楡の木の精

 昔、美しい七星山の麓に王小という若者が住んでいた。王小は幼い時に父母を失い、それからずっと一人で田畑を耕して暮らしていた。ある年の春、なぜ天上の神が怒ったのか分からないが、何ヶ月も一粒の雨も降らなかった。
 七星山の麓を流れる河は涸れ、苗は黄色になり、野菜も枯れてしまった。村人たちは「アア!今年は初めから駄目だ、これでは野草や木の根を食べるしかない」と嘆き苦しんだ。
 ある日の朝、王小は目を覚ますとお腹が空いてグウグウ鳴り、鍬を持って野草を摘みにあちこちの山へ出かけたがどの山もはげ山で野草の影もない。半日歩き回りすっかりお腹の空いた王小は腰帯をきつく締め直し、大きな石に座り風を避けながら一休みした。石の上に座り麓の荒れ果てた田畑を見ていると、思わず死んだ両親のことやそれからの苦しかった日々が思い出され、ますます悲しくなり石の上で泣いた。

 王小が涙を流し続けるうちに日は山に沈み、王小の悲しみもまた深くなっていった。そして石の割れ目に黄色い葉を二枚つけた小さな楡の木を見つけた、王小の涙が一滴一滴と黄色い葉に落ちるとみるみる葉は緑に変わった。
 王小はこの荒れた山の中で強く育っている楡の木を見て心を打たれ、自分に言い聞かせるように「楡の木、楡の木、俺たち二人の運命は辛いねえ、お前も両親がいないのかい、一人残されて一人で生きて来たのかい」と呼びかけた、だが楡の木は何も答えない。
 すると、風が吹いて楡の木を揺らした、王小は小さな楡の木が吹き倒されないように急いで支えてやった。それから王小は自分と同じように孤独で寂しい楡の木が好きになり、毎日山に登りこの楡の木に水をかけてやった。一日、二日、三日、小さな楡の木はだんだん大きくなり、翌年の春には人と同じくらいの高さに育ち、葉が茂りやがてぎっしりと金色の実がなった、王小は楡の木をゆっくり揺すって実を落とすと持って帰り、煮て食べてみると楡の実の料理と汁は新鮮で美味しくお腹一杯になった。

 そこで王小はお腹を空かしている村人にも食べさせようと、また山に登り楡の実を袋一杯に取り村人に食べさせた。不思議なことにこの楡の木の実は宝のように取れば取るほど増え、村人たちはみんなこの楡の実を食べて、日照りの年を越えることができた。
 ある日の朝、日が昇ると王小は何時ものように楡の木に水をやりに山に登った。すると楡の木の下に一頭の馬がいて楡の木の葉を美味しそうに食べている、王小は驚いて馬を追い払おうと、大きな声で馬をおどかしたが馬は王小を少しも恐れず、平気で楡の実も食べている。王小は怒って水を担いで来た天秤棒で馬の尻を乱暴に何度も叩くと馬は両足を後ろに蹴上げ高く飛び跳ねると、楡の木を根こそぎ抜いたまま引き摺って逃げ出した、王小はびっくりして馬をさんざん追いかけたが追いつかず、仕方なく家へ帰った。

 王小は家に帰り疲れてしばらく横になっていたが、火を起こし料理を作ろうと鍋を取ると、なんと鍋には湯気をたてた真っ白なご飯ができて、ご飯の上にはいい香りの楡の実がのっているではないか。王小は驚いたままこれをしばらく見ていたが、家の中を見回して誰がこのご飯を作ってくれたのかと探したが人影はない。これはいったいどういうことだと不思議に思っていると、後ろから「ホホホ」と娘の笑い声が聞こえた、振り返って見ると、上から下まで緑の服を着た美しい娘がにこやかに立っている、王小が見たこともない娘だった。

 王小はしどろもどろになって「あなたは何処の方ですか」と聞いた、すると娘は恥ずかしそうに「あたしは楡の木の精です、あたしはあなたに救われ、あなたと夫婦になりたくて今日山から下りて来ました」と言った。王小はこの美しい娘が楡の木の精で自分と夫婦になりたいと言うのを聞くと頭を振って「駄目、駄目です、私は食べる物も金も畑もない貧乏人でとても妻を迎えることはできません」と言うと娘は「かまいません、あたしが機を織りますからあなたは畑を耕して下さい、あたしたちは夫婦の苦楽を共にすれば幸せになれます」と笑って答えた。

 王小は貧乏を厭わず真心のこもったこの娘が好きになってもう何も言わず二人は天地を拝み夫婦となった。夫婦にはなったが何も食べる物がなく、王小は山で柴を刈り、それを売って米や小麦粉を買おうと斧を持って外に出ようとすると、妻になった楡の木の精に呼び止められた。妻は爽やかな声で「あなた山へ柴を刈りに行かなくてもあそこに楡の実があるわ」と水がめを指して言った。王小が水がめを見ると中には楡の実のかたちをした金貨がずっしりと詰まっていた。  王小はこの金貨をみんな村人に分け、それから七星山の麓の人々は幸せに暮らした。     

       譚振山故事選                               1992・11・08   2001・06・13校正

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