九頭鳥
昔、石義という若者がいた、母と二人暮らしで柴を売って生活していた。石義は孝行者で、ずっと母と一緒に暮らし何でも母の言う通りにした。そして美味しいものは母に食べさせ、山で山菜を摘めば家へ持ち帰り母に食べさせた。こうして石義と母は互いに寄り添うように暮らしていた。
ある日、石義は街で柴をみんな売って家へ帰る途中、乞食のお婆さんに出会った。ボロボロな着物を着て、杖をつき汚い籠を提げていた。石義はお婆さんが可哀相になって家へ連れて帰り、母と相談して家へおいてやることにした。それから石義は山で柴をとり、それを街で売って米を買い、老母と老婆と三人で暮らした。
やがて乞食の老婆も石義の家にとけこみ、石義母子もこの老婆を優しく世話した。
ある日、家でいろいろ喋ったあと、老婆は石義に「あんたたち母子はとてもいい人だし、あんたも親孝行だ、それでわしはあんたに話しておきたいことがあるのだが、きっと、わしの言う通りにしておくれ」と言った、石義が「お婆さんは私のおっかさんと同じです、どんなことでも話してください」と言うと老婆は「わしはここに長くいたが、もう行くことにする、わしが行ったら、あんた、廟の前の石の獅子を何時も見ていて、ある日、石の獅子の目が赤くなったら、この村は洪水になり人々は災難をうける、だが、あんたたち母子はこの船に乗れば助かる」と言って高粱の皮で出来た小さな船を懐から出して、石義に「この村が洪水になったらこの船を水に浮かべ、それに乗れば大丈夫だ、その時、何を救っていいが、人間だけは決して助けてはいけない」と言うと、老婆の姿は消えた。
石義母子は、ア−これは神様ではないかと、慌てて跪き天を拝んだ。
それから石義は山へ柴を刈りに行く度に廟の石の獅子の目を見た。ある日、石の獅子の目が赤くなった、石義は急いで家へ帰り母に告げ、それから隣近所にも洪水になると知らせた、しかし誰も信じない。それでも石義母子はあの老婆に言われた通りに逃げる準備をした。
すると不思議、晴れていた空の西北に雲が出ると、雲はどんどんひろがり黒くなり、続いて雨が降って雷が鳴った。雨は激しく何日も続き、水が溢れ村は水の中に沈んだ。石義母子は老婆に言われた通りにあの小さな船を水に浮かべると、小さな船はみるまに風船のように膨らみ、一艘の大きな木の船になった、母子は鍋、釜、皿、茶碗などをを船に運び、米や柴も積むと、船は水の中に漂い始めた。
船が漂流していると蟻の巣が流れて来た、石義は蟻の巣を笊で船に掬いあげてやった。するとまた蜂の巣が流れて来たのでこれも掬いあげ、次に蜘蛛が流れて来るとそれも助けた。船がまた漂流して行くと「助けてくれ、助けてくれ」と人が叫んでいる、石義は助けようと思ったが、決して人を助けてはいけないと言う老婆の言葉を思い出していた、母は「お前、どうして人を助けないの」と言ったが石義は「おっかさん、あのお婆さんが言い残したことを忘れたのかい」と言った、母は石義が何を言っても聞かず、石義に人を助けるように言った、親孝行な石義は母の言う通りこの人を船に助けた。名前を聞くと王恩と言い、洪水になり、家が沈んでしまったのだと言った。こうして王恩は石義に助けられた。
やがてゆっくりと水が引き、石義母子は掘っ立て小屋を作ってそこに住むことにした。さて、王恩は石義母子の船に助けられはしたが、家もなければ家族もなく、石義母子が命の恩人になったので、王恩は石義母子に叩頭の礼を尽くして、義母義兄弟の縁を結んだ。王恩は石義より一歳年上で義兄となり、石義が義弟になった。こうして義母子三人、義兄弟は山で柴を刈り、母は家で食事を作り、無事に暮らしていった。
ある日、義兄弟が山で柴を刈っていると、西北の空から一陣の風とともに「助けて−、助けて−」と声がした、石義が上を見ると一羽の鷹のような大きな鳥が人をくわえて飛んで行く、とっさに石義が鎌を投げつけると何かが落ちた、拾ってみると女の靴、地面には血が点々と滴っていたが、大鷹はそのまま女の人をくわえて飛び去った、義兄弟が血の跡をたどって行くと、大きな山に突き当たり、大きな青い石があって血はそこで消えていた。二人でその石を退けると、下に暗い穴が続いていたが、そのまま家へ帰った。
しばらくして、皇帝の王女が妖精にさらわれ皇帝が都の至る所に、皇女のいる所を知らせた者には恩賞、皇女を助け出した者には王女と結婚させると高札をだした。母は「お前、人助けをしないのかい」と言った、石義は“そうだ、王女と結婚できるかどうかではない、人を助けることは大事なことだ”と考え、王恩と相談すると王恩も同意した。
義兄弟は長い縄、大きなもっこなどを持ってあの山の穴に行き、二人で穴の上の青い石を退けて穴を覗くとどれだけ深いか分からない。どうしようかと考え、一人が上にいて縄を持ち、一人がもっこに乗って下に降りることにした。そして鳩を二羽持ち穴の底に着いたら一羽を放し、穴を出るときは二羽目の鳩を放して、もっこを上に引き上げることにした。しかし、誰が穴へ入るのか決めなければならない、石義は王恩が入りたがらないので、「義兄さん、俺が降りる、もし俺が帰らなかったら、あとは義兄さんがおっかさんの世話をしてくれ」と言い、石義はもっこに乗って真っ直ぐ下に、わからないほど深く降り、穴の底に着くと鳩を放し、王恩に底に着いたことを知らせた。
さて、王恩はおき、石義はどうしたか。石義が穴の底に着くと真っ暗で何も見えない、手探りで這って行くと、前が明るくなり進めば進むほど広くなり、更に進むと小さな川があり、悲しそうな顔をした娘が何か洗っていた。見ると靴は片方しか履いていない。
石義が事情を聞くとあの大鷹にさらわれた王女だと分かり、あの時、石義が大鷹に鎌を投げると靴が落ちてきたことを話した、王女はそれを聞くと「あの日の人はあなただったのですか、有難うございました。あなたの投げた鎌で大鷹は傷を負い、今養生していますが、傷が治ったらわたしと結婚すると言っています。大鷹は九つの頭で、真ん中の頭の周りに八つの頭があり、周りの頭を斬ってもまた生えてきます、真ん中の頭を斬れば妖精は死にます」と言い、王女はわたしが九頭妖に薬を飲ませると九頭妖は眠むる、その時、王女が九頭妖の真ん中の頭を指さすから石義がその首を斬ればいいと言った。
こうして王女は九頭妖に薬を飲ませに戻り、石義はそっと王女について行った、薬を飲むと九頭妖は眠むった、王女は石義に目配せして九頭妖の真ん中の頭をさすと、石義はすかさずその頭を斬った、九頭妖は死にものぐるいにもだえると息絶えた。
石義は王女を連れて穴を這い、あのもっこを置いた所に引き返した、しかしもっこには一人しか座れない、それに二人では重くて引き上げられない、石義は王女に先に乗れと言ったが王女は石義が先にと言った、石義が何度も王女に先に乗れと勧めると王女は「あなたはわたしの命を救ってくれたのに、わたしはあなたに恩返しができません、どうかこれを受け取ってください」と言って着物の裾を半分切って石義に渡した。「わたしはこれを持っている人が、たとえ乞食でも結婚します、これを持っていない人とはどんな高官でもわたしは結婚しません」と言った。石義は王女の手をとってもっこに乗せた、そして二羽目の鳩を飛ばして王恩に知らせた。
王恩は二羽目の鳩が穴から飛び出すと石義が帰って来たともっこを引き上げた、やっと引き上げてみると美しい娘が乗っている、王恩は石義がまだ穴の底にいるとわかると、悪心を起こし、王女を助け都へつれて行けば、王女と結婚でき一生涯栄燿栄華を極められると考え、王女に「一緒に都へ行きましょう」と言った。王女がまだ穴の中に石義がいると言ったが、王恩はうむを言わせず、縄ともっこを穴へ投げ込み穴の口にまた青い石をかぶせ、むりやり王女を連れて逃げた。
さて、石義は穴の下で待っていたが何の気配もない、しばらくすると縄ともっこが落ちて来た、アッ、これでは穴の外に出られなくなってしまう、ぐずぐずしていたら九頭妖が息をふき返すかもしれない、しかしともかく引き返すしかないと這って何とかまたもとの明るい所に戻ると「石義さん、石義さん」と呼ぶ声がする、石義はあたりを見たが人はいない、しばらくするとまた呼ぶ、上を見ると白い龍が釘で打ちつけられていた。
石義は「いま俺を呼んだのはお前か」と聞くと白い龍は頷いた「石義さん、助けてください」 「どうすればいいのだ」 「この釘を抜いてくれればいいのです」石義は上へ登って釘を抜いた、すると龍は見えなくなり、すぐ後ろから人の声がした「石義さん、どうも有難う、命の恩人です」振り向いてみると若者が石義にお辞儀をしている、石義が驚いていると、この若者は「わたしは小白龍です、九頭妖の法術にかかったのです、二人でここから逃げましょう」 「でも穴の上に出られなくなった」 「大丈夫です、わたしの肩に掴まって目を閉じてください、わたしが目を開けてと言ったら目を開けて下さい」石義が小白龍の背中に乗ると、しばらく耳に風の音がしていたが穴の外に出られた。
石義は義兄を捜そうとすると、小白龍は「捜しても無駄です、王恩は恩を忘れ王女を連れて都へ逃げました」と言った。石義はしかたなく小白龍と別れて家へ帰った。家へ帰り母に王女を助けたこと、王恩に騙されたこと、それを小白龍に助けられたことなど一部始終を話し、都の王女を尋ねることを話すと母も喜んで承知した、こうして石義はまた母に別れて都へ行った。
石義は都に着くとすぐ皇宮へ行き、自分が王女を助けたことを伝えた、しかし、王女を助けた者はもう王女を連れて都へ来ている、いったいどちらが本当なのか。王女も九頭妖の穴から出て来たこと、結婚のことなどを話さないから、誰もはっきりしたことがわからない。
そこで皇帝はそれぞれ四十斤の粟の粒と紫蘇の実を混ぜ、それを王恩と石義に与え一晩のうちに、粟と紫蘇の実を分けた者を王女の婿にすると言った、王恩と石義は粟と紫蘇の実が混ぜられた袋を背負い部屋に入った。王恩は王女の婿になりたいので、急いで一粒一粒粟と紫蘇の実を分け始めた。
しかし石義は困ってただ座っていた、真夜中になると無数の蟻が入って来て石義の粟と紫蘇の実を夜明け前に綺麗に分け石義が勝ったが、王恩は負けを認めず、どうしても自分が婿になるべきだと言った。そこで皇帝は明日十二の車を宮殿の前に並べ、王女の乗った車を当てた者を婿にすると命じた。これは難問である、また困った石義は部屋で居眠りしていると、ブ−ン、ブ−ンと音がする、よく聞いていると「石義さん、明日車の上に蜜蜂がいればその車に王女が乗った車です」と言っている、これは蜜蜂が恩返しに知らせてくれたのだ。
翌日宮殿の前に十二の花の車が並んだ、同じ色で同じ形の車、車引きの男の恰好まで同じである、王恩ははずれると婿になれないから当てようとしない。石義は上に蜜蜂が飛ぶ車を見つけそれを当てた。だが王恩はまた婿になるのは自分だと主張した。そこでまた皇帝は天、地、水の宮殿、六神の中庭にある十数棟のどの屋敷に王女がいるかを王恩と石義に当てさせ、当てた者を王女の婿にすると言った、そんなに多くの屋敷の何処へ王女を捜しに行ったらいいのか。石義はまた困ってぼんやり居眠りしながら「石義さん、表門に蜘蛛の巣がある屋敷にきっと王女がいます」と大きな蜘蛛が教えてくれる夢を見た。
翌日宮廷に行った王恩はある屋敷の門に蜘蛛の巣があるの見たが、これは長く人が住んでいないからだ、ここに王女はいない、もっと綺麗な屋敷に王女は住んでいると通り過ぎた。石義は蜘蛛の巣がある屋敷を見ると、昨日の夢を思い出し、この屋敷に王女がいると当てた。
それを知ると王女は皇帝に「父上、わたしを救ってくれた人はわたしが贈った物を持っています、二人のどちらかそれを持っている人がわたしを救ってくれた人です」と言った、王恩に聞くと「ない」と言う、石義は「ある」と言って、半分に切った着物の裾を差し出した、王女が手に取ると正しく王女が石義に贈った物だった、すぐそれは皇帝に伝えられ、石義と王女は会い、王恩が石義を陥れ、どうして嘘を言ったのかは明白になり、皇帝は怒り、王恩は宮廷の正門で殺された。
その後で石義と王女は結婚した。石義の母は都に迎えられ、幸せに暮らした。
中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻上 1999.5.13