鹿と狼
ある日、大きな山里の中で狼と鹿が出遇った。狼が「俺たちがこの山里で遇ったのは何かの縁だ、義兄弟になろうじゃないか」と言った、鹿も「それはいい」と言った。年は狼が上なので、狼が義兄、鹿が義弟になり、生まれは違うが死ぬのは一緒、苦労を分かち、幸せを共にすると誓い合った。
狼と鹿は山のあちこちを眺め、楽しみ、遊び、腹が空いてきた。鹿は草を食べるから草があればよかったが、狼は駄目だ、空き腹を抱えて焦り、東に行ったり、西に行ったりしたが食べる物がない、やっと山合いの谷に大きな籠に入った小さな猪を見つけて大喜び、狼は猪に跳びかかるとガタンと音がした。しまった、猪が逃げ出して狼が籠に閉じ込められた、出ようとしても出られない。
狼は大声で「義弟よ、助けてくれえ−」と叫んだ。
鹿は山で草を食べていて、狼の叫び声を聞き、見ると狼が籠に閉じ込められている、これは大変だと急いで駆けつけ、籠の周りをウロウロした、「義兄さん、どうしたんです」
「どうもこうもない、俺は猪を食べようとしたら閉じ込められたのだ、早く助けてくれ」鹿は義兄の災難を見ると命がけで、籠を蹴った、ガタンと音がして狼が出て、鹿が閉じ込められた。
鹿は籠に閉じ込められ仕方なく「義兄さん、早くわたしを助ける方法を考えて下さい」と言うと、狼は両方の足で顔を撫でると、尻を地面につけて座り「義弟よ、俺はお前を助けられない」 「義兄さん、どうしてそんなこと言うのです」 「ああ、お前、見なかったか、俺がお前を助けると俺が閉じ込められる、お前が俺を助けるとお前が閉じ込められる、こうして行ったり来りしているうちに猟師が来て俺たちはみんな捕まってしまう」 「義兄さん、そんならどうしたらいいんだ」 「災難は一人で負い、二人で負わない、お前はそこにいてくれ、俺は山へ行って猟師が来るか来ないか見て来るから、お前はすきを見て逃げてくれ」と言うと狼は逃げ、山の崖の櫟の木の下で寝てしまった。
鹿は籠の中で必死になってもがいたが、力尽き四本の足を投げ出し気を失って倒れた。
木の上の烏がこれを見て「かかった、かかった」と大声で叫んだ。
近くにいた猟師は烏の声に喜び、来て見ると本当に鹿が罠にかかっている。だが鹿は肉を食べないのにどうして罠にかかったんだと思った、鹿を見ると蹄を返して倒れている、猟師はゆっくり罠をはずし籠をどけ、縄を出して鹿を縛ばろうとすると、烏が空を跳びながら「逃げろ、逃げろ」と叫んだ、その声で鹿は気がついて目を開けると籠がない、猟師が腰から縄をはずそうとしている、このすきに逃げられると、鹿は前足を立て、後ろ足を蹴って一気に跳び出して逃げた。
猟師は鹿に逃げられ、上を見ると烏が木の上で綺麗な羽をつくろっている、「この野郎、はじめは『かかった』と俺に教えたのに、俺が鹿を縛ろうとしたら、鹿に『逃げろ』と教えやがって、お前を射ってやる」と背中につけた弓を取り、矢をつがえると烏めがけて矢を放った、烏が飛びくる矢をよけ空高く舞えば、矢ははるかに飛んで正に狼の左目に命中し頭を貫いた。
烏は空高く舞いながら「前山の鹿と後山の狼、義兄弟となる。狼の難を鹿が救い、鹿の難に狼は逃げる。裏切り狼の命、長く続かず」と鳴いた。
撫順市巻上 99.2.21