虚勢を張る
昔、呉依靠という貧乏書生がいた、妻の小辣椒は何時も「わたしはお前のような役立たずと結婚して、八回生涯を無駄にしたようなもんだ、お前が人さまの頼まれものを書いて、貰うのは屁のような小銭、お前の食べる分にも足りない。みんなわたしの針仕事でお前を食べさせているんだからね」と、呉依靠をぶったり、罵ったりした。呉依靠は叩かれても、罵られても、手も出せず、口答えもできない。近所の人々は「呉依靠や、呉依靠、家の辛い唐辛子で本当に辛い毎日」と陰で囃したてていた。
ある日、小辣椒は呉依靠に「わたしが唐辛子と陰口されるのは、お前が告げ口したからだろう」と問い質した。「怒らないでくれよ、俺は人の前でこれぽっちも、あんたの悪口なぞ言ってないよ」 「わたしがお前を叩いたり叱るのは、お前をよくするためで、お前を苛めているんじゃないよ、前の町の張爺さん、後の町の王さんをみてごらん、二人とも同じ書生なのに、羽振りもいいし、威厳もある。それなのにお前はどうして目だとうとしないんだい」 「俺は国の試験を何回受けても落ちるし、まだ聖賢の書も読んでいないからなあ」 「聖賢の書なんて一番駄目なんだよ、お前は学問が大切だと思っているが、あの人らはみんな恰好つけているだけだよ、お前は真面目くさっているから損してるんだ」 「だけど、人間は忠に厚く、真面目がもとだよ」と呉依靠が言うと、小辣椒は目をつりあげ「馬鹿、何が真面目がもとだよ、今度こそ、あたしがお前に教えてやるから、言うことを聞くんだよ」と言った。
驚いた呉依靠は腰を丸め頭をさげ「あんた、何を教えてくれるんだい」と聞くと、小辣椒は偉そうにあぐらをかき「人はね外見、内容じゃあない、馬子にも衣裳、というだろう、こういうことは聖賢の書なんかに書いてないから、わたしが教えてやる。衣裳が立派なら人は特別な目で見るが、粗末な衣裳を着ていれば人は馬鹿にする、世間とはそんなものさ、わかったかい」 「あんたの話はたしかに金科玉条、読書十年にも勝るが、この貧乏、何処にも立派な衣裳を買う金はないよ」 「わたしが嫁入りに持って来た銀貨があるから、お前明日町へ行って絹を買っておいで、それから壊れた門を大工に修理させるんだよ」 呉依靠は「わかったよ」とかしこまって答えた。
呉依靠は大工を雇い家の門を数日で修理させると赤く塗って立派にした。それから絹の布地を買って来ると、小辣椒が依靠の綺麗な衣裳を縫い上げた。
呉依靠は新しい衣裳、新しい靴、新しい帽子をつけ、大きな扇子を持ち、家の中をゆったりと歩いて見せると小辣椒は膝を叩いて「ヨ−シ」と叫んだが、呉依靠をギョロリと睨み「まだ駄目だ、衣裳も帽子いいが、お前は痩せこけて、金持ちに見えない」と言った、「ろくな飲み食いもしていないで、太れるわけがない」と依靠が言うと「わたしにいい考えがある」と言って靴を脱ぎ、床に腰掛けると「お前、ここにお出で」と言った。
呉依靠が小辣椒の前へ出ると「お前の顔を百回叩いて大きくしてやる、お前の出世のためだから、痛くても声を出すんじゃないよ」 「あんたの言う通りにするよ」 小辣椒は靴で呉依靠の頬を叩き始めた。呉依靠は首を伸ばしてじっと動かない、百回叩きおわると、呉依靠の顔は赤、紫、青に腫れ上り、まるで饅頭のようになり、目は細い線になってしまった。
翌日、小辣椒は呉依靠の髪をすき顔を洗い綺麗にしてやると、町を回って来るように言った。呉依靠が「顔がこんなじゃ、人に会いたくない」と言うと「それが大切なんだ、言うことを聞かないと、またぶつからね」と、呉依靠を町へ追い出した。
呉依靠は大きな扇子を持ち、上を向き、肩をゆすり、風を切るようにして歩いた、目をはすかいにして歩く姿はかえって恰好よく見え、街の人々から「オ−、呉依靠は何か儲けたのかな、見てみろ、着ているものも絹だし、顔は赤く光って金持ちみたいだ、歩き方も偉そうだ」とほめそやし、あちこちで「依靠さん、今日は」と声をかけられた。呉依靠が街を一周りすると何処でも人々が腰を曲げて挨拶し、笑顔で出迎えたが、呉依靠はわざと知らんぷりしていた。すると、人々は「やはり、読書人は貫禄があるな」と言った。
呉依靠が家に帰ってみると、庭には修理した赤い門につられて来た人々がお祝いに来ていて、ある人は卵、ある人は西瓜を差し出し「呉依靠ご夫妻よろしくお願いします」と言った。こうして十里四方の村々に呉依靠の噂が広がった。
これを県知事が部下から聞くと早速知事は「わしの県に、立派な文章を書く勝れた天才がいたか、早速、呉依靠を招待しろ」と役人に伝えて呉依靠を呼んだ。何日かたっていたが、呉依靠の顔はまだ腫れてふくらんでいる、県知事はそれを見て、これは富貴の相だ、相応に重用しようと考え「役所に書記の欠員があるが、あなたは学があると聞いた、どうかここで仕事をして、わしに力を貸してくれ」と言った。
呉依靠は酒の匂いをさせ、ほろ酔いかげんで帰ると、小辣椒に「俺は貧乏書生だったが、今日から県の書記だ、あんたの苦心のお陰だよ」と言った、ちょうど小辣椒は破れた靴下を繕っているところで「そうだろう、これはあたしがお前の顔をひっぱたいて太らせてやったからだよ、世間というのはこんなものだとお前もわかったかい」と言った。
沈陽市巻中 1997.10.7