薬屋と易者
ある人が薬屋を開いたがさっぱり客が来ない。気晴らしに街に出てブラブラしていると易者がいたので声をかけ「易者さん、わたしは薬屋を開いて一年になるが少しも売れず、ただ無駄に時間を過ごすばかりだ『兵士は営舎を離れず、馬は馬舎を離れず、門衛は大門を離れず』と言うからわたしも何時客が来るかと店を離れずにいるが、やっぱり客は来ない」と言った。
すると易者も「そういうもんだよ、わしだって一日こうして客を待っていても、二三文にしかならず、一杯飲むにも足りない」と嘆いた。
そこで薬屋が「どうだい、わたしは薬を買いに来た客があったら、お前さんの所へやるから、お前さんは易をみに来た客があったら、あたしの薬屋へ行けと言ってくれ」と頼んだ、易者も「よかろう」と答えた。
さて、家のロバがいなくなったのでこの易者にみてくれと男が来た。易者は早速易を立て「薬を飲めという卦が出たから、あそこの薬屋へ行ってくれ」とこの男に言った、男は「それはどういう事だ、ロバがいなくなったのに病気でもない俺がどうして薬を飲むのだ」と聞いた、「いや、あんたが薬を煎じて飲めばロバが出て来るという事だ」 「オオ、なくしものをしたのは病気になったという事か」
人は病気でなければ心配しないが、病気だと言われれば薬を求める、ロバをなくした男は薬屋へ行った。
「何の薬ですか」 「ロバがいなくなったので易者にみて貰ったら、薬を飲めばロバが見つかるという卦が出たのだ」 それを聞くと薬屋は“ハハア、あの易者が客を回してくれたな”と、そっと口をすぼめてニヤリ、「ロバがいなくなったら下痢薬がいいですよ、お腹が下ればロバは見つかります」と、男に「家に帰り夜になったらこれを煎じて飲んで下さい」と下痢薬を売った。
薬を買って帰った男は夜、いやいや薬を煎じて飲んだ。するとすぐお腹がジャアジャア下り、その度に表門のわきの便所に行った。
実はロバは隣の男が盗んだのだ。隣の男はロバの口を縛り、家の裏に隠しておき夜中になってから曳きだそうと考えていた。夜中にロバを曳き出そうとすると隣の家の便所でジャアジャア音がする、男は驚いてロバを家の裏に戻す、しばらくしてまたロバを曳き出すとまた便所からジャアジャア音がする、驚いてまた盗んだロバを裏に戻す、また曳き出す、ジャアジャアと音がする、裏に戻す………、これを二度三度と繰り返すうちに、鶏が鳴いて夜が明けてしまった。
ロバを盗んだ男は“隣のやつはどうして夜通し何度も何度も起きたのだろう、明るくなって俺の家へ来たら大変だ”と怖くなって、盗んだロバを放すと、ロバは元の家の表門に戻った。
朝になって、ロバを盗まれた男はまだ少しお腹が下るので表門のわきの便所へ行こうとすると、なんとロバが表門に立っているではないか。「やあ、あの易者はよく当たる、俺があの薬を飲んだら本当にロバがひとりで帰って来た」と喜んだ。
それからロバを盗まれた男は“物がなくなったら薬を飲めばいい”と信じ、何処へ行っても盛んにそれを言い触らしたので、薬屋も易者も繁盛し、運が向いて来たとさ。
四老人故事集 1998.4.13