避風珠

 昔、山の中の草房に住んで猟をする兄弟がいた。兄弟はもう長い間、この山のあちこちで猟をしていたから、獲物も少なくなって、そろそろ猟場を変えようと考えていた。
 ある日、弟は山へ行き、兄は残って家の中を片付け、明日、ここを離れる支度をしていると昼ごろ、真っ黒な顔で小さな三角の目をした怪人が魚網を肩に掛けてやって来ると、草房をひと周りして、何も言わずに行ってしまった。
 夜になって弟が帰って来ると、兄は昼間の怪人の話をし「悪者かも知れないから今晩はここに寝ずに、見張っていよう」と言った。「どうしよう」 「火縄銃を持って家の前の木に登って、奴が来るか来ないか見張り、来たら何をするか見よう、俺が銃を射つまで、お前も射つな」 「わかった」

 こうして兄弟は準備をすると、兄は東側の木に登り、弟は西側の木に登って見張っていた、果たして真夜中に怪人が来て草房の前に立ち、無言のまま、あの魚網をパッと草房にかぶせた、兄はこれを見ると怪人めがけて銃を放った、すると怪人は叫び声をあげ火の玉となって消えた。
 兄と弟は木から下りたが草房は怪人に倒されていたので、野宿して夜を明かした。朝になって見ると草房の前に血の跡がある、兄弟は荷物を持ち、あの怪人はいったい何者であろうと血の跡をたどった。

 兄弟は血の跡をたどり、二つの山を越えると、崖の下に洞穴があり、そこで血の跡がなくなった。洞穴は上にも下にもつながり、どれだけ深いか分からない。兄は弟を叢に隠れさせ、大きな石を持って来ると洞穴に投げ込み、洞穴の陰に隠れ様子を見ていた。
 しばらくすると、洞穴から大きな蜘蛛が出て来て、四方を見回しまた洞穴に引っ込んだ、兄はまたさっきより大きな石を洞穴へ投げ込み陰に隠れた、しばらくすると、またさっきより大きな蜘蛛が洞穴から現れて四方を見回し、何もないと思ったのかまた洞穴に引き返した。
 兄弟はまたしばらく待っていたが、何事も起こらない。そこでまた兄弟はもっと大きな石を転がして来ると、また洞穴へ投げ込み、叢の陰に隠れて見ていた。またしばらくすると更に大きな蜘蛛が出て来ると、口から一つの珠を出し洞穴の前に置いて洞穴へ戻った。

 これはどういう事かというと、兄弟が銃で射ったのは蜘蛛の精で、蜘蛛は巣の網で兄弟を捕らえ、食べようとしたのだが、反対に兄弟に銃で射たれ傷を負い、洞穴の巣に帰り傷の養生をしていたのだ。ところが洞穴に幾つも石が落ちて来るので蜘蛛は石が大風に吹かれて飛んで来るのだと思い込み、風を避ける避風珠を洞穴の入り口に置いたのだ。兄弟はこの珠を素晴らしい珠だと思い、そうっと持って山を下った。

 兄弟は帰る途中で、大きな河を渡ることになった。河には多くの渡し船が行ったり来りしている、兄弟も一艘の渡し船に乗った。ところが外の渡し船が何艘も河の真ん中にさしかかると、大風が巻き起こり、一天俄かにかき曇り、地面は暗くなって、白浪が立ち、どの船も風と浪に翻弄され、どんどん沈んでしまった。だが、兄弟の乗った船は全く揺れず、穏やかに、少しの風もないように進んだ、これを見た船頭は「この船にはきっと宝の珠があるに違いない」と言って、客に一人ずつ何かの珠を持っていないかと尋ねた、兄弟はあの珠を出して、どうして手に入れたかも話した。

 すると船頭は喜んで「それは避風珠だ、これがあればどんな大風でも恐ろしくはない、今日わしらにもしこの避風珠がなければ、外の船と同じように河の底に沈んでいたろう、この珠はあんたたちが持っていてもたいして役に立たないだろう、わしに売ってくれるなら、幾らでも買う」と船頭が言った、兄弟は船頭に「わしら兄弟は家もなければ、仕事もない、もしわしらと三人船頭衆になって渡し船を稼業にすれば、儲けは三人等分にするのがどうだろう」と言った、すると船頭は「それはとてもいい事だ」と言って、避風珠を帆柱にくくりつけ三人は同じ船の船頭衆になった。
 それから三人の船には避風珠があるので、河を渡る人々はみんな三人の船に乗りたがり、三人は沢山の金を儲けた。  

           中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻上                      1999.5.5