人妻を謀る  

 山東に李来友という織物問屋がいた。李は番頭に王三という男を雇っていた。ある年の正月十五日、王三は主人の李来友を自分の家に招き、酒をもてなした。ところが李来友は王三の女房に一目で横恋慕、何とかして王三の女房を自分のものにしたいと想いを募らせ、二か月ほどしてあることを思いついた。

 ある日、李は王三に「明日、一緒に長江を下り蘇州へ仕入れに行くから、家へ帰って支度してくれ」と言った。そして翌日、李は王三を連れて船に乗った。
 その晩、李は何品かの料理をとりよせ船中で王三と酒を酌み、もう一杯、もう一杯と王三に酒を飲ませ、王三が泥酔すると、あたりに人のいないのを確かめ、王三を長江へ突き落とした。王三は水の中ですぐ酔いを覚まし、叫びながら浮かび上がったが、李に竹竿で頭を突かれ、頭から血を流し、そのまま溺死した。

 李は蘇州から戻るとすぐ王三の家へ行き、王三の女房に「王三とわしは船で酒を飲んで、酔いつぶれ、王三はあやまって船から落ちた、すぐわしらは王三を助けようとしたが、救えなかった。しかし奥さん嘆かないでくれ、この李が奥さんの着るもの食べるものに不自由はさせない」と言った。王三の女房は“夫は死んでしまったのだ、何を言って無駄だ”と、李がよこした数十両の銀貨を受取ってあきらめた。
 それから、李は三日にあげず王三の女房に米だ、着物だ、日用品だと送り届けて来るので、王三の女房は李来友が何を考えているのかと不思議に思っていた。
 ある日、董という織物商人がやって来て、いろいろお喋りしたあとで「奥さん、死んだ人はもう生き返らない、あんたはまだ若いし子供もない、これからどうするかね、李の旦那はあんたが好きで、第二夫人として迎えたがっている、李の旦那についていけば着る物は綾に錦、食べる物は山海の珍味だ、あんた、考えたらどうだね」と聞いた。王三の女房はいろいろ考えた揚句それを承知した。

 李は日を選んで王三の女房を妻に迎えた。そして二人は夫婦となり半年が過ぎた。
 ある日、李夫婦は庭園の池のほとりの料亭で酒を飲み、ほろ酔い加減でいると、池の中からなめくじが食卓の脚を伝って卓上に這い上がって来た、李はそのなめくじを煙草入れで池に払い落としたが、またそのなめくじが這い上がって来たので、煙草入れでなめくじを打ち殺した。
 見ていた妻は「おや、夫婦二人で楽しく飲んでいるのに、あんた何しているの」と聞いた、李はすんなりと「俺はあいつよりいいな」と言った、「何よりいいと言うのよ」と妻が聞くと、李はすぐには答えようとしなかった。夫のその様子を見ると妻は何も言わず、酒をあおり、夫にも酒を注いだ。二人は酔い崩れ、下女と婆やに抱きかかえられて寝屋に入り床に伏した、するとすぐ妻は泣き「わたしはあんたと夫婦になって一年、すこしもあんたを裏切ることはしてこなかった、それなのにまだあんたはわたしを信じてない、何と比べたのと聞いてもわたしに言ってくれない、あんたは本当はわたしを好きじゃないんだ」と李をなじった。

 李は妻を悲しませた負い目と、酒のいきおいもあってつい「泣くな、比べたというのは王三だ、もう話してもいいだろう、実は俺は王三とお前の家へ行って酒を飲んだ時、一目でお前が好きになり、二月ほど考えた末、王三を蘇州への仕入れに連れ出し、途中の船から長江へ突き落としたのだ、王三は一度は水に浮かび上がったが、俺が船を漕ぐ竹竿で打つと血を流して沈んでしまった。そして今、俺たちはこうして夫婦になっているわけだ、さあ俺はみんな話した、お前、俺のところへ来て、王三の時と比べるてどっちがいい、言ってごらん。俺のすべてはお前のためだ。つまりこういうことさ」と言った。もとは王三の女房だった妻は溜め息をついて「今はもうこうした夫婦のいい仲になって、わたしはあんたをどうすることもできないし、これでいいわ」と言った。

 それからまた半年たったが、前の夫の王三と今の夫とのいきさつを知ってしまった妻も以前と変わるところはなかったし、夫の李来友も、次第にこのことを気にかけなくなっていた。
 翌年の春、張県知事が県内を巡察した。この県知事は清廉潔白な人柄で人々から “張青天”と呼ばれていた。そのことを知った李の妻は白い喪服を着て県の役所へ訴えた、張青天が裁きの席につくと、李の妻はひざまずいて悲しみの声をあげた、「何か恨み事があるのか、あるなら話せ」 「今の夫が前の夫を殺したのです」李の妻は事のいきさつを、つつまず話した。
 それを聞くや張青天は怒り、直ちに李来友を役所にひきたてた。李は事の次第がわかったが、自分には財力、権勢がある、県知事なぞ眼中にない、八万十万の金を積めばたいした事にならずに済む、俺は財主の李来友だと、たかをくくり、県知事の糾明にありのままに応じた。  裁判が終わり、県知事は李の妻に「お前は李来友がどう処置されるかわかるか」と聞いた、「人を殺せば命で償う、金を借りれば返す、わたしは王三の死後、李に嫁いで生きのびましたが、もう何の未練もありません、李が死罪になればそれで王三に申し訳ができます」と答えた。
 張青天は直ちに「王三を殺害した李来友は命を以て償うのが理である、この秋に李来友を断罪する」と判決を下した。  

 財力で人妻を謀っても、古今東西、いいことはない。  

             撫順市巻下                               1997.12.22

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