犬は字を知らない

 昔、犬を怖がる男がいた。怖がれば怖がるほど犬は男に噛みつくので、男は陰陽師にその因縁を占って貰った。陰陽師は算木で占うと「あんたの運命は天の星犬座の凶、あんたは前世で少なからず犬を殺しているから、現世で犬に噛みつかれるのだ、だがたいした事ではない、お金を出してくれれば、わしがあんたの手に犬除けの護符を書いてあげる、犬が向かってきたら、犬にそれを見せれば犬は噛みついてこない」と言った。男は五両の銀貨を払い、左右の手に犬除けの護符を書いて貰い喜んで帰った。

 しばらく行くと一匹の犬が道をふさいで男に吠えるので、早速、左手を伸ばして犬に護符を見せると、かえって犬は吠える。右手の護符を見せるともっと勢いよく吠えついてくる、しまいに男は両手を伸ばして両方の護符を犬に見せると犬は跳びかかってきた。男は驚いて頭を抱えそのまま、また陰陽師の家へ逃げ「お前、俺を騙したな、犬除けの護符の霊験なんて、ちっともないじゃないか」と怒った、すると陰陽師は少しも慌てず「えっ、護符を見せたのに犬が噛みついたって、ああ、その犬は字を知らないのだ、だがどうしてその犬は虎の字も知らなかったのだろう」と言ったとさ。  

             撫順市巻下                              1998.5.20

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