、天津独流鎮の北の義永号胡同に、貧乏な盲目の老母と十六才になる娘の竹梅が住んでいた。まだ家に男手があった時ですら貧しく、まして残された老母と娘の暮らしは苦しく、やっと竹梅の針仕事で暮らしをたてていた。
こうしてどうにか暮らしていたのに、嫌な徳慶堂の金貸しが三日にあけず、借金の催促に来た、この借金は竹梅の父が死ぬ時に残っていた二三百文の借金に利子がついて、もう白く輝く銀二両になっていた。金貸しはきつい言葉で「父の借金は子が返す、これは昔からの決まりだ。元利の借金が期限までに返せないなら、お前を借金のかたに連れて行くぞ」と言うと、手を振り上げて帰って行った。 竹梅と老母はただ抱き合って泣くばかりであった、竹梅は死のうと思えば盲目の母をおいていかねばならず、死ねないと思えば金貸しの家に行かねばならない。竹梅は考えれば考える程、悲しくなるばかり、独りで灯りの前に真夜中まで座っていた。
すると、窓から「竹梅さん、早く戸を開けて」と人の声がした。竹梅が戸を開けてみると、美しい娘であった、娘は紅い服で紅い提燈をさげ、目を細めて笑いながら入って来ると、「どうしたの、泣いてばかりいて」と言った。竹梅は娘が優しく聞くので、涙を拭きながら金貸しから借金の催促をされていることを話した。すると紅い服の娘は竹梅を慰めて「いい方法があるから心配いらないわ」と言って、懐の白い絹の包みから一つの古い燭台をだし「明日これを南街の質屋に預けて、借金を返せるお金を借りたらいいわ」と言った。竹梅は古い燭台を受け取り「あなたの大恩は忘れません、どうぞお名前をお聞かせください」と礼を言うと、娘は笑いながら「紅い灯の胡二さんと呼んでちょうだい」と言い終わると、一筋の光りになって見えなくなった。この時、竹梅は狐の精に救われたのだと気がついた、狐の精が一筋の光りになって消えたあたりから、カン、カン、カン、と三つ音が響いた。
翌日、竹梅は古い燭台をたずさえて、独流鎮南街の質屋に行った。質屋の番頭はこれを見るや、前代の古宝とわかり、値は一城にもあたると見たが竹梅にいくら欲しいのか尋ねた。竹梅が借金にあたる銀二両と言うと、質屋の番頭は竹梅がもっと多い額を言い出すのを恐れ慌てて質札を書き銀二両を差し出した。竹梅は銀二両を持って金貸しの家に行き、借用書を返して貰い、借金を清算した、これで金貸しと竹梅の関係はなくなったわけだが金貸しは密かに、素寒貧な竹梅がどうして銀二両を何処から工面してきたのかと考えていると、召使が「旦那様、質屋の番頭によると竹梅は古い燭台を銀二両で質に入れたそうです、おまけに燭台はお城一つ分の価値があるそうです」と言った。
これを聞いた金貸しは悪い考えをおこして、召使に「お前、わしと一緒に竹梅の家に行って、わしが、その古い燭台は、わしの家の祖先から伝えられたもので、それをお前の父親が盗んだものだからその質札をよこせと言ってもしよこさなかったら、お前とわしで竹梅を殺してしまおう」と言って、夜になると召使を連れて竹梅の家に向かった。
その頃、竹梅は胡二と笑いながら話し合っていた、「あの古い燭台を、竹梅さんはどうしてもっと高く質入れしなかったの」と胡二が言うと、竹梅は「お姉さん、返すお金より多く質入れしても私には用がありませんもの」と言うと、それを聞いたは胡二はもっと竹梅が好きになって「竹梅さん、しばらくすると金貸しが、質札をよこせと言って来るからやってしまいなさい、そうしてあなたはお母さんを連れて胡家草原の私の家にしばらく、泊ってください、私は独りぽっちだから」と言うと竹梅はとても喜んで「どうやってお姉さんを訪ねればいいの」と聞くと、胡二は「この紅い提燈をさげて、胡家草原に来れば私の大きな屋敷が見えるわ」と言って先に帰った、間もなく金貸しがやって来たので竹梅は質札を金貸しにやってしまった。
金貸しは竹梅から質札をとりあげて、嬉しくて一晩眠れなかった。金貸しは質屋からうけだした古い燭台を皇帝に献上すれば、すぐ高官になり金儲けができると考えたからである。翌日朝早く、金貸しは古い燭台を質屋からうけだし、馬に乗って都に行った。金貸しは古い燭台を抱えて宮殿に入ると、皇帝はすぐそれが、一昨日、宮殿からなくなった国宝であることがわかり、これは金貸しが盗んだのだと、たちまち首を斬られてしまった。
狐狸精故事 1992,12,7