八十一人の父親
一人の農民が畑の周りに溝を掘っていると丸い桶が出てきた。“これはいい桶だ、家の入れ物にしょう、丁度こんな桶が欲しかったのだ”と持って帰った。
農民はまさかこれが宝の桶だとは気がつかなかった、この桶はなんでも入れた物が八十一倍になって出てくるのだ。米を入れると、入れた八十一倍の米が出てくから農民はもう食べる心配はいらないと喜んだ。
だが地主がこの噂を聞くと、その桶は俺のものだと言い張った。農民は「これはあっしがあっしの畑で掘り当てた物だ、それがどうしてお前さんの物になるんだ?」と言い、地主は「もともとお前の畑の土地は俺のものだ、俺の土地から出た物はみんな俺の物だ」と争い、県知事に桶は誰の物か裁判して貰うことにした。
ところが強欲な県知事は「畑から出た桶一つで喧嘩をやめない不埒な奴、それぞれ五十叩きの刑、桶は没収する」と決めた。県知事はこの桶を取り上げ、中にいろいろな財宝を入れれば、一つ一つの宝が八十一倍になると大喜びであった。
ところで、誰もが恐れるこの県知事にも苦手な年老いた父親がいた。やがてこの桶の噂が老父にも伝わり、老父は杖にすがって息子の役所にやって来て「息子や、お前は宝の桶を手に入れて、大儲けしたそうじゃないか、それをどうして父のわしに言わないのだ、わしにもその桶で喜ばしてくれ」と言った。
県知事は「そんなことありません、他人の出鱈目な話です、あれはただの桶で中には何もありません、あのがらくた桶を綺麗にしただけです、嘘だと思うなら見てください」と答えた。老父は桶の周りを左から右へ三回、右から左へ三回、回って見たが桶の中には何もない、腰を曲げて桶の中をよく見ようとして思わず桶の中に落ちてしまった。老父は桶の中から「息子や、早くわしを引き上げてくれ」と叫んだ、県知事は怒って「ただの空の桶だと言ったのに、父上が聞かないからだ、いっそのこと桶の中にいたら」と言いながら、手を伸ばして老父を桶の中から引き出してやった。
するとまた桶の中から「息子や、早くわしを引き上げてくれ」と声がした、県知事は驚いて、桶の中を見るとまた一人の父親がいる、慌ててっ引き上げると、続いてまた「息子や、早くわしを引き上げてくれ」と声がする、県知事は何が起こったかわからず、慌ててまた桶から老父を引き上げると、まだ桶の中に老父がいる、また一人、また一人と引上げ、とうとう八十一人の老父を引き上げた。すると八十一人の老父はみんな「恥じ知らずめ、こんないい宝物を父のわしに隠しおって、お前は大儲けしたのだろう、早く宝物を持って来て親孝行しろ」と同じ声で怒鳴り、八十一人の老父たちは県知事を捕まえ頭を殴り始めた。
県知事は慌てふためき、泣きべそをかいて「一人の親爺でも大変なのに、こんな大勢の親爺ができて、わしはどうしたらいいんだ」と言った。
中国幼児故事精選 1998.8.6