好き者和尚
ある村に大きくも小さくもない寺があった。和尚は好き者で何時も遊里のことばかり考え、いい女を見ると、すぐ動かなくなってしまう。こんなわけで和尚は暇さえあれば山門の前に立ち、目を三角にして、いい女はいないかとあちこちを見張っている。
街に行く時、何時も山門の前を通る若妻がいた。この若妻は十里八村を巡っても二人とないほどの美人である。ある日、この若妻が寺の山門の前の井戸に水を汲みに来た、山門の前にいた好き者和尚は目をみはり、舌なめずりをして、なんとかしてこの若妻を口説こうと頭をしぼった。
さて、どう口説くか。好き者和尚は世間の人と同じく、気はずかしそうにただニタニタするだけでは駄目だと分かっていた。和尚は目をパチパチさせ、寺の和尚の体裁を失わず、しかも、暗にあれを誘っていると知れるやり方を思いついた。
まず和尚は二つの目でじっとこの若妻を見つめ、僧衣の袖を払いながら、「わしは……いい……」と声を長くのばして出す、また袖を払い「わしは……いい……」と声をのばし、その中に深長な意味を込めているのか、何か唱えているのか微妙で分からないようにした。そしてこの若妻が井戸に水を汲みに来ると、きまってこうして若妻の気をひこうとした。
若妻は初め和尚のこの様子がいったい何なのかよく分からなかったが、長い間にどうもよくないことに誘っているのだと気がつき、そっと夫に話した。夫は頭のいい人で、和尚が好き者で悪いことを企んでいるのだと知ると、懲らしめてやれと若妻に「明日、お前が水を汲みに行った時、もしまた同じようにしたら、こうすればいい……」と話し合い二人である計略を決めた。
翌日の夕方、若妻はまた水を汲みに行った、すると好き者和尚は何時ものように「わしは……いい……」 「わしは……いい……」と気をひこうとした。そこで若妻は「あんたがいいなら、わたしもいいわ、銀貨二十枚と豚の頭を持って家に来ればあなたの願いはかなうわよ」と言った。和尚は嬉しくなってあやふく笑みを浮かべそうになったが、すぐ若妻に顔をよせ、低い声で何時行くのが都合いいかと聞いた。
若妻はわざと羞しそうにしながら 「それは心配ないわ、うちは爺さん婆さんも小姑も子供もいない夫婦二人きりの所帯で、夫は出稼ぎに行っていないわ」と答えた、それを聞くと好き者和尚はうきうきして何もかも忘れ、さっそく若妻の言う通りのものをそろえて行くことにした。
その夜、和尚は銀貨二十枚と豚の首を持って若妻の家へ行くと、家の中の様子は若妻が言った通りなので、うずうずしてすぐにでもいいことがしたかった。若妻は好き者和尚が嫌でたまらなかったが、うわべはその場の調子にあわせ、艶っぽい声で「あんた何をせいてるのよ、急いじゃ熱い豆腐は食べられないわよ。豚の頭が煮えたら、まずお腹一杯美味しく食べなくちゃ、それでいいことがもっとよくなるのじゃない」と言った。和尚もニコニコ笑ってそうすることにした。
しばらくして豚の首が煮え、和尚は若妻が豚の首をとりだす時,どう手伝ってやろうと思っていると、突然、戸を叩く音がした、若妻はわざとびっくりした様子を見せ、低い声で「いけない、夫が帰って来た」と言うと、和尚は驚いて何処へ隠れていいか分からない、すると若妻は「うちの瓶は大きいから、中に隠れて」と言った。和尚が瓶の中へ隠れてから若妻は戸を開けて夫を入れた、夫は家に入り鼻を動かし「いい匂いだ、今晩は肉炒めか」と聞くと若妻は「いいえ、豚の頭を煮たの」と答えた、「それはいい」と夫は言いながら鍋の蓋を開け豚の頭をとりだし「肉はいいが、煮汁は油が熱いからだそう」と柄杓で煮汁をすくうと、そのままガバッと瓶にあけてしまった。
瓶の中に隠れていた好きもの和尚は柄杓一杯の熱い煮汁を浴びてやけどをして「ウワ−」と声を上げて瓶から飛び出すと、ころがるように逃げだした、だが若い夫婦は追いかけなかった。和尚は寺へ逃げ帰ると寝込んでしまい、半月たってやっとやけどが治った。
ある日、和尚は気晴らしに寺の山門を出ると、ちょうどあの若妻が井戸へ水を汲みに来たところだった、和尚は見もしないで知らん顔していたが、若妻は「あたし……いい……」と好き者和尚の真似をしてからかうと、和尚は「あんたはいいが、わしはよくない、銀貨二十枚、豚の首をあんたにとられ、そのうえわしはやけどして頭いっぱいの水ぶくれだ」と怒った。
沈陽市巻中 1997.11.2