泥鰌と老夫婦
昔、新民県に“柳河は関羽廟を洪水にしない”という言い伝えがあった。なぜ柳河は関羽廟を洪水にしないのだろう。それにはこんな昔話があった。
年寄りたちの話によると、昔、関羽廟のあるあたりにたいそう賑やかな町があった。町の東に老夫婦の小さな茶店があり、この老夫婦の作る料理が美味しくて、此処を往来する旅人はみんなこの茶店に寄り、料理を食べたり酒を飲んだりして腹ごしらえをし、旅に疲れれば泊まったりもした。
けれども柳河が大雨で水が溢れればすぐ店は水に浸かってしまう、それはこのあたりの土地が低いからだ。老夫婦は柳河の水が出る度に店が水に浸かるのをとても苦にし、食べるのもそこそこにお金をため、それに備えてはいたが、また水が出て店が壊れ、お金が無駄になるのを恐れ店を大きくしようとはせず、二部屋の小さな茅葺きの店で商売をし、少ない客で暮らしをたてていた。
ある年の冬の晩、茶店に破れた着物を着た白い髭の老人がやって来て、料理と酒を注文すると、すみっこに座り声も出さずに飲んだり食べたりしていた。
しばらくして老人はそこに横になってスースー寝てしまい、老夫婦がどんなに揺すっても目を覚まさない、見ればだいぶ年を取った老人だし、外はもう暗くて寒いので老夫婦は老人を抱え暖かい火のそばに寝かし布団をかけてやった。
それからまた店に出てほかの客の注文をとった。
老夫婦は夜更けに店仕舞いをして片づけ、さて寝ようとするとさっきの老人の姿が見えない、老夫婦がかけた布団をはいでみるとなんと其処には真っ黒な泥鰌が寝ているではないか、老夫婦はとっさにあの白い髭の老人は泥鰌の精が化けたのだと悟り、きっと酒に酔って正体を現したのだと思った。
老夫婦は顔を見合わせて声も出ず、そっと其処を離れて次の間に行って寝た。真夜中になって、あの老人が「ご主人、わしは帰るから戸を開けてくだされ」と言うので老夫婦が起きてみると泥鰌の精はまたあの白い髭の老人の姿になっていた。
老夫婦は白い髭の老人に「外は雪で風も強いですよ、今夜はお泊まりなさい」と言うと、老人は「いいえ、わしは帰ります、家の者も心配していますから。それよりあなたたちは店をどうして大きくしないのです、そのほうが稼げるのに」と言った、老婦は溜め息をついて「本当のことを言うと私たちも店を大きくしたいと思っているのです、そのほうがお客も便利だし、私たちも稼げるのですから、でもどういうわけか柳河は一年に二三日は大水が出て店は壊れ、店を大きく建て直しても無駄になってしまうのです」と答えた。
すると白い髭の老人は「あなたたちはいい人だからきっと報われますよ、わしの言うことを信じて店を大きく建て直しなさい、これからは柳河から水が出ても此処は大水になりませんよ。お世話になりました、ではさようなら」と言って店を出て行った。
白い髭の老人が出て行った翌日から、老夫婦は半信半疑で店を大きく建て直した。それから店は繁盛して老夫婦は喜んで商売をした。不思議なことに夏になって柳河がまた大水になっても老夫婦の店は水に浸かることはなかった。
人々はこの地方が柳河の大水に遭わないことが分かり、みんな此処に引っ越して来るようになり、関羽廟も此処に建てられた。それから月日がたって、人々は“柳河は関羽廟を洪水にしない”と言い伝えるようになった。
譚振山故事選 00.3.20