半分に切られた舌
若い夫婦がいた。夫は遠くの商店へ見習いに行き、家には妻一人で淋しい生活をしていた。夫婦の住む村には数十戸の人家と村の東角に寺があり、その前に粉挽き場があった。
ある日、この妻が粉挽き場で二斤のトウモロコシを挽いていると、寺から和尚が出て来た。和尚はこの若い綺麗な妻に心を奪われていて、実はもう若妻の夫がいま家にいないことも知っていたがまだ口をきいたことはなかった。そこで和尚はこれはいい機会だと若妻に近寄り話しかけた、若妻は和尚は出家の身だからと別に気にもかけずに応答した。
すると和尚は若妻の粉挽きを手伝い始めた、「いいえ、和尚さんわたしがやりますから」と若妻が言っても、かまわずに挽き続け、あらかた挽きおわったところへ小坊主が来ると、あとを小坊主にまかせ、和尚は寺に戻りまた出て来て、寺から持ち出した何斤かのトウモロコシをそっと臼にいれた。若妻はこの臼はどうしてこんなに多く粉に挽けるのだろうと、いぶかったがすぐその意味が分かった。それから若妻が日をおいて米を挽きに来ると、また和尚は出て来て手伝い、トウモロコシを挽きに来ればトウモロコシをたして挽いてやり、粟を挽きに来れば粟をたして挽いてやった。
こうして何回かしているうちに若妻は粉挽きも楽で得にもなるので少し和尚に好意を持つようになり、和尚も若妻の気をひくようなことをはっきり言うようになった。
その上、和尚は占いをする巫女に金を渡し、この若妻の前で和尚の何処がいいか、どうして金があるか、などと褒めさせ、和尚につけば金も食べ物も貰えるのにと唆したので、若妻は巫女の言葉に迷い、とうとう和尚を受け入れた。そこで和尚は若妻の家へ行き、晩めしを食べて泊まった。それから二年たち若妻と和尚の仲はますますよくなり、もう離れられなくなり、和尚は毎晩、若妻の家に泊まるようになった。そしてこの浮気の話は村中に広がり誰もが知るようになった。
ある日、商店で見習いをしていたこの若妻の夫が帰って来た、年期があけたのではなく、外の者と一緒に車で商品を運ぶ途中に自分の家の村を通るので、それに乗って家に立ち寄ることのしたのだ。村に入ると大勢の人がそれを見ているので、親戚の者がこのことを隠してはおけず、家に呼んでそっと、お前の留守の間にお前の妻が寺の和尚と、これこれだと話してやった。一方、巫女は若妻の夫が帰ったことを知って、慌てて寺へ行って和尚に「若妻の夫が帰って来たから、今夜は行かないほうがいい」と告げた。
夫が家へ帰ると、若妻はさも待ちかねたというように「あら、お帰りなさい、何年もひとりで淋しかったわ、もう行かないでいいの」としなを作って見せた。「いや、まだだが、今日は商品を運ぶのに便乗して、ちょっと寄ったのだ」と夫は答えた。若妻は喜んで夫を迎えるふりをして、料理を作り食事をした。夜になると夫は「じゃあ、帰る」と言って立ち上がった、「あなた、何年も帰らないのにどうして泊まらないの」 「駄目なんだ、急ぎの仕事があるから、急いで帰って主人に話すことがある」 夫のこの言葉を聞いて若妻は心の中でホットした。
若妻の夫が行ってしまったことはすぐ巫女が知った、どうして知ったかというと、夫が家へ帰った時、巫女は若妻の夫の家の窓の下で話を聞いていたのだ、それで夫が出て行くとすぐまた寺へ行って和尚に若妻の夫が出て行ったことを教えてやった。そこで和尚はまた若妻の家へ行き、若妻を引き寄せ、抱いたり、口づけしたりして一眠りすると、和尚はお腹が空いたので、若妻に「わしはお腹がすいてきた、お前、何か作っておくれ」と言った、すると若妻は「ちょうど隣の死んだ馬の肉を貰ったから、その肉で餃子を作ってあげる」 「それはいい、こうして待っていよう」と和尚は裸のまま布団にくるまり床に座って餃子のできるのを待った。若妻は起きて火をおこし、粉を練り、餃子を作った。
さて、若妻の夫は家を出たが、五、六里行くとまた戻り、そっと家の門を開け、窓の下の暗い影に隠れ家の中の人声を聞き、窓の隙間から中をのぞいた、間違いない、和尚と自分の妻が目の前で熱い仲になっているのだ、夫は怒った、これが怒られずいられるか。
妻が和尚に餃子を作ってやると言い、起きて火をおこし始めると、夫は薪をとりに庭に出る妻に出遇うといけないと、急いで庭の隅に身を隠した、妻が薪を抱えて家に入り、粉を練りだすと夫はまたそっと窓の下に行って中をうかがった。
しばらくすると餃子がゆで上り、食卓に並べられ、和尚と妻は向き合って座り、食べながら話し始めた、和尚が「わしはお前が好きになって二年、もうお前から離れられない、だがお前はどうだ、この二年わしだけを想っていたか、もしわしを本当に好きなら、さあ、さあ、口づけをしておくれ」と言うと、若妻は「あんた何言ってるの、あたしは本当にあんたが好きで二年も一緒にいたのに、どうして今更そんなこと言うのよ、口づけしたいならしなさいよ」と顔を前にだすと和尚も首を前にだして、口づけした、若妻は舌を和尚の口の中に入れ、二人は抱き合って舌をすすりあった。
しばらくそうした後で和尚は「こんな餃子の食べ方は面白くない、こうしょう、餃子を紐で吊るし、両方から半分ずつ食べる遊びをしよう」と言った、「いいわ」二人はまたこんなふざけた遊びをして、餃子を食べおわると寝てしまった。夫は二人が寝静まると、そっと窓の下から離れ、門をもとのように閉めて出ると、今度は本当に商売の見習いに行っている処へ戻って行った。
三日過ぎ、夫は商売の見習いを止め、荷物を持って帰って来た。
若妻は夫を見て「今度もすぐ帰るの」と聞くと夫は「いや、今度は帰らない、商売を始め、お前から離れず、ずっとここで一緒に暮らす」と答えた。
若妻は「それはよかった」と夫の荷物を片付け、夜になると「あなたが食べたい物を何でも作るわ」と言った、すると夫は「ああ、俺は何年も外でいろいろ食べてきたが、ひとつだけ食べたことがない物がある、何だかわかるか、馬肉の餃子だ、お前、馬肉の餃子を作って俺に食べさせてくれるか」と言った。
若妻はそれを聞くとドキンとした、けれどもまた、夫があたしと和尚のことを知るわけがないとも思った。隠し事をしている負い目で若妻はすぐ和尚と餃子を食べたことを思い出したのだが、巫女が夫の帰ったのを見ているのだから、心配ないと思い、すぐ「あら、ちょうどよかった、馬肉の塊があるからすぐ作って上げるわ」と答えた。
こうして若い妻は夫に馬肉の餃子を作ると、食卓に並べた。「お前も一緒に食べよう」 「あなた先に食べて」 「ええ、どうしたんだ、俺たち二人は二年も一緒に食事をしていないんだぜ、ここへ来て一緒に食べよう」そこで妻も前に座って、箸を持ち食べようとすると、また夫が「お前、俺は二年も三年も留守にして、お前に苦労をかけた、暮らしも大変だったろう、それでもまだ俺を想ってくれているかい」と言った。
「あなた何言っているの、あたしはあなたの妻よ、あなたを想わないで誰を想うの」 「そうだ、お前は俺の妻だ、もしまだ俺を想っているなら、お前の舌を俺の口に入れて口づけをしよう」これを聞くと妻は胸をドキドキさせ顔色を変えてしまったが、夫の言ったことを拒むことはできない「いいわよ」と言い、二人は和尚としたあの口づけをしょうと、顔をよせあった。
が、夫は口が重なる前に、身をひいて「わかった、お前と俺は一心一体だとわかったからもういい、だが餃子をこうして普通に食べても面白くない、紐で縛り、天井から吊るして二人で端から食べあおう」と言った、若妻はそれを聞いてまたびっくりして、餃子が食べられなくなった。
夫がしようと言ったことはみんなあの晩に和尚としたことと同じだったからだ、いけない、夫は知っているのだと体がふるえはじめ、ますますふるえ、だんだん怖くなり、怖くなればなおふるえた、夫はふるえる妻を見て、何も知らない素振りで「どうしたんだ、具合が悪いのか」と言った、「いいえ」 「病気じゃないのに、どうしてふるえるのだ」若妻はもうおわりだ、騙しきれない、きっぱり言ってしまおうと考え、夫の前にバタンと音をたててひれ伏した、「あなた、ごめんなさい」 「どうしたんだ、土下座などして、起きろ、起きろよ」夫は手をそえて立たせようとしたが、若妻は起きずに夫のももを抱いて離さず、夫がもう知っているなら、言わない方がいい、かえって面倒になると思い「あなた、許して、あなたの留守に和尚と……」と言葉をにごして言った。
「泣いても無駄だ、起きて俺の話を聞け、俺はそんなこととっくに知っていたんだ。これからもお前は和尚と暮らすのか、それとも俺と暮らそうと思っているのか」 「まだそんなこと言うの、もちろんあなたと暮らしたいわ」 「俺と暮らしたいなら俺の話を聞いてくれ、もし聞くなら俺もお前とこれからも暮らす」 「いいわ、あなたの話って何、言って」「俺は今日また外にでる、それで明日また和尚が来たら、お前は何時ものように和尚を泊まらせ、着物を脱いで和尚と口づけし、和尚の舌をお前の口の中に入れさせ、和尚の舌を噛み切ってくれ、和尚が怒ってお前を殴ろうとした時、俺は窓の下に隠れていて家に入る、和尚は驚いて逃げ出すだろう、お前それがやれるか」 若妻はすぐ「いいわ、やるわ」と答えた。
その夜、夫は家を出ると別の村の親戚の家へ行って泊まり、翌日の夜、人が寝静まった頃、再び自分の家へ戻り窓から中の様子をうかがっていた。やがて和尚が何時ものようにやって来ると、和尚は何も知らないから、平気で裸になって若妻と寝た、若妻が「口づけして舌をいれてよ」と言うと和尚は嬉しくなって舌を若妻の口の中にすべりこませた、いままでは若妻が舌を和尚の口の中に入れていたのに、今日は若妻が和尚に舌を入れてと言ったから和尚は喜んだのだ、好き者の和尚が舌を伸ばすだけ伸ばして若妻の口に入れると、若妻は、心を鬼にして、“グッ”と和尚の舌を噛み切った、和尚は“グワ−”と声を上げて飛び起き、庖丁を持ち若妻に斬りかかろうとした時、窓から男が飛び込んだ、それを見ると和尚は“しまった”と窓から飛び出して逃げてしまった。
飛び込んだ男は誰か、もちろん若妻の夫である。和尚が逃げ出しても夫は追いかけずに、若妻に噛み切った和尚の舌を出させると、それを水で綺麗に洗って包み、若妻に「俺はまだやることがあるからお前は寝ていろ、すぐ帰って来る」と言い残してあの巫女の家へ走った。
この巫女は早く夫を亡くしてから人と人の仲介、神がかりの占い、男との乱れた付き合いなどで一人で暮らしている。
若妻の夫が巫女の家へ来た時は、夏のおわり秋の初めの暑い晩で巫女は窓を開けて寝ていた。若妻の夫は塀を越えて窓により中を見ると巫女は仰向けになって寝ている、そっと窓から入ると巫女の心臓をめがけて刀を“サッ”と振り下ろした、巫女は「ギャア」と声を上げて死んだ。それから若妻の夫は巫女の口をひろげ、半分の和尚の舌を巫女の口の中に入れて出て行った。
翌日の朝、誰もみんなとっくに起きているのに巫女がなかなか起きて来ないのでどうしたのだろうと近所の人が不思議に思い、“また何処かの男と寝て、ぐっすり寝込んでしまったのではないか”と、「巫女さん、どうしたんだい」と何度か声をかけたが、返事がない、戸をこじあけて中に入ると、「アッ」巫女が死んでる、驚いて「大変だ、巫女さんが死んでる」と叫んで飛び出すと近所の人が集まり、急いで役所に届けた。
役人が来て死体を調べると口の中に半分に切れた舌が入っている、これはきっと誰かが巫女を強姦しょうとして、巫女に抵抗され舌を噛み切られたのだ、それで男は巫女を殺したのだ、舌の切れた男を捜せということになった。町や村では大勢の人々のさまざまな噂が飛び散った。
こんな時に一人の子供が寺に遊びに行き、木の上に鴉の巣を見つけたが、木に登れないので、石を投げた、ところが石ははずれて後ろの禅堂に飛び、もう少しで和尚にあたるところだった、和尚が怒って外に出てこの子を怒鳴ったが「レロレロ、ロレロレ」と何を言っているのかわからない、和尚は舌を噛み切られているからだ、子供は和尚さんがどうしてこんな言い方なのかと思った、和尚が追いかけると、子供は驚いて泣きながら逃げた、子供が早いので和尚は少し追いかけてやめた。
子供が町まで行くとちょうどこの子の母親が噂の話をしているところだった、自分の子が泣いて逃げて来たのでどうしたのだと聞くと 「和尚さんが追いかけて、あたいをぶとうとしたんだ、でも母ちゃん、変だよ、和尚さんの舌が半分ないよ」 「え、和尚さんの舌がないって」これをみんなが聞いて「誰の舌がないって」 「お寺の和尚さん」 「じゃあ、みんなで見に行こう」とみんなで寺へ行ってみると、確かに和尚の舌が半分ない、しかも残された半分の舌と合うので「舌がどうしてないのだ、巫女を殺したのではないか」と責められ、和尚は一言もはっきり返事できなかった。役人はすぐ巫女は和尚が殺したのだと断じ、和尚を捕らえた。
さて、若妻の夫は和尚が巫女を殺した償いに死刑になったことを聞いたが、平気であった。
ある日、夫は若妻に「俺たちは三年もお前の実家の両親に会っていないから行こう」と言った、若妻も「いいわ」と言い、お菓子を二折り持って若妻の実家へ行った。義父の家は大きな酢造り屋で暮らしも悪くない、実家では婿が三年も来なかったし、土産も持って来たので喜んだ、しばらく話したあとで義母は娘たちと食事の支度をした、舅の家は四人姉妹で、若妻は長女で、三人の妹たちはまだ結婚していなかった。
料理の支度ができると義父が上座にすわり、若妻の夫がお相伴した、酒を二杯飲むと夫は義父に「お義父さん、わたしの親戚の者が近く結婚するので、結婚式に酢がいるのですが、こちらの酢を戴けませんか」と言った義父は「おやすいご用だ」と言って若妻を呼び「お前、瓶二つに酢を入れておやり」と言った。
若妻は二つ瓶を持って酢を汲みに行った、若妻の夫は酒を飲むと立ち上がった、義父は手洗いにたったのだと思い何も言わなかった。だが夫は前の棟へ行ったのだ、この棟の戸は半分開いていて、若妻が腰をかがめて大瓶から酢を汲んでいる、夫は妻の太ももを一気に持ち上げ、妻の頭を酢の大瓶の中へ沈めた、夫は妻の両ももを抱えたままだ、しばらくして若妻は酢の中に頭を漬けたまま死んだ、若妻の夫は何もなかったようにもとの席に戻り、食べたり話したりした。
しばらくして義母は「酢を汲みに行ったのにどうしたのだろう、お前ちょっと見て来ておくれ」と言うので、次女が姉を見に行くと、姉は酢の瓶の中に落ちて死んでいる「大変だ、姉さんが死んでいる」と叫んだ。この声で家族みんなが駆けつけた、義父母、妹たちは大声で泣いたが、夫は知らんふりして「あなたたち何を泣くのです、わたしが三年家をあけた間に、あなたたちが変心するとは思いませんでした、こうなってもしょうがないでしょう」と言った。
義父が来て夫をなだめ「婿さん、怒らないでくれ、娘はあなたの妻だが、わしの娘でもある、婿さんが苦い思いをしたことは、わしも知っていたが、実の娘を死なすこともできなかった、娘は多分酢を汲む時に過って瓶の中に落ちたのでしょう。婿さん、また人を探して結婚してください、一切の費用はわしが持ちます、もし婿さんが妻を探すのが嫌なら、わしにはまだ三人の娘がいるから、婿さんが好きな娘を嫁にしてくれ、それでどうです」 「それは有難い、末の娘さんをわたしの妻にください」 「それなら末娘をあなたの嫁にしょう」
父母の命には逆らえず末娘はこうして吉日を選んで姉婿と結婚し実家に三日いて義父から金と食糧を貰って夫婦っとなり家へ帰った。
撫順市巻下 1998.1.16