白い象
明路は十六歳の時、父から一頭の白い象の世話をあてがわれました。明路はとても喜んで、毎日白象と一緒に暮らしました。山へ柴を刈りに行けば白象はたくさんの柴を運んでくれ、河が増水すると白象は明路を乗せて河を渡りました。こうして明路と白象は仲のいい友達になりました。
ある日、明路は白象が長い間、じっと密林を眺めて涙を流すのを見て心配になり「白象、どうしたの、何か心配ごとがあれば言って、わたしが助けてあげる」と言いました。
白象は明路の言葉を聞くと悲しげに「わたしは森に生まれましたから、森が恋しいのです、そしてわたしは母が恋しいのです」と言いました。明路はそれを聞くと「それならどうして森へ帰らないの、お母さんの所へ帰えればいいのに」と言いました。
白象は涙を流しながら「あなたのお父さんの祈祷師が呪文をかけ、わたしを見えない鉄の鎖でしっかり繋いでいるから、わたしは逃げられないのです、それにわたしが逃げれば、あなたを独りにしてしまうから」と言いました。明路は「可哀相な白象、でも私は自分のことだけ考える人間じゃないわ、私が父に言ってあなたを放して貰うわ」と言い、父が帰って来ると、白象を逃がして欲しいと頼みました。
父親は「駄目だ、わしは七七四十九の山を越えてやっとあの白象を捕まえたのだ、お前何が不満なのだ」 「白象は私の一番のお友達です、でも白象は森に住みたがっているの」と明路は父に何度も頼みました。けれども父は水かけ祭りがきたらタイ族の象買いに売る、タイ族の象買いが大金で買ってくれればお前にもいい物を買ってやる、そうすればお前は世間で一番綺麗な娘になれると言い、承知してくれませんでした。
しかたなく明路はそれを白象に話すと、白象は悲しがりました、明路は「どうすれば、あんたの体の見えない鎖を解くことができるかしら」と聞きました。
白象は「呪文を知らない人がわたしの体の見えない鎖を解くには、人と口をきかずに毎日毎晩わたしと一緒に寝起きして、わたしの体の見えない鎖をこすれば解けます」 「どの位時間がかかるの」 「そんなに多くはかかりません」 「わかったわ、わたしは歌が好きだけど、言葉を喋らず、あなたの温かい寝床であんたと寝起きを一緒にするわ」と言いました。
それから明路は口をきかず毎日白象と一緒に寝起きしました。もちろん父親が何と言おうと、明路は一言も話しませんでした。明路は昼は白象と山で柴を刈り、夜は白象のそばで寝て見えない鎖をとるために白象の体を一心にこすりました、そして白象の体の見えない鎖が解けて白象が森に帰えれることだけを考えました。明路の父親は可愛い娘がいくら話しかけても、何も話さないのでどうかしたのかと心配になり、娘に白象の汚い寝床で一緒に寝ないように言いました、けれどもそれは明路が自分でわかってやっていることですから止めませんでした。明路はお金が欲しい父が無条件で白象を放すわけはないと思っていたのです。
やがて水かけ祭りの日がきました。タイ族の象買いが大金を持って明路の家へ来ました、翌日朝早く象買いたちは白象を牽いて行くことになりました。
明路は心配になりました、あの見えない鎖でまだ白象は繋がれているのです、太陽が沈まない昼から明路は白象の所へ行って白象の体を撫でて見えない鎖をこすりました、明日水かけ祭りの朝、太陽が出れば象買いたちは白象を牽いて行くのです。
明路は休まず白象の体を撫で続けました。明路の父は明路が白象の体を撫で続けているので、明路は白象から離れたくないのだと思い、「娘や、もう白象のことは忘れなさい、いい物を買ってやるから」と言いましたが、明路はきかずずっと白象を撫でていました。頭から汗が流れても構わず撫で続けました、泣きながら白象を撫でているのに白象は象買いに無理に牽き出されました。
するとその時、白象が大きな声で叫び、地面が揺れました、そしてガラガラと大きな音がすると一本の太い鉄の鎖が象の体から落ちました。
象買いたちが何が起こったかわからないうちに白象は森の中へ走って行きました。すると明路は突然ハハハハと笑いだし、昨夜から眠らずにいて疲れたのか、その場で気を失い倒れてしまいました。父親はやっといままで娘がやっていたことがわかり、自分がした過ちを悔やみ、娘を抱いて泣き出しました。象買いは怒って白象を取り返せと父に迫りましたが父親は承知しませんでした。
象買いたちは明路の父を殺し、明路を縛り無理やり村から連れ出しました。河まで来ると象買いたちは疲れてしばらく休むことにしました。すると森の中から大象の群れが出てきて、象買いたちを囲み、象買いたちを一人ひとり河の中へ投げ込んでしまいました、象たちは明路を乗せ、明路の村へ帰ると、また森に戻り、大きな木と茅を持って来て、明路に茅葺きの家を建てやりました。
そして象たちは帰る時に、一頭の千年生きた老象が新しい明路の茅葺きの家の前に糞をして行きました、明路が見に行くとそれは金の塊でした………
西双版納哈尼族故事集成 1998.7.14