生き返った行商人の妻
昔、ある所に行商人の妻がいた。夫は年がら年中、村から村を巡り、針、糸、おしろい、髪止めの細い紐など日常の小さな雑貨を売り歩いていた。夫は行った先で強い風や雨に遭えば宿に泊まり家に帰れないこともある。そんな時、妻は夫の父親と二人きりになる。
義父はもう年で何もできないから行商人の妻は家の事を一切やり、一日中すこしの暇もない。義父の洗濯物、縫い物、それに歯の抜けた義父には鶏、アヒルの卵を今日は蒸し焼き、明日は鶏卵のすまし汁、アヒルの卵の煮物と軟らかい料理を作り、時々は鶏をつぶして義父に栄養のある料理を食べさせるのだった。でも行商人の妻はそれらの料理を一口も食べなかった。ところが、こうした行商人の妻の義父への孝養は人に理解されず、却って“噂好き”が陰で「あの女房は義父とできている、そうでなければあんなに義父に尽くすわけがない」 「そうだ、きっとあの女房は淫らな事を……」と言いふらすのだった。
俗に“噂は足でなく、口で広がる”と言う、“噂好き”のお喋りは根となり枝となって村中に広がり、行商人の妻の耳にも入った。妻は身の冤罪を晴らす術もなく、聞いてくれる人もないまま生きる気を失い、裏の木に縄をかけ首を吊って死んだ。丁度この時、夫が行商の荷を担ぎゆらゆら揺らしながら帰って来た、見ると自分の家の門に人が群がっている、家に何か起きたのかと急いで行くと妻が死んでいるではないか、驚いて泣きながら荷を下ろすと、そばにいた人が「こんな女が死んで泣くことはない」と言うので夫は立ち上がりその人に「それはどういう意味だ」とつめよると、この人は村の噂を夫に聞かせた。行商人の夫はそれを聞いて「俺の妻はそんな妻ではない、嫁いで来てからずっと父に孝養を尽くしてくれた、妻の事は俺がよく知っている」とまた泣いた。
死人は泣いても生き返らない、行商人は親類縁者とともに死んだ妻に新しい着物を着せ、新しい靴を履かせた、すると妻は目をあけて立ち上がった。周りの人は驚いて「アッ」と声を上げると外へ逃げ出した、夫は「お前、死んだのでは……」と言いかけると死んだ妻は「わたしは死んで閻魔大王さまのところへ行ったのですが、大王さまは『お前のように義父に孝養をつくした妻を死なす事はできぬ、寿命を延ばしてやる。だがあの“噂好き”のお喋りがわしの所に来たら、その時は奴らの三寸の舌を抜いてやらねばならぬ』とおっしゃいました」と言った。行商人は生き返った妻を見て喜び、妻はそれからも義父に孝養を尽くしたと言うことである。
さて、あの“噂好き”の者たちはもう噂話をしなくなったが、早晩、閻魔大王に会わねばならず,その時、舌を抜かれる事を今でも恐れているとさ。
姜淑珍故事選 1999.12.31