白菜仙女
昔、張仁という若者が針や糸などの小さな雑貨を入れた二つの箱を天秤に担ぎ、でんでん太鼓を鳴らしながら、村々を回り商売をしていた。張仁はごまかしたり、騙したりしないから、四郷八村の評判もよく、人々は張仁を“雑貨屋の張さん”と親しんでいた。だがこうした繁盛のわりに金は残らなかった、十里四方八村の誰かが困って相談に来ると、かまど神の代わりになって助けてやるから手もとに金が残らないのである。それで二十八になってもまだ結婚できないでいた。
ある日、張仁は村々を回り疲れて家へ帰った、途中でお腹も空き、喉も渇いたので、荷を下ろし、何処かに水はないかと見回すと西の小山に大きな白菜があった、“こんな荒れた山にどうして白菜が生えているのだろう、何処かから白菜の種が風に飛ばされて来て、あそこに落ち、調度いい雨水で育ったのだろう。家へ持って帰れば今晩の飯はこれで間に合う”と急いで行って見ると、お盆ほどの丸さ、食卓の脚ほどの高さ、葉先は生き生きした緑、両わきは雪のように白く、今までに見たこともない立派な白菜であった。張仁はその白菜を掘り起こすと、箱に入れて担いで帰った。
家に帰った張仁は箱を開け、白菜を出そうとして思わずあとざりしてしまった、なんと箱の中の白菜は、艶やかな牡丹の花のような十七八歳の美しい娘に変わっていたのである。娘は着物の裾をおさえながら箱から出ると、にこやかに張仁の前に立った。
張仁はドキマギしてどもりながら「あなたは幽霊、それとも妖怪、私は何も悪いことをしていません、私をどうしょうというのです」と聞くと、娘は頬をポ−と染めて「張仁さん、わたしは幽霊でも妖怪でもありません、わたしの名は白姑、白菜仙女です。わたしは心の優しいあなたが話し相手もなく淋しく独りで暮らしているのが気がかりでやって来ました、あなたが嫌でなければ、わたしがあなたの妻になります」と答えた。張仁は仙女が自分の妻になってくれると言うので嬉しくてボ−としてしまった。その晩、二人は月を仲人にして、天と地に礼を捧げ夫婦になった。
白菜仙女を迎えてからも張仁は朝早くから夜おそくまで商売をした、白姑もまた家事に励んだ。
そして一年、ある日、張仁は村々を回って帰ると天秤の荷を下ろし、黙りこんで何も言わず深い溜め息をついた。白姑は張仁が食事を出しても食べず、お茶を出しても飲まないので「あなた、何があったの、話して」と言うと、張仁は口を開く前にもう両目から涙を流し、悲しげに「このところ、村々は干魃で不作、どの村にも飢えて死ぬ人、病で死ぬ人が出ている、お前は仙女だから、なんとかあの人たちを救う方法を考えてくれ」と頼んだ。
白姑はしばらく考えていたが、息をついて「あなたはいい人ね、そのことはわたしも前から心配していました、心ではなんとか助けたいと思っています、でもあなたが心配で……」 「俺のことが心配だって」 「わたしは疫病神や干魃魔王をやつけることはできます、わたしの神通力は普通ならあの二人の相手ではありません、でもわたしは今六か月の身重で神通力が衰えていて、二人にかなわないかもしれないのです、もし万一のことが起こったら、あなたのことを守るのも難しいのです」それを聞いた張仁は一方で喜び、一方で悩んだ、喜びと言うのは白姑のおめでたで自分が父親になること、悩みと言うのは白姑が二人の悪魔にやられるかもしれないことだ。
長い間考えていた張仁は、ふと気がついたように「私のようなただの人間が少しでもお前の役に立てないだろうか」と聞いた、白姑は「一人でも多ければ力になります、でもあなたが災難に遭うかもしれない」と言った。すると張仁は「人々や私の妻と子供を守るのだから私は災難を恐れはしない」と言うと白姑は、それなら二九十八の河を渡り、九九八十一の山を越えて、西天へ行き火の神に火避けの玉を借りて来てくれ、そうすればわたしは干魃魔王と闘えると言い、箪笥から一足の鞋を出して張仁に履かせ西天へ行くように言った。
妻がくれた鞋を履いた張仁は干し飯を持って西へ向かった。すると不思議にも張仁の履いた鞋は河があっても山があってもひと飛びで越えた。そして八日目に西天に着いた、そこは一面の火の海でその奥に宮殿が見える、張仁が火の中へ飛び込むと火の玉は張仁を巻き込み、張仁は頭から足まで火ぶくれになり前へ進めない、それでもまた飛び込み三回も炎に包まれ、四回目も飛び込もうとしたとき、炎は赤い髭の老人に変わり張仁の前に立った、ハハハと笑い「雑貨屋の張か、さすが白姑は見る目があったな」 張仁は驚いて「あなたは火の神ですか」と聞いた、老人が頷くと張仁は続けて「あなたはどうして私を知っているのですか」とまた聞いた、「白姑は早くからあそこの人々の難儀を知っていた、白姑が人々を救うには一人の勇敢な男の助けが必要だ、その勇敢の男に白姑はお前を選んで婿にしたのだ、そして今日、お前がその快挙をなし遂げたのだ」と言うと袂から火避けの玉をだして張仁に渡した、張仁が礼を言って受け取ると火の神と火の海は消えてなくなり、張仁の全身の火傷は直って元の体となり喜び勇んで帰った。
白姑は張仁が西天へ行くと、すぐ雲に乗って北海龍王に豊かな雨を降らしてくれと頼みに行った、白姑が海辺に立つと波がサ−と音を立てて割れ龍王が現れた、白姑が丁寧に挨拶すると龍王は「あなたがわしに助けを求めに来るのは分かっていたが、その前にわしがあなたに頼みがあるが聞いてくれるか」と言った、白姑は深く礼をして「あなたが人々を助けてくださるならわたしは感謝の気持ちをこめて龍王さまの願いに全力を尽くします」と答えると龍王は「言いにくいのだが、海にもいろいろ海草があるが白菜はない、なんとか白菜を下さらんか」と言った、それを聞くと白姑は笑って袖を震わせ白菜をだした、それから海の中にも海白菜があるようになった。
白姑が龍王に礼を言って雲に乗り帰ろうとすると早くも西北の空に雲が広がり雷が鳴り間もなく雨が降ってきた、白姑は服を脱ぎその服を振り、雨を四方八方に散らした。
この雨のあと山や野原、至る所にみずみずしい緑の白菜が生えた。人々は白菜を取って煮たり茹でたりして三七二十一日白菜を食べ、人々はお腹を一杯にした。飢えがなくなると疫病もなくなり、人々がみんな喜んでいると干魃魔王と疫病神がワ−ワ−叫びながら、風に乗って白姑の家の前に来て大声で「この小娘、わし等の大事な仕事を邪魔したな、早く出てきてわし等の罰を受けろ」と叫んだ。
白姑はゆっくり庭に出ると「お前たちは人々に危害を加えたのに何をグタグタ言っているの」と言って袖から緑の団扇を出して扇ぐとみるみるうちに小さな団扇はどんどん大きくなって五丈の高さ、二十丈の太さの白菜となり疫病神を頭から押し潰した、すると疫病神は口から臭い黒い煙りをだし、顔は青紫に変わり豆のような汗をポタポタと落とすと押し潰されて、ギャアと叫ぶと黒い煙の固まりとなって西北に逃げて行った。
白姑がやっと一息つくと、つぎに干魃魔王が大きな火の玉に乗って来ると何も言わずに目から二つの大きな炎を出して白姑に投げつけた。
白姑は頭に手をやり千年の心血を注いで作り出した露水宝珠を取り出すと手の中に入れ、口をあてがって吹くと珠は清泉となって火の玉にかかり、火の玉はみるみる小さくなったが、また新たな大きな火の玉となって白姑に迫ってきた。
それを見た白姑は自分の神通力は白菜の種からでるのに、それをすでに二つ使ってしまい、まだ元に戻らないうちにまた疫病神との闘いで三つ目の種を神通力に使ってしまった、それに身重で強敵と闘うのは無理だと分かっており、ただ歯をくいしばって張仁が火避けの玉を持って来るのを待っばかりであった。
干魃魔王はせせら笑うと鼻からも火の玉を噴き出し、いよいよす白姑の形勢は不利となった。そしてとうとう白姑は高さ十何丈、太さ五六丈の白菜の本身を現してしまった、干魃魔王は白姑が遂に本身を現したので益々得意になり耳からも火の玉を噴き出し、七つの火の玉を白姑の周りにメラメラと燃え上がらせた、白姑はもう半時、火避けの玉が来なければ自分は干魃魔王に焼け滅ぼされると思った。
その時、張仁が火避けの玉を捧げて飛ぶようにやって来ると白姑のわきに立った、すると干魃魔王の魔力は失われ、張仁を見て白姑も奮い立ち再び人の姿に戻り、干魃魔王が慌てると、口から白菜の種をだし赤い玉にすると、それは赤い光となって干魃魔王に向かった、干魃魔王は赤い光に刺され、火の玉になって西南に逃げて行った。
この闘いを見ていた四方の人々は急いで張仁白姑夫婦に礼を述べようと駆けつけたが、すでに白姑と張仁は玉皇大帝の褒賞に招かれて天上へ去ったあとであった。
薛天智故事選 1998.5.4