蛙の息子(二)

 子供のないお爺さんとお婆さんがいました。ある日、お婆さんが井戸へ水汲みに行き、井戸の中で鳴く蛙の声を聞いて「アア、わたしは小さな蛙の子供さえないまま、年をとってしまった、わたしもお爺さんも今までに橋をかけ道を修理するなどいいこともしたが子供はできなかった。お前はここでグワグワわたしを呼んでいるが、もしわたしの子なら出ておいで」とつぶやきました。すると井戸の中から小さな蛙が跳び出して、お婆さんの前で丁寧に腰をかがめました。「お前は本当にわたしの息子かい、わたしの息子ならこの水桶に入っておくれ」と言うと、蛙は本当に水桶に跳び込みました。お婆さんは面白がってそのまま水桶を担いで家へ帰りました。

 お婆さんは家へ帰ると大声で「お前さん、いいことがあったよ、水汲みに行って息子ができたよ」と言いました、お爺さんが「冗談じゃない、水汲みに行ってどうして息子ができたんだ」と言うと、お婆さんは「息子や出ておいで、お父ちゃんに御挨拶しな」と言うと蛙は水桶から跳び出して、お爺さんの前に出て丁寧に腰をかがめました。お爺さんは 「ヨ−、これは面白い」と思って「お婆さんでかした、わしの蛙息子はわしの前で丁寧に腰をかがめて挨拶したぞ」と言いました、「そうだろう。それでは蛙息子を小さな桶にいれて休ませて上げよう」とお婆さんは小さな桶を出して「息子やここにお入り」と言うと蛙はその桶に入りました。御飯の時は蛙にも食べさせると何でも食べました。こうして 「息子や、出ておいで」と言うと蛙は桶から出て来てお爺さんとお婆さんを喜ばせました。

 ある日、商売をしているお婆さんの弟が来ました。お婆さんは「あんたがまた蘇州へ行く時はうちの息子を連れて行ってくれ」と言うと弟は笑って「アレ、姉さんが母親だって、姉さんは子供がないのに、この俺にどうして甥ができたのだ」 「息子やお前の叔父さんに御挨拶しなさい」と言うとあの蛙が桶から出て来て、お婆さんの弟の前で腰をかがめて挨拶しました。お婆さんの弟は姉さんが蛙を俺の甥に見立てて、楽しんでいるのだと分かり、これは姉さんの芝居に合わせてやらなきゃと考えていると、お婆さんは「お前、今度は何処へ行くの」と聞きました、「蘇州へ行くよ」 「それならうちの息子を連れて行っておくれ」とお婆さんは言いました。お婆さんの弟は“姉さんがああ言うのに、連れて行かなければ姉さんが悲しむだろう”と、仕方なく桶に蛙息子を入れて連れて行きました。

 蘇州へ着いたある日、お婆さんの弟は大きなお寺で、和尚さんが仏様にお線香を上げているのを見つけ「和尚さま、この小さな蛙を預かって何か食べ物をやっておいてくれませんか」と頼みました、すると和尚さんは「いいよ」と預かってくれました。そして和尚さんは食事の時に蛙にも食べ物をやりました。お婆さんの弟は半月ほど商売をしてお寺に戻ると「和尚さま、有難うございました、あの蛙を貰って帰ります」と言うと和尚さんは「蛙の桶は仏様の下にあるよ、蛙にはずっと食べ物をやっておいたよ」と言いました。ところが蛙は何処へ行ったのか桶の中にいません。お婆さんの弟は空の桶では姉さんに申し訳ないと思い、お和尚さんに聞きますと和尚さんは「さっきまで桶の中にいたのにどうしたのだろう」と言って二人であちこち捜しますと蛙息子は亀の甲羅の上にいました。

 お婆さんの弟は蛙息子を軽く叩いて「さんざ捜したんだぞ、こんな処にいたのか、帰るのだから早く桶に戻れ」と言いましたが、蛙息子はどうして亀の甲羅から離れようとしません、お婆さんの弟はしばらく考えて蛙息子に「どうして下りて来ないのだ、そこがいいのか」と言うと蛙息子は腰をかがめました。お婆さんの弟は蛙息子が亀の甲羅が好きになったのを見て「和尚さん、蛙はこの亀の甲羅が好きになったようですから、この亀の甲羅を売ってください」 「お金はいらない、亀の甲羅は肉を食べてしまった殻なんだから何の用にもならない、持って行っていいよ」と和尚さんは言いましたが、これが宝物だとは知らなかったのです。お婆さんの弟は蛙息子に「和尚さんはお金も取らずに、お前に亀の甲羅を下さったから早く桶に戻れ」と言うと蛙息子はピョンと桶の中へ跳び込みました。この亀の甲羅を外に出して、日に干すとピカピカに光りました。お婆さんの弟は片手に亀の甲羅、片手に蛙息子の入った桶を持って帰りました。

 お婆さんの弟は途中で荷物を一杯載せた三隻の南蛮人の大きな船に出遇いました。南蛮人はお婆さんの弟が持っている亀の甲羅は宝物だと知っていましたので「あなたのその亀の甲羅を売って下さい」と言いました、けれども亀の甲羅は蛙息子の物だから売れないと思い、蛙息子に「おい、蛙息子、この人が亀の甲羅を売ってくれと言うがどうする」と聞くと蛙息子は桶から跳び出して来ました。「幾らにする、お前がいいと思ったら腰をかがめろ、駄目なら売らないから」と言って「一千両か、八百両か」と聞くと、蛙息子は腰をかがめません、「お前幾ら欲しいのだ、この大きな船の一隻分の積み荷と亀の甲羅と交換したいのか」と言うと蛙息子は腰をかがめました。そこで亀の甲羅と大船一隻分の荷物と交換することになって、お婆さんの弟は南蛮人に亀の甲羅を渡し、この船一隻の荷物をみんな貰いました。

 お婆さんの弟は帰ると大きな声で「姉さん、姉さんの蛙息子が帰りましたよ、おまけに大船一隻分の荷物を儲けてね」と叫びました、お婆さんは“わたしの息子がどうしてそんなに沢山の物を儲けたのか”と思って外に出てみると、本当にその通りで、お爺さんとお婆さんはいっぺんに大金持ちになりました。お婆さんが「わたしは大金持ちになったんだから、蛙息子に嫁を貰ってやりたいよ、どっかにいい娘はいないかね」と言うと、「うちの娘でよかったら貰ってくれませんか」と言う人がいました、お婆さんが「支度金は幾ら欲しいいんだい、幾らでもやるよ」と言ったので、この人はお金を貰って娘を蛙息子の嫁にやりました。

 それからこの娘が蛙息子の妻になって身のまわりの世話をするようになると、蛙息子は蛙の皮を脱いで人間の姿になりました。夜になると蛙息子は立派な人間の夫になり「わたしの母は金を払ってお前に来て貰い、わたしの嫁にした、母はわたしが人間になるとは知らないから、母にこのことは言わないでくれ、夜になったら蛙の皮を脱ぎ人間になり、昼間は蛙になっているから誰にもわからない」と言うと妻は「どうして言ってはいけないのですか」と聞くと蛙息子は「これを母が知れば、母は死んでしまうのだ」と答えました。妻は夫が言うなと言うから言わないでいましたが、お婆さんはとうとうこれを知り、どうしても人間になった蛙息子の姿が見たいと思い、ある晩そっと外から嫁と蛙息子が話をしているのを見ますと、本当に蛙息子が人間になって話していましたので、お婆さんはそっと自分の部屋へ戻りました。

 翌日朝早く、お婆さんは蛙息子の妻に、蛙息子の蛙の皮を隠してしまえば息子は蛙に戻れなくなるのではないかと言いました、蛙息子の妻もこの蛙の皮がなければ昼は蛙、夜は人間という面倒なことがなくなると思いましたのでその晩、蛙息子の夫が人間に変わると、外に用事があるふりをして家を出ると、蛙の皮に石をくるみ、枯れ井戸に投げ入れてしまいました。夫が「お前、わたしの蛙の皮をどうした」と聞くと妻は「捨てました」と答えました、「どうして捨ててしまったのだ、蛙の皮を枯れ井戸に投げいれれば、わたしは蛙に戻れなくなるのだ」と言いました。

 翌日、お婆さんは人間になった蛙息子に会いました、人間になった蛙息子は立って、深く礼をすると「お母さん」と言いました、お婆さんは人間の姿の蛙息子と会って喜びましたが、その場で死んでしまいました。蛙息子は「お母さん、あなたはわたしの人間の姿を見ると死ぬ運命だったのです」と悲しみました。お婆さんが死んだと言うので、お爺さんも来ました、蛙息子はお爺さんの前で深く礼をして「お父さん」と言うとお爺さんも「オ−」と言って死んでしまいました。こうして蛙息子のお婆さんとお爺さんは死んでしまいました。蛙息子はその運命に泣き、町でお婆さんとお爺さんに立派な棺桶を買ってお葬式をしました。それから蛙息子は妻と一緒に暮らしました。

 やがて三年たち、女の子と男の子が生まれました。蛙息子の夫は「わたしは普通の人間ではない、子供も大きくなった、わたしは天界に帰る時がきた」と言いました、妻は「あなた、天界へ帰らないで下さい、あなたがいなくなったらわたしたちはどうしてらいいのですか」と言いましたが、蛙息子の夫は「わたしを引き止めることはできないのだ、明日正午、雷神が大きな音をたててわたしを迎えに来る」と言いました。妻は「わたしはあなたを天界へ帰したくない」と言いましたが、蛙息子の夫は「わたしを引き止めることはできないのだ」と言いました。

 翌日正午、雷が鳴り大雨となると蛙息子の夫は立ち上がりました。妻は蛙息子の夫にすがりついて放しませんでしたが、一瞬の間に蛙息子は雷神に連れ去られてしまいました。

          中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻上                         1999.3.18