身替りの嫁入り

 ある金持ちの家に娘がいた、小さい時からの許嫁がいたが、月日がたって年頃になると、何処かの若者たちと付き合うようになり、よくない噂がたっていた。金持ちの家では相手の実家に娘の不行跡が知れては、みっともないし、年頃にもなったので早く式を挙げてしまおうとしたが、もうお腹が大きくなっていて人前にはでられない。

 そこで娘の母親は“隣の娘はうちの娘と年頃も同じで似ているから、ちょっと替わって貰い、九日たった里帰りの時にまた替われば誰にもわかりゃしない”と考え夫に相談した。「隣の娘が承知するか」 「隣は貧乏なんだから、少し出せば承知するよ」
 隣の娘と言うのは父親が早く死に母親が再婚して、祖父と二人で暮らす金持ちの娘の従姉妹のことで少し年下である。
 金持ち夫婦は早い方がいいとすぐに隣の娘を呼んで、ありのままに話し「お前たちは従姉妹で姉と妹の間なのだから、姉を助けてやっておくれ」と言った。隣の娘はそれを聞くと「ほかの事なら何でも聞きますが、身替りの嫁入りなんて聞いた事がありません、これだけはお断りします」と答えた。
 それでも金持ちの妻は「身替りは初めだけで、お前に悪いようにはしない、もし承知してくれるなら畑とお金ををだそう」と言った、それを聞くと隣の娘は“わたしも年頃になり相手を探さなければならないが、いい人を探せるかどうかわからない、相手が金持ちならいいが、うちは貧乏だから釣り合わないだろう、もし相手が貧乏だったら、祖父を食べさせるのに相手に苦労させなければならない”などといろいろ考えに考え、家に帰って祖父に相談して返事をすると答えた。

 娘の祖父はこれを聞き、貧乏だろうが金持ちだろうが上下はないと怒り、すぐ金持ちの家に押しかけ「お前たちの育て方が悪いから、お前の娘がこんな不始末を起こしたのだ、それなのにどうしてわしの孫が身替りになるのだ、わしはこの年になるまで、身替りの嫁入りなぞ聞いた事がない、よくもまあそんなことを考えたものだ」となじった。
 金持ちの夫婦はそれを聞くと、そうしてくれれば田畑と金をだすと約束したが、娘の祖父は「何をくれようとできない」と怒った。孫娘の気持ちはわかっていなかったのだ、娘は祖父の愛情を嬉しく思いはしたが、祖父の怒りの静まるのを待って、この事を承知する自分の考えを話した。
 しかし、祖父は承知しない、娘は祖父をなだめ「心配しないで、何処の畑をくれ、お金をいくらくれるかの証文をよこしたら、わたしは替わりになるから」と言った、すると祖父は「これはうまくいっても、いかなくてもうちの恥じになる」と言うので娘は「その時は、わたしがかたをつける」とさんざん祖父に話し、無理やり祖父に納得させた。

 昔の結婚の多くは、牛を見ずに牛を買うように、男女は結婚の日まで互いに会うことはなかった。だから金持ちの娘と隣の娘の身替りの嫁入りはすべてうまく運び、誰にも見破られなかった。
 賑やかな祝の席もおわり、客が帰ると家族もそれぞれの部屋に戻り、兄嫁は新婚の二人の部屋に布団を敷いてやり新婚の二人を休ませた。
 身替りの嫁入りをした娘は先に床に入り、婿が靴を脱ぐのを待たず、いきなり「わたし喉が乾いたわ、水を持って来て」と言った、婿は新婚初めの夜から俺を使うなんてと、少し面白くなかったが、おどけた調子で「もし俺が言うことを聞かなかったら」と言うと、娘は「あなたにさせるわけじゃないわ、わたしはこの家は初めてだから、水瓶が何処にあるか、鍋や器や盆が何処にあるか分からないでしょう、みんなまだ眠っていないからわたしが、外でゴソゴソ回り、水を飲んだりすれば笑いものになるわ、それでもいいの、面倒じゃないでしょう、あなたに頼まないで誰に頼むの」と言った、婿はそれはそうだと思い直し、水を汲みに行った。

 すると娘はサッと床から出て、部屋に内から鍵をかけてしまった。婿は水を汲んで来て部屋に入ろうと、いくら戸を推しても開かない、これは新妻がふざけているのかと思い、小さな声で開けてくれと言った、ほかに聞かれては笑われると思い、大きな声をだせなかったのだ、だが何度言っても開けてくれない、とうとう大きな声で「どうして婿の俺を外に締め出して、部屋に入れないのだ」と怒った。
 するとやっと娘は「わたしがこうしなければならない理由があるのよ、あなたの両親、祖父母、兄嫁たち家族みんな呼んで来たら、戸を開けるわ」と言った、婿はそう言われて仕方なく家族を呼びに行った。

 母親は息子が着替えをして新婚の部屋にいるはずなのに、また戻って来たので、何か起こったのかと聞くと、息子は「どうもこうもない、新妻が水を持って来てくれと言うから、水を持って行ったら、戸に鍵をかけ、何と言っても開けないのだ」と言った、母親は不思議に思い「嫁がどうして戸を開けないの」と言うと、息子は「あの人は家族を呼んで来れば開けると言っている」と答えた。
 それを聞いた婿の祖父は「いい嫁だと思ったが、何故そんな酷いことをするのか、嫁の話を聞いてみよう」と家族を連れて新婚の部屋へ行った、娘は家族みんなが来たのを見ると、戸を開け新婚の部屋に請じ入れると、煙草を吸う人には煙草をだし火をつけてやり礼儀正しかった。

 家族が順序に従って座ると、婿の祖母が 「嫁や、お前この家が嫌なのかい、それとも婿が嫌なのかい、ここに家族がみんないるから、遠慮なくはっきり言っておくれ」と言うと、娘は丁寧にお辞儀をしてから、口を開き「ご家族のみなさま、わたくしはこの家が嫌なのでも、ご子息に恨みがあるわけでもありません、これにはちょっとわけがあます、これからみなさまに申しあげます」と言った、祖母は「何があるのか、気のすむまで話してごらん」と言った、「わたしはあなた方が娶った本当の嫁ではありません、わたしは身替りの嫁です」老人たちは身替りの嫁なんて世間の何処にあるかと信用しなかった。
 娘は「詳しいことは言えませんが、あなた方の娶る本当の新婦はわたしの従姉妹です、事情があってこんな事になったのですが、お客が帰り、こちらの家族だけになったので、すべてを話します、みなさんはわたしをこの家の新婦と思ったでしょうが、いまからはわたしはこの家の新婦ではありません、どうかご子息を連れ出しわたしと何もないようしてください、わたしはひと晩いて明日帰ります、大騒ぎしないでください、これでこの事はおわりです、あとは両家で話し合ってください、わたしとは関係ありません」と言った。

 婿の祖父は娘が煙草をだし火をつけくれた時の態度に感心していた、それによく見れば様子も悪くないし、さっきの話も道理で普通の娘にできることではないと思い「この話のけりはわしがつけよう、あんたは我が家の末っ子の嫁だ」と言った。
 すると娘は「それはみなさんでよく話し合ってください、わたしの家は貧乏で今日の祝の席にいた七十過ぎの老人がわたしの祖父です、わたしは両親がなく祖父と暮らしているのです」と言うと婿の祖父は「何も話すことはない、お前は安心しなさい」と言った。
 娘はまた「わたしをこの家の嫁としてくれるなら、二つのお願いがありますが聞いてくれますか」と言うと、婿の祖父は「お前はもうみんな話したじゃないか」と笑った、娘は「人に両親、祖父母があるようにわたしにも祖父があり年もとっています、どうか祖父の面倒もみてください。それからわたしは早くから父母がなく貧乏でしたので学がありません、二年勉強させてください」と言った。婿の祖父は孫の嫁は孝行者でやる気もあるとすぐ承知した。

 そこで娘も婿の祖父母に叩頭の礼を捧げてこの家の嫁になった。金持ちは娘の身替りの嫁入りを金と畑で隣の娘に頼んだが果たせず、金と畑は隣の娘の持参金として持たせる結果になってしまった。

             沈陽市巻中                                    1997.9.27

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