金花と王二

 金百万の娘の金花と使用人の牛飼いの王二は恋仲であった。でも誰も二人がどうして恋仲になったのか知らない。
 王二は村の中でも一、二の若者で金花とは本当に似合いで、王二に金があればとっくに夫婦になっていただろう、だが王二は目の見えない母親がいるだけで、戸締まりなしで三日空けても泥棒が目をつけそうな物もない貧乏暮らしで結婚できないでいた。

 そんなわけで金百万は娘の金花がしょっちゅう王二と会っているのを見て内心面白くはなかったが、表だってどうのこうのと金花に文句を言うこともなかった。
 金百万はその不満を王二にぶつけ、毎日、牛の世話はどうか、庭は綺麗に掃いてあるか、怠けていないかなど何かにつけて小言を言うのであった。若い血気のはやる王二はこんな苛めに我慢できず、何度も怒りを叩きつけて止めようとしたが、目の見えない老母と金花のことを思い、その怒りを胸の中におさめるしかなかった。
 それで王二は同じ使用人の仲間たちに「俺は今は貧乏で金百万に使われているが何時か何か拾い物をしたら止めるからな」と言っていた。

 さて、そんな思いでいた王二はその翌日、牛を追いながら道で何枚かの銅銭を拾った。王二はその銅銭を見ながら心の中で“俺は昨日拾い物をしたら止めると決心した、そしていま金を拾った、これは天が俺に止めろ、金百万の苛めをもう受けるなと言っているのかもしれない”と思い、これを機会にきっぱり止めようと考えた。

 王二がこのことを金百万に言うと,金百万は驚いて「お前、月末でも年の暮れでもないのに止めて何処で働くのだ」と言った、王二が「俺は拾い物したら何時でも止めると、みんなにきっぱり言ったんだ、これはみんな知っている筈だ」と言うと金百万は慌てて「お前、何を拾ったんだ」と聞いた。「聞かないでくれ、大事は洩らすなだ」王二はこう言うと口笛を吹きながら行ってしまった。

 金百万は金があるくせに、他人が銅の茶壺を持っていると知るともうやきもきする性格で、王二が何を拾ったのか分からないと、もうじっとしていられない、朝から晩まであれかこれかと疑ってみた。昔、ある人が山で金貨を拾ったことがあるというから、王二は金貨を拾ったのではないか、もしそうならこれは大変だ、金貨を王二独り占めにさせておくわけにはいかない、なんとかあいつを騙してやらねば、そうだこうしてやろうと女房に「王二の奴、何か宝物を拾ったらしい、お宝が王二の物になるなんて我慢できない、うちの金花を奴の嫁にやろう」と言った。

 女房はそれを聞くと、頭をでんでん太鼓のように振り「お前さん、金をふんだくることばかり考えてボケたんじゃないのかい、もし王二が何も拾っていないのに娘を嫁にやったらどうするのさ、そうすりゃ、わたしら取り返しのつかない大損をしてしまうよ」 「わしゃあ、金花にあいつの家を探らせようと思ったんだ。嫁にやらなきゃ、本当のことを探りだせないからな」
 すると女房は目を光らせ「まず娘を王二と婚約させて、金花を王二の家に何日か泊まらせ、その間に王二の母親から本当に王二が宝物を拾ったかどうか聞き出させればいいのよ、そうじゃないと分かったら破談にすればいい」 「ウン、それはいい考えだ」そこで金百万と女房はすぐ使用人に王二を呼びにやらせた。

 王二は金百万が手間賃の清算をしてくれるのかと思って行くと、金百万は「わしらはよく分かっている仲じゃないか、手間賃は秋になったら清算するよ、それより今日お前を呼んだのはもっと大事なことだ、わしらはここ数年、お前をとても情があると見ていた、そこで相談だがうちの娘の金花をお前の嫁にどうだい」と言った、王二は何か聞き違いかと思い、急いで「エッ、誰を俺の嫁にだって」と聞き返した。

 すると金百万はヘッヘッと笑いながら「わしの自慢の娘の村一番の金花だよ」と答えた、王二はもちろん大喜びであった。
 金花は父と母が王二の金を取るために王二と自分を婚約させ取れなければ破談にするというようなことをまさか考えているとは思っていなかった。金花は王二が拾ったのは一文銭だということを王二から聞いていたのである。金花は父と母の話が腑に落ちなかったが、とにかく目の見えない王二の母親の様子を見て来ようと思った。

 王二の家は山の麓の小さな茅葺きの家で、王二は家の周りに小石を混ぜた土をこねて人の半分ほどの高さの土塀を作っていた、普段は外で仕事をして家のことが出来ずにいるから、早く作ってしまおうと、この二三日は土に混ぜる小石を庭に運びこんでいた。ところがそこへ金百万から来てくれと言う知らせが来たので出かけ、金花との婚約の話を聞いたのである。

 金花が王二の家に行くと庭は小石と泥だらけ、家の中は散らかって足の踏み場もない。金花は急いで家の中を掃除し始めると、目の見えない王二の母親は涙を流して喜んだ。それから金花が庭に散らばった小石を片付けると、オヤ!光る物がある、よく見ると石の中に沢山の銀があるのだ、それを取り出すと箱の半分ほどになった。
  やがて王二が帰って来た。金花は王二に「この石は何処から拾って来たの」と聞いた、「これは家の後ろの溝から拾ったんだ、欲しいのかい」 「これは石じゃないわ、みんな銀よ、早く拾って来て」 「ほんと?」王二は喜んで飛び上がり、大きな箱を持って走って行き、しばらくして銀を箱一杯にして来た。

 王二は金花に「こんなに沢山の銀、どうしたんだろう?」と聞くと金花は「年寄りに聞くと、昔、此処で戦争があり軍隊が全滅したと言うからその軍隊の軍資金じゃないかしら。あたしの父があんたが宝物を拾ったと言っていたことが本当になったんだわ」 「金花、お父さんが早く帰って来いと言っていたよ」 「わかったわ、あたしが帰ったら、あんたはこの銀をみんな混ぜた土で塀を作っておいて」 金花はそう言うと銀を二個持って帰った。

 金百万は目を丸くして金花の帰りを待っていたが金花が帰るやいなや走り寄って「お前、王二のとこで何を見た?」と聞いた。「王二は土塀を作っているところで、こんな物が庭の中にゴロゴロしていたわ」と金花は二つの石を金百万の目の前に出した。なんと銀ではないか?金百万はとたんに目をギラギラさせ、慌てて「なんだって、王二の家の庭にこれがゴロゴロしてるって」 「そうよ、塀もみんなこれで出来てるわ」金百万これを聞いて、こりゃ大変だ、本当に王二の家にはそんなに銀があるのかと確かめに密に王二の家へ行き、そっと土塀を外からよく見ると、ア!確かに銀を積み上げて作った塀だ。

 これで金百万は間違いないと家へ帰り、女房に「早く仲人をたて、日を決めて金花を嫁にやろう」と言った。「お前さん、確かに分かったのかい」すると金百万は得意そうに「間違いあるもんか、わしらの娘は銀の中だ、ハハハ、今日からわしは王二の義父だ、あの銀は羽を生やしてわしの所に飛んで来るぞ」と言った。

 王二には何の結婚の用意もいらなかった。数日して金百万は娘の金花を赤い着物で嫁入りさせた。若い二人は天と地に誓いをたて、喜んで新居に枕入りした。

 ところが金百万の算盤勘定ははずれた。王二と金花はもう大部分の銀を貧しい村の人々に分け、村人は喜んで家を買い畑を買ていたのである。
 金百万には銀のおこぼれさえもなかった。それに金百万は王二が初めに拾ったのはただの一文銭で、銀を見つけたのは金花を嫁に決めたあとと分かり、悔しがって女房に「王二って奴は全くすごい奴だ“鶏の一本の羽も抜かない”と言うけちなわしから、たった一文で娘の金花を嫁にした」と言った。       

              譚振山故事選                             00.3.27

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