恐 妻(三)
昔、張と李という同学の友がいた。学業を終え、別れてから一年ほど会わないうちに、二人とも妻を迎えた。
ある日、李が張の家を訪ねると、張は李を招き入れ、一杯飲みながらお喋りをすることにした。そこで張が妻に「おい、友だちが来たんだ、一杯飲むから早く料理を作ってくれ」と言いつけると、張の妻は台所で支度を始め、しばらくして台所の湯が沸くと、「アィ、お前さん出ておいで、お湯が沸いたから、お茶を入れな」と呼んだ、張は「オイ、何を言っているんだ、俺は友だちのおかまいをしているのだから、お前が持って来てくれ」と答えたが、「早くしな、わたしは忙しくて、だめだよ、お前って人はわたしの言うことが聞けないのかい」と妻が言うので、張は仕方なく、台所へ茶を入れに行った。
李はこれを見て「クスッ」と笑い「ヤアヤア、君はつまり、奥さんが怖いのだな」と言うと、張は「若い夫婦はみんなこんなもんだ、僕は妻を自由には使えないよ」と言った。それを聞くと李は深く考えもせず思わず「僕は妻を自由に操縦しているよ」と言ってしまった。「そんなこと言っていいのかい」 「僕は何も大きなことは言ってないよ」李はこう言ったが内心は後悔していた、もともと一番の恐妻家の李は妻の尻に敷かれ、頭が上がらなかったのだ。張は「それじゃあ、何時か君の家へ行って本当に奥さんを自由に使っているのを見れば、僕は君を尊敬するよ」と言った、大きなことを言ってあとには引けなくなった李は「いいだろう」と突っ張るしかなかった。李は料理を食べ終わると、日を約束して帰った。
約束の日に張は李の家を訪ねた。李は張が来ると家に入れ「僕の友だちだ」と妻に張を引き会わせると李の妻は「ア、そう」とそっけなかった。
張はそれを見ると心の中で“どうも、この様子では李は妻を恐れている、これで李は妻に言うことを聞かせているのかな”と思った。
李も心の中で“俺が冗談で言ったことを張の奴、真に受けて本当に見に来やがった、本当のことがばれて張があの日のことを持ちだせばみっともないな”と思って、急いで妻を外に呼び出した。
「実は僕が友だちの家へ行った日に、思わず僕は妻を自由に使っていると言ってしまったんだ」と言うと、李の妻は目を吊り上げ「お前って馬鹿だね」と言った。「本当なんだ、何時も僕はあなたの言う通りにしてるんだから、今日のこの場だけ僕を助けて丸く納めておいてくれないか、今度だけだ、友だちが帰ったら、また言うことを聞くよ、駄目かい」 「駄目、あたしの足を洗って、あたしのかかとを舐めるかい」李は妻にそうおどかされ仕方なく「いいよ、何でもする」と言った、そして李は部屋に戻り、張とお茶を飲みながら話した。
さて、張は一計を案じ、お茶をスルスルと何杯も飲んで土瓶を空にして、「アレ、お湯がなくなった、お茶を入れてくれないか」と言った、李は心の中で「ハ、ハ−、試しているな」と思い、台所に向かって「オ−イ、お茶を入れてくれ」と怒鳴った、それを聞くと李の妻は「お茶を入れろだって、わたしは忙しくてできないよ、あんたが来て入れなさいよ」 「オイ、お前が持って来い、僕はお客さんと話しているのだ」 「あんたがお喋りなら、わたしは料理を作っているのよ」 「オ−イ、持って来い」と李がまた言うと李の妻が鉄びんを下げて来た。李は目をむき、「湯を持って来るのに、何だかんだと言って、お前は生意気な奴だ、まだお前は僕の言うことが聞けないのか」と言うと、李の妻は心の中で、“さっきの話だな、これっきりだ”と思って膝を曲げ李の言うことを聞いていた。
李が「よし、行って料理を作れ」と言うと、張は“すごい、本当に妻に言うことを聞かせている”と目をパチパチさせたが、“俺が来てから李の妻が出て来たのは一回だけ、様子も不自然だし、本当らしくない”と思い、あとでよく見ようと、酒をゆっくりと全部飲み、夜暗くなってから帰った。
李は心のなかで“早く帰れ、こんなじゃ、俺はあとで妻に何をさせられるかわからない”と思っていたから、張を表門から送り出すと、李は錠を下ろすのも忘れ急いで部屋に戻るとバタッと妻の前にひれ伏した。妻に「あんたわかっているわね」と言われると李は仕方なく、足洗いの盥に熱い湯を入れ、水でうめ、手を入れてちょうどいい湯加減にして持って行き寝台の下の置くと、妻は両足をいれ、李に足をゴシゴシ洗わせ、舐めさせた。
李は頭から汗をかき、張が帰るふりをしてすぐ戻り、我が家の様子を見に来ていたとは考えもしなかった。
張は窓の外から中を覗くと、李の妻が「お前これでおわったと思っているの、まだ駄目だよ、あたしの靴をお前の頭に載せ、あたしに従うと誓うんだよ」と言いながら手を伸ばして、自分の靴を夫の頭に載せているところだった。張はこれをはっきり見ると、家へ帰った。
李はそんなことはつゆ知らず翌日、“もう一度張の家へ行って、何って言ったって俺は妻に言うことを聞かせていると大ぼらを吹いてやろう”と思い、張の家へ行くとお茶を飲みながら「君、僕の女房はどうかね、よく言うことを聞くだろう」と言うと張は「エッ、何だって、そんな大きなこと言うなよ」 「どうしてだ、僕の女房にどこか、気のきかないところがあったかね、あったら君、言ってくれ、帰って女房によく言い聞かせるから」 「ハハハ、君、馬鹿じゃない」 「馬鹿じゃない」 「君、ボケてないか」 「ボケてなんかない」 「ヘ−イ、馬鹿じゃない、ボケてなくて、どうして奥さんの足を洗い、かかとを舐めるんだい、そのうえ奥さんの前にひざまずき、奥さんの汚い靴を頭に載せたりするんだ」張のこの言葉で李は恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして帰って行った。
撫順市巻下 1997.10.19