白い牛

 趙長者には三人の夫人がいた。正夫人は金使いが荒く、言う事をくるくる変え、いかにも憎々しい顔つきをしている、第二夫人は何時もきつい言葉で文句ばかり言っている。だが、第三夫人はよく働く心の優しい人であった。  趙長者は道理、礼節のわかる人で、三人の夫人にもあれこれ言わぬよい人であった。

 ある時、趙長者は遠い旅に出る事になり、三人の夫人を呼んで「ちょっと、心配になるので言っておきたいのだが、聞いてくれ」と言うと、正夫人が「旦那さま、何ですか、何でも言って下さいな」と言った。「今回のわしの旅は遠く、何時帰るか分からない、わしが留守の間、三人仲よくやってくれるか」 「まあ、旦那さま、あたしが何でもうまくやっておきますよ、ほかの二人はあたしより若く、前から妹のようにみていたんだから、心配しないで行ってらっしゃい」すると二夫人は「わたしは正夫人、三夫人と言い争う事なんかなく、本当の姉妹よりもっと仲がいいんですから、安心して行ってらっしゃい」と言い、三夫人は「正夫人、二夫人はわたくしのお姉さまです、安心して行って下さいませ」と言った。

 趙長者は三人の夫人の話を聞くと、喜んで「よかった、よかった、お前たちが姉妹のように仲よくしてくれれば、わしは安心だ」と立ち上がると、「旦那さま、ほかにまだ何かありますか」と正夫人がまた聞いた、趙長者が「あることはある、わしが帰る時にお前たちは何を持って出迎えてくれるかな」と言うと二夫人が真っ先に「旦那さま、わたしはお帰りになるまでに旦那さまの金の縫い取りの礼服を作ってお待ちします」と答え、続いて正夫人が「旦那さま、あたしはお帰りまでに大きな薬草人参を用意して、お迎えいたします」と言った、妊娠三ヶ月だった三夫人は下を向いて顔を赤らめ「わたくしは旦那さまの大きな男の赤ちゃんを抱いてお迎えいたします」と言った、趙長者はそれを聞いた途端に目をほころばせて喜び、三夫人の前へ行って「お前の言葉通りに男の子が生まれれば、わしは煙草を止めるぞ」と叫んだ。

 だが、正夫人と二夫人は心の中では面白くなかった。話の終わった趙長者は馬に乗って、タッタッと出発した。三人の夫人たちは道に出て見送り趙長者の姿が見えなくなるとそれぞれの家へ戻った。 趙長者が出発したその晩、正夫人は二夫人の家へ行きお喋りした。正夫人が「あんたが着物、あたしが薬草人参で旦那を迎えても、あの人が生む子供にはかなわないね」と言うと、二夫人は「あの人が女の子を生めばまだいいけど、男の子だったら、わたしたちは旦那さまの前じゃ馬の尻尾、穴のあいた豆腐だわ」と言って黙ってしまった。

 二人は「どうしよう」と考えていたが、二夫人が正夫人の耳に小声で何か囁くと、正夫人は頷きながら「フン、フン、それがいいわ」と言って自分の家へ帰った。 それから、正夫人と二夫人は三夫人と仲よくしなくなった。ある日、正夫人と二夫人は三夫人が洗濯しているのを横目で見ると、二夫人は三夫人に「あんた、わたしも洗濯物があるんだけど、手が痛くて洗えないからあんた洗ってくれない」と言った、三夫人は“わたしは身重だが、二夫人に嫌な顔もできない”と考え「はい、洗いますから持って来て下さい」と言うと、正夫人も「三夫人、あたしも洗濯物があるのよ、一緒に洗って頂戴」と言った。

 しばらくすると二人は洗濯物の大きな包みを持って来た。三夫人は正夫人と二夫人に言葉を返すことができず、それを洗濯するしかなかった。しかも正夫人と二夫人は下男たちに「誰も三夫人に水を運んでやってはいけない、運んだ者は足を切る」と脅していた、驚いた下男たちは誰も三夫人のために水を運んでやろうとはしなかった。それで三夫人は一人で水を運び、正夫人と二夫人の洗濯物を洗った。三夫人は朝から日暮れまで洗濯してやっと終わらせた。正夫人と二夫人は“あんなに沢山の洗濯を水運びからすれば体の丈夫な者だって疲れるから、三夫人は流産してしまう”と考えていたのだ。

 しかし天の助けか、月満ちて三夫人は立派な男の子を生んだ。正夫人と二夫人は三夫人が本当に男の子を産んだと知って、サッと顔色を変え、目を赤く顔を青くした、二夫人はまたまた三夫人の悪口を並べたてると、正夫人は「悪口言ったってしょうがない、二人で何か考えなくっちゃ」と言い、目をグリグリさせて「あんた、こんなのはどう」と言うと、二夫人は「なになに、早く言ってよ」とせかした。正夫人が二夫人の耳元にクチャクチャ言うと「それはいいわ、誰にもわかりやしない」と二夫人が言った。

 こうして正夫人と二夫人はひそひそと相談してから、市場へ行き卵一篭と赤ん坊の着物を二着買い、二人は三夫人の処へ行った。「三夫人、あんた男の子で本当によかったね、あたしたちもあやかりたいわ、まあ、ふっくらと可愛いこと」 「お姉さま方、どうぞおかけになって」 「いいわ、また来るわ」 「この卵と着物は正夫人とあたしの気持ちよ」 「あたしと二夫人で、料理番にお粥、卵、魚の料理などをあんたに用意するように言っておくわ」三夫人は正夫人と二夫人の親切に「有り難うございます」と言うと「いいのよ、当たり前のことをしただけだから」と言って、正夫人と二夫人は行ってしまった。

 “虎の心は毛皮の向こう、人の心は腹の中、顔で心は分からない”と言う、三夫人は正夫人と二夫人に“イタチが鶏に新年の挨拶するような下心”があるとは思いもつかなかった、だが二人の“心”は蛇、サソリより毒があり、山犬、狼より獰猛なのだ。その日の午後、正夫人と二夫人はそっと三夫人の部屋の窓の下に隠れていて、三夫人が子供のオムツを干しに部屋を出ると、正夫人は北の窓から飛び込んで、寝ている子供を抱き上げ、窓の外にいる二夫人に渡して子供を盗み出し犬小屋へ置き去りにした。こうしておけば母犬は子犬を産んだばかりだから、子供を噛み殺すか、踏み殺すだろうと考えたのである。正夫人が二夫人に「これであたしたちの心配はなくなったわ」と言うと二夫人は「旦那さまが帰って来たら、あの人どんな顔するかしら」と言った。

 “悪事を働けば、心オドオド”と言う、正夫人は落ち着かず「あんた、子供が死んだかどうか見に行ってみよう」 「よしたほうがいいわ、人に見られたら台無しだわ」 「平気よ、二人で、犬に餌をやりに来た振りをすれば、わからないわよ」 「それならいいわ、行きましょう」と二夫人が言った、正夫人は欠けた素焼きの鉢に残飯をいれて持ち、二夫人はあとについて、もったいぶった格好で犬小屋へ餌を持って行った、ところが、二人が犬小屋へ行ってみると、なんと、母犬は男の子に乳を飲ませているではないか、正夫人は驚いて手が震え“バサッ”と素焼きの鉢を落としコナゴナにしてしまった、二夫人も驚いて「早くその子を殺さねば」と言った、正夫人は男の子を引きずりだし、歯を食いしばって絞め殺し、急いでその子を自分たちの家の後ろに埋めてしまった。

 さて、三夫人は乾かしたオムツを取り込み、子供に乳を飲ませようと家へ入ると、寝ていた赤ん坊がいない。一瞬目を疑い、アッと声をあげて泣き出した、「赤ちゃんが何処かへ行ってしまった、赤ちゃんがいない」三夫人は外へ飛び出して、こっちを探し、あっちを探したが何処にもいない、とうとう三夫人は地面に座り込み、口が聞けないほどに泣き叫んだ。正夫人も二夫人も出て来たが、何も知らないふりをして「あんたどうしたの」と聞いたが三夫人は泣き叫んで声がでない、そばにいた使用人が「三夫人の赤ちゃんがいなくなったのです」と言った、「何処へ行ったの」 「誰かが窓から赤ちゃんを盗んで逃げたのです」すると正夫人と二夫人は「どんな悪い奴がしたのだろう」と悲しそなふりをして無理に涙をポトリと絞り出した。

 そしてしばらくすると二人は冷たい意地悪な事を言いだした、「あたしはお前を苛めるわけではないが、お前がよく見てないから、こんな大変なことになったんだ、そうでなければ赤ん坊がいなくなるわけないじゃないか」 「あんた、あたしもそう思うよ、あんたは旦那さまの前ではいい顔してるんだから、子供がいなくなって丁度よかったよ、あんたが旦那さまの前でどんな顔するか見たいもんだ」 「そうさ、お前は旦那さまの世継ぎの子をなくした罪人だ、明日から罪滅ぼしに粉挽小屋で石臼を挽きな」と正夫人と二夫人に言われた三夫人はそれから粗末な物を食べ、ボロを着て、毎日毎日、粉挽小屋で石臼を挽かなければならなかった。               

 さて、何日かすると、正夫人と二夫人が赤ん坊を埋めた地面からひとかたまりの若草が生え、飼っている牝牛がこの若草を食べると、お腹がだんだん大きくなってやがて一頭の白い子牛を産んだ。子牛は可愛い鼻と眼をして人なつっこく、誰でもこの子牛は本当に可愛いと言った。子牛は三夫人を見るとすぐ走って来て体をよせ、頭を三夫人にこすりつけたりしたが、正夫人と二夫人を見ると脇を見て行ってしまう、二夫人は子牛の後ろから指さして「あの子牛は本当に癪にさわる、あたしたちを見るとすぐ逃げ、三夫人の奴を見るとあんなに甘える」と正夫人に言った。
 「ただの畜生なんぞに怒ってもしょうがない、それより子牛を大きくして、旦那さまが帰って来たとき褒めて貰えばいい」 「そうね、あたしたちは子牛を大きくすることに気を使えばいいわ」と二人は話し合い、牝牛の乳の出が悪いなどと言って、わざと気遣いするふりをしていたが、子牛は大きく育った。

 ある日、子牛は三夫人が粉挽小屋で石臼を回しているのを見ると、小屋の中に入って来て三夫人をどかし、石臼の柁を頭で押して、石臼をゴロゴロと回し始めた。三夫人はびっくり、“この子牛はわたしに替わって石臼を挽いてくれるのか”と思った。それから子牛は毎日、粉挽小屋へ来て三夫人に替わって石臼を挽いた。

 ある日、正夫人と二夫人が粉挽小屋の前を通りかかると、ゴロゴロ、石臼を挽く音がする、三夫人の奴まだ石臼を挽く力があるのかと、戸の隙間から覗いて見ると、ア!子牛が三夫人に替わって石臼を挽いているではないか、正夫人と二夫人は怒って棍棒を持って小屋に入り、子牛をパンパン叩いて、追い出してしまった、二夫人が「おかしくないですか、牛があの三夫人を憐れんで替わりに臼を挽いてるなんて」と言うと正夫人は「牛とあいつを藤蔓でつなぎ、旦那が帰っても許しやしない」と言った。

 そう言っていると、本当に趙長者が馬に乗り数人の供を従えて帰って来た。長者が屋敷の庭へ入ると正夫人と二夫人は畏まって迎えた、長者は満面に笑みをうかべて部屋に入り、家の者と団欒した、正夫人は重さ八両もある大きな薬草人参を持ち、二夫人は箪笥から金の縫い取りの礼服を取り出した。長者は三夫人がいないので「三夫人はどうした」と聞いた、正夫人が「旦那さまが行ってから、どうしたのかわかりませんが、髪を乱し、まるで魂を失ったように粉挽小屋に坐っています」と答えた、すると二夫人が素早く「旦那さま、三夫人は男の子を産むとろくに世話もしないから赤ん坊がいなくなり、面目なくて来られないんです」と口をはさんだ。長者はそれを聞くとがっかりして眉をひそめ半日口をきかなかった。

 正夫人と二夫人は心の中で密かに“旦那さまはきっと三夫人を許さず殺すだろう”と思っていた。しかし、長者はしばらくすると召使いに「粉挽小屋へ行って、三夫人を抱えて来てくれ」と言いつけた。粉挽小屋から召使いに抱えられて来た三夫人は長者の前にペタリと座るとただ涙をとめどもなく流した、「どこか、悪いのか」と長者が聞くと、三夫人は頭を振った、「なぜ泣く」 「わたくしは旦那さまがお出かけになる時、可愛い男の子を抱いてお迎えすると申しましたのに、可愛い子を亡くしてしまったのです」 「亡くなったのなら仕方がない、泣くな、わしはお前を責めはしない、さあ、立ちなさい」と長者が言うと、正夫人と二夫人は心の中で長者が三夫人を咎めないのが癪にさわったが口ではそれ以上言うことは出来なかった。

 白い子牛は長者が帰ってからは長者の部屋の窓の下にうずくまり、長者が外に出ると後について舌で舐めたり口先で着物の襟を引っ張ったりして甘えた。正夫人と二夫人は長者が子牛を可愛がるの見ると「この牛はあたしたちが大きく育て…… と言ったが言いおわらないうちに子牛は二人に尻を向け、逃げてしまった。正夫人は口惜しがって「死んでしまえ、あたしが大きくしてやったのに」と言い、二夫人は「このくたばりぞこない、明日お前を捕まえて殺してやるからね」と言って家に入り、また二人でお喋りした。正夫人が「あの牛はもう許せない、なんとかあの牛を殺す法を考えよう」と言うと二夫人は「でも、あの牛はあたしたちを見るとすぐ逃げてしまうから、うまく殺せるかしら」 「殺せるわよ」と正夫人が言った。

 その夜、正夫人と二夫人は二十両の銀貨をある医者に渡し、牛を殺すことを話した、医者は銀貨を見るとすぐそれを承知した。翌日、正夫人と二夫人は二人とも仮病を使い床に臥せて起きない。長者は二人が何の病気か分からず、すぐ医者を呼ばせた。二人は医者と通じているから大きな声で呻いた、すると医者は脈を診るふりをしながらわざと驚いて、長者に「旦那さま、お二人の病気は軽くありません」と言うと長者は慌てて「どんな薬を飲ませればいいかね」と医者に聞いた、医者はしばらく頭を下げて考えるふりをすると「薬より民間療法が早く治ります」 「どんな療法だ」 「子牛の心臓を食べるのです」 「それはわけない、買って来よう」二人の夫人はそれを聞くと、「旦那さま、買うのはもったいないです、飼っているあの牛の心臓でいいです」と言った。

 医者は二人の言葉の意味は分かっていた。長者はあの牛は人になついているが、所詮は畜生だからと承知して「よし、よし、わしの妻の病気が早く治るなら内のあの牛を殺そう」と、長者が刀を持って外に出ると、子牛は長者の前に座り両眼から涙を流した。さっきの話を牛はみんな聞いていたのだ。長者は可哀想になり「お前なぜ泣くのだ、人の心が分かるのか、もし本当に分かるなら三回頷いてくれ」と言うと牛は本当に頷いた。長者はますます可哀想になって「泣くな、わしはお前を殺しはしない、早く逃げろ」と言うと、牛は立ち上がって煙りのように逃げて行った。
 長者は刀を下げてひとしきり追いかけ、牛の姿が見えなくなると、市場へ行って銀貨十両で豚の心臓を買い家へ帰った。長者は正夫人と二夫人に「牛は逃げ足が速くて、わしは遠くまで追いかけやっと捕まえ、大変な思いで牛を殺した。さあこれを料理して民間療法をしろ」と言い、豚の心臓を差し出すと、正夫人と二夫人は長者が手にした血の滴る心臓を見て、そのすさまじさにあられもない叫び声を上げた。

 さて、長者に逃がされた牛は走りに走り、ある賑やかな村に着いた。道端に座り足を休めぼんやりあたりを眺めていると、前から女中を連れた娘が来た、うるんだ目、柳の葉のような細い眉、頬のあたりは蓮の花にようなそれはそれは美しい娘であった。娘はこの村の劉長者の娘で二九の十八歳。今日は女中を連れて気晴らしに来たのだ。
 女中が道端に座った牛を見つけ「お嬢さん、前の方に可愛い牛がいますよ」と指さした。娘は女中にうながされて牛の前に立つと牛は人なつっこそうにした、女中は面白がって「お嬢さん、わたしとお嬢さんの絹の布をこの牛に投げ、どちらの布が牛の頭にのるか遊んでみません。布が牛の頭にのった方が牛のお嫁さんになるんです」 「いいわ、じゃあ、お前、先に投げてごらん」そこで女中が自分の絹の布を七、八回牛に向けて投げたが投げるたびに、牛の頭の左や右、前や後に落ちてどうしても牛の頭にはのらない、娘の番になって、娘が絹の布を投げると、不思議や娘の絹の布は一度で牛の頭にのった。

 それを見た女中は手を叩いて面白がり「お嬢様に牛のお婿さんができた、牛のお婿さんができた」と言い、娘と女中は笑いころげた。女中はふざけて牛に「内のお嬢様がお前のお嫁さんになって上げるよ、嬉しいかい」と言うと、牛は立ち上がって二人に向かい三度頷いた、これには娘も女中もびっくりして逃げ出すと、牛も後からついて来た、家に着き、大急ぎで門を閉めたが牛は門を推して入って来た、驚いた娘は女中と手をつないで家の中に入り、もう部屋から出ようとしなかった。

 その晩、娘は床についたが、女中と二人で牛に絹の布をかけ合った昼間の遊びを思い出してなかなか眠れず、うつらうつらしていると、あの牛が眉目秀麗な青年に変わった夢を見て嬉しくなり目を覚ました。そしてあの牛があんな青年なら夢でも結婚したいと考えていると、部屋の中に人の気配がするので思わず「だれ」と叫ぶと「誰だと思いますか、あなたがさっき見た夢の青年がわたしです」と答えが返ってきた。

 娘はびっくりして灯りをつけてみると、あの牛が目の前にいて、クルッと回ると夢の中のあの眉目秀麗な青年に変わった。娘は美しい目をパチパチさせ、下を向き顔を赤くして「あなたはこんなに立派なお方なのに、どうして牛になっているのですか」と聞くと、青年はため息をついて「わたしは本当は人間なのですが、獣のような悪人に殺されて、牛にならなければ、生きられなかったのです」と言い、自分の身の上話を一通りした。娘は牛の話を聞くと涙を流し、涙を拭いてはまた流した。すると牛は「わたしたち二人は縁があったのです夫婦になりませんか」と言うと、娘は涙を拭きながら「いいわ、いいわ」と言った。

 翌日、娘は女中と牛に絹の布をかけ合ったこと、その牛がたくましい青年に変わったこと、その青年と結婚の約束をしたことを父親に話した。劉長者はそれを聞くと火のように怒り「駄目だ、お前は我が家の大事な娘だ、牛の嫁になぞやれない」といろいろ反対したが、牛から変わった青年が娘の寝間に入ったと噂になっても困ると考え「お前が決めたのなら、そうしろ」と言った。こうして、その夜、牛は青年に変わり、娘は美しく化粧し、二人は手を取り合って新居に入って結婚した。夜になると牛は皮を脱いで青年になり、昼はまた牛に変わった。劉長者は二人が仲よく暮らすのを見るともう何も言わなかった。

 しばらくして、劉長者は突然、病気になり死んでしまった。ところが、その日の午後、使いの人が手紙を持って劉長者を訪ねて来た、娘が受け取り封を切ると、それは生前の父の古い友達の趙長者の五十歳の祝いの招待状であった。娘は生前の父の友人だからと「きっと行きます」と答えた。

 その日、白牛は青年に変わり、娘と駕籠に乗って趙長者の祝賀に行った。二人が行った趙長者の家は正にあの白牛の生まれた家だったのだ。趙長者の祝いに来た人々は話したり笑ったりして酒を飲み料理を食べていた。娘と白牛の青年は召使いに案内されて趙長者の前に出た、趙長者は「わしの賢弟は元気かね」と聞いた、娘は「今日、父はあなた様の長寿の祝いに来られず心を痛めています。ご心配いただき有り難うございます、このところ父は年をとりまして健康がすぐれず、わたしたち夫婦が父に代わりお祝いに参りました」 「それは、それは、明日にでもわしは賢弟に会いに行きましょう」と趙長者は答えた。

 やがてまた召使いが料理を運んで来て客人たちも席についた。「あなたたちと、わしとわしの三人の妻は同じ食卓でいいですか」と趙長者が言うと、白牛の青年はすぐ「結構です」と言った、そこで夫婦と趙長者、長者の三人の妻は同じ食卓を囲んで喜んで食べたり飲んだりした。しばらくして青年は立ち上がり趙長者の杯に酒を注いで祝い「みなさんの慰みに、私が昔話を語りましょう」と言った。正夫人も二夫人もこの青年があの白牛だったとは知らないから、「それはいいわ、早く語って、わたしたちは昔話が大好きよ」と答えた、白牛の青年は顔を趙長者に向け「あなたもお聞きになりますか」と言った。「聞きたい、聞きたい」 「それでは語りましょう」と白牛の青年は語り始めた。
「昔、ある長者とその三人の妻がいました。ある時、長者が遠く旅に出ることになり、長者は三人の妻に『わしが帰って来る時に、何を持って迎えてくれるかね』と聞きました、すると真っ先に第二妻が『あたしは金の縫い取りの礼服』と言い、次に正妻が『あたしは大きな薬用人参』と言いました、第三妻は『わたくしは旦那さまの太った男の子を抱いてお迎えします』と言いました。それを聞いて長者は安心して旅に出ました、やがて第三妻は男の子を生みました…… 」

 青年がここまで語ると正夫人と二夫人は立ったり座ったり、まるで熱い鍋の上の蟻のように落ち着かず、正夫人は「あんたもうやめてお酒を飲みなさい」と言った、だが趙長者はじっと聞き入っていて「お前たちが聞きたくなくてもわしが聞きたい、続けてくれ」と言った。すると青年は「では、続けましょう、第三妻が男の子を生みますと、正妻と第二妻はそれを恨んで赤ん坊を殺そうと相談し、男の子を盗みだし、犬小屋に捨ててから子供を絞め殺し家の裏に埋めました。すると埋めた処に草が芽をだしその草を母牛が食べ白い子牛を産みました。正妻と第二妻はこの牛を長者に殺させ、その牛の心臓を民間療法に役立てようと… 」

 そこまで 聞くと正夫人と二夫人は、たまらなくなって立ち上がり「やめて、やめて、お酒を飲みなさい」と言うと趙長者が「聞かないなら、お前らは下がれ」と言ったので、もう正夫人と二夫人は何も言わなかった、「で、その長者は子牛を殺したのか」と言うと、青年は続けて「いいえ、長者は刀を下げ、子牛を捕まえようとすると、子牛は涙を流すので長者は可哀想になり、子牛を逃がしました」と言うと、趙長者は「その牛はまだ生きているかね」 「生きています」 「何処に!」 「遠くは天に、近くは目の前、あなたのそばに」趙長者は周りを見て「何処だ?」 「見たいですか?」と言うと青年は娘の持った包みから牛の皮を出すと、それを被り白い牛に変わった。

 趙長者が見るとその白い牛はあの時の牛と同じであった、「この牛はわしが逃がした牛だ、お前はわしの息子だ」白い牛はクルリと回るとまたもとの青年に変わり、父の趙長者と抱き合って泣き、母の三夫人の胸にすがって泣いた。
 趙長者は怒り、正夫人と二夫人を成敗しょうと刀を取ったが、もう正夫人と二夫人の姿はなかった。屋敷を捜すと二人は梁に縄をかけ首を吊って死に閻魔大王の処へ行ってしまったあとだった。      

              姜淑珍故事選                               1999.12.15

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