蛙の息子の話
昔、王という夫婦がいた。四十歳を過ぎて息子も娘もいない。夫婦は何処の家にも息子や娘がいるのが羨ましくて仕方がなかった。
ある日、夫婦は天帝に「天帝さま、どうか子供を授けて下さい、たとえ蛙の息子でもかまいません」と祈った。夫婦の願いが天帝に通じたのか、翌年、妻が身籠もり夫婦は大喜び、早く子供が生まれるのを待ち望んだ。そしてとうとうその年に息子が生まれた。だがまさか本当に蛙の息子が生まれるとは思ってもいなかった。夫は蛙の息子を見るなり驚いて家を飛び出し、遠くへ商売に行ってしまった。
夫が逃げ出してしまったあと、一日一日、一年一年と妻は蛙の子を育てた、こうして十何年か過ぎ、蛙の子も十何歳かになった。ある日、蛙息子は「母ちゃん、どうしてうちには父ちゃんがいないの」と聞いた、「お前にも父ちゃんはいるよ、でもお前が生まれた時、蛙のお前に驚いて遠くへ商売に行ってしまったんだよ」と答えた。蛙息子は父のことを聞くと、母に「それなら俺は父ちゃんを捜しに行く、俺の父ちゃんは何処にいて、なんて名前でどんな人」と聞いた。
母は「でも、お前がピョンピョン跳んで行っても何時そこに着くかわからないから家で待っているほうがいいよ」と言った、すると蛙息子は「俺はどうしても行く」言った、母は蛙息子がどうしても行く気なので父親のいる所を教え、幾らかの旅費を赤い袋に入れ蛙息子の首にかけてやった。そして門を開けてやると蛙はピョンピョンと跳んで行った。
母は門の前でずっと息子を見送り、蛙の姿が見えなくなると家に戻った。
蛙息子は母が家に入ると、空に飛び上がり、風のように飛んで姿が見えなくなった。しばらくすると蛙息子は父の住む街に着き、街の城門の二人の門番に「アノ−、ここは文東街ですか」と聞いた、二人の門番は蛙の姿にびっくりしたが心を落ち着けてから「おかしなやつ、何しに来たんだ」と聞いた。「父に会いに来ました」 「よし、早く行け」 「これはこれは、お二人さん有難う御座います」 「礼はいいから早く行け」
蛙息子は街に入り父親に会った。父親は蛙を自分の息子と認めるしかなく、息子を連れて食堂で食事してから「母ちゃんに心配かけないように、早く帰れ」と言った、「父ちゃん、手紙を書いて、そうしないと母ちゃんは俺が父ちゃんと会ったことを信じてくれないよ」と蛙息子は言った、それを聞いた父親は小さいのによくわかっていると思い「わかった、手紙を書こう」と言って父親は手紙を書いて蛙息子に渡した、蛙息子は手紙を受け取ると父親に別れを告げた。
蛙息子は街の城門を出るとすぐ空に舞い上がり、間もなく自分の家の門に着いた、蛙息子が母親を呼ぶと母は門を開けて「どうしたい、やはり行けなかったろう、これで気が済んだかい」 「母ちゃん、俺は父ちゃんの所へ行って来たよ」 「何、母ちゃんを騙すじゃあないよ」 「騙してないよ、本当に行って来たんだ、これが父ちゃんの手紙だ」母親は手紙を見ると確かに夫の手紙なので心の中で“ピョンピョン跳ねて行くだけで、あんなに遠い所までどうして一日足らずで往復できたのだろう”と不思議に思い、それから息子の様子をそっと見ていた。そしてまた一年たったが蛙息子に変わった様子もなく普段どうりで変わらず、母親は息子の様子を探る事も忘れていった。
ある日、蛙息子は母に「ほかの家の息子はみんなお嫁さんを貰うのに、わたしはもうすぐ二十歳になるのに、お嫁さんがいない、わたしにもお嫁さんを貰って下さい、そうしないとこの家は絶えてしまいます」と言った、母親は溜め息をついて「お前が蛙じゃ、何処の娘も来てくれないよ」 「大丈夫です、いい方法があります」 「どんな方法があるんだい」 「母さん、従姉妹に男の身なりをさせ、わたしの替わりに婿にして結婚式を挙げてしまうんです」母親はそれはいい考えだと、急いで嫁になる娘を探した。ちょうどいい具合に、数日前に地方から来た十八九の綺麗な娘と、五十過ぎたその母がいる、親子は何かわけがあって、元の地方に住めなくなってここに来たのだった。
母親は口のうまい仲人商売の婆さんの家へ行ってこれを話すと、娘にもいくらか結婚する気持ちがあるのがわかり、これは見込みがあると、婆さんは王家の息子を娘に会わせて決めることにし、すぐ王家の偽の息子を迎えに行った。
娘は王家の息子を一目みて驚いた、息子はまるで箱入り娘のように美しく、娘は見惚れてしまい、ボ−としてしまった。これを見て仲人婆さんはすぐ「娘さん、この結婚はどうですか」と聞いた、娘は恥ずかしそうに「母に聞いて」と言った、娘の母親は娘の気持ちがすぐ分かり「娘は承知しました」と言った。仲人婆さんは喜んで、笑いながら「はい、この話はまとまりました、吉日を選んで式を挙げましょう」と言った。
仲人婆さんと偽の息子は王家へ帰った、蛙息子の母親は大喜び、すぐ式は二日あとに決めると、仲人婆さんは急いで娘の家へそれを知らせに行き、両家は忙しく準備を始め、またたく間に結婚式の日がきて、偽の婿と仲人婆さんは花嫁を迎えに行き、蛙息子は新婚夫婦の部屋に隠れ、すべての準備ができた。外から仲人婆さんの声がした「お義母さん、早くお迎え下さい、花嫁さんが来ました」王家の母親は急いで出て来た。花嫁は赤い布を被り、両側を二人の娘が支えている、偽の婿も緊張して家へ入った。この時、仲人が声を上げた「天地礼拝」 「夫婦礼拝」 「床入り」と賑やかす中を偽の新郎は花嫁の手をひいて新居に入り、式は終わった。
偽の新郎は新婦を連れて新居に入ると、そっと抜け出した。新婦は何時までも新郎が嫁入りの赤い被りものをとってくれないので、自分で被りものをとってみると、新郎がいない、すぐ義母を呼び、新郎が何処へ行ったのかと聞いた、すると蛙息子が戸棚の下から這い出して「呼ばないで、わたしがあなたの新郎です、さっきのは偽の新郎で、わたしの従姉妹で女です」新婦は蛙息子の話を聞いて、驚き全身をふるわせ大きな声で「騙された、騙された」と叫んだ。
蛙息子の母親は部屋の外にいたが、これはもう隠し切れない、話したほうがいいと急いで部屋に入り、本当の事を新婦に話した。花嫁は泣いて怒り、蛙息子の母親も困ってそっとしておくしかなかった。しばらくして花嫁も気が鎮まり義母の胸にすがって泣いた、母親も悲しくなり、この娘には可哀相なことをしてしまったと後悔したが、ほかに方法もなく、ただ娘が思い切ってあきらめてくれるのを待つしかなかった。母親はいろいろ口が酸っぱくなるまでなだめたり、すかしたりしたが娘は泣くばかりで喉がかれ声も出なくなり、だんだんと泣き止み義母の胸に抱かれて寝てしまった。
翌日、新婦は起き上がれず病気のようになってしまった、蛙息子の母親は驚いて新婦から一歩も離れられない。
ある日、新婦は少し元気になった。母親は人々が街に芝居が来たと話しているのを聞き、花嫁の心の気晴らしに芝居を見せようと、小さな声で花嫁を起こし、芝居を見に行こうと言った。すると新郎の蛙息子も「母さん、わたしも行く」 「お前は人に馬鹿にされるから行かないほうがいい」と言うと蛙息子は「一緒に行きたくないのですか」と聞いたが母親は蛙息子に構わず、新婦を連れて芝居見物に行ってしまった。
蛙息子は母と新妻が出て行くと、蛙は立派な男前になって馬小屋から馬を曳き出して乗り、芝居小屋に向かった。芝居小屋に着くと馬を繋ぎ、それから芝居見物の人の中から、母と新妻を見つけると、人を押し分けて新妻のそばに座った、妻はそばに立派な男性が来たので顔を振り向けて見ていた。ちょうど六七月の暑い時で、芝居を見ている人はみんな汗をかいていた、新妻はそばの好男子も顔に汗を流しているので、新妻は自分のハンカチをその男性に渡した、すると男性は顔をふいてハンカチを返さない。人々は芝居を一心に見ているが新妻は芝居を見るのを忘れてその男性を見ているうちに芝居が終わってしまった。人々はみんな帰って行ったが、新妻は義母の手をひきながら目はあの男性を見ていた、男性はゆっくりと馬に近ずき、馬のたずなを解くと馬に乗って行った。
新妻は義母の手をひいて男性の後を追って行った。母は新妻が目を丸くしてじっと男性を見ているので、病気がよくなったように思った。母は驚いて新妻に「あの男性の乗った馬はうちの馬によく似ている」 「うちの馬ですか」 「ああ、うちの馬のようだ、何処へ行くのだろう」と母と新妻は馬に乗った男性の後について行った、男性もわざとゆっくり馬を進めているようだ、二人が後ろからついて行くと、男性は自分の家の方へ行くので母も新妻も不思議に思い「お義母さん、うちの馬に乗っているのは誰なのか見てやりましょう」と言った、蛙息子の母は「そうだね」と答えた。
二人は男性の後から庭に入り、馬小屋を見ると果たして自分の家の馬だった。「早く家に入って、誰がうちの馬に乗ったのか、見てやろう」と二人は続いて家に入った、部屋には誰もいない、母は新妻に「さっきのあの男性は確かに庭に入ったのに、どうしていなくなったのだろう」と話していると、蛙息子の夫が戸棚の下から這い出して「母さん、もう帰ったのですか、わたしより遅かったのに早かったですね」と言った、母が「お前、芝居に行ったのかい、でもお前いなかったじゃないか」と聞くと蛙息子は「本当に行きましたよ、わたしは妻のそばで見ていました」と答えた、「嘘でしょう、わたしはあんたを見なかったわ」 「嘘じゃない、ほら、あんたのハンカチをわたしは持っているよ」新妻はハンカチを受け取ると、本当に自分のハンカチなので“まさかわたしのそばにいたあの男性が夫だったとは”と考えると、新妻の憂いは喜びに変わり「あなたがわたしのそばにいたなんて信じられない、でもあなたが、今ここであの男性に変わればわたしは信じます」と言った、蛙の夫はそれを聞くと、「わかった、目をつぶっててくれ、すぐ変わるから」 「いいわ、わたしたち目を閉じるわ」母と新妻は目を閉じると、すぐ蛙の夫の「いいよ」と言う声が聞こえた、二人が目を開けると、果たしてさっき馬に乗っていた男性だった、新妻と母親の心はまるで窓を開けたようにサッと明るくなった。
こうして一年は毎日が甘い蜜のような暮らしであった、しかし幸せは長く続かない、ある晩、妻は夫がまた蛙に変わってしまった夢を見た、妻は夜が明けてからも心配で胸がドキドキしていた。食事で夫が油断している時、戸棚の下に隠してある蛙の皮を火の中に投げ込んでしまった。すると夫が「ア−ア−」とふた声、無惨な声を出した、妻が駆けつけてみると夫はすでに息絶えていた。
撫順市巻上 1999.3.11