夢の三毛猫

 昔、河南村と河北村の境に渾河という河が流れていた。河北村の大工李貴は妻と十二歳になる娘蘭子と暮らし、三毛猫を飼っていた。
 ある年、蘭子の母は重い病気にかかり亡くなった。しばらくして李貴は近所の人の世話で、河南村のやもめ田氏を後妻に迎えた、田氏には十一歳なる女の連れ子小香がいた。初めの二三か月は平穏だったが、日がたつと李貴も仕事で外に出ることもあって、田氏の小香へのえこひいき、蘭子への嫉妬、苛めがはっきりしてきた。

 近所の人が蘭子は小香より可愛いと言えば、田氏は小香に一番いい着物を着せ、蘭子には破れた古い着物を着せた。人が蘭子は仕事が上手で、いまにきっといい娘になると噂すれば、田氏は癪にさわり、蘭子に米搗き、臼挽き、洗濯、炊事、犬や豚の世話まで辛い仕事ばかりさせ、一つでもしないと白い眼をむき、怒鳴り、死ぬほど叩いた。
 ある年、渾河に水が出て田畑がつかり、秋からの食糧が不足した。すると田氏は何時も二人分の米しか出さず蘭子と三毛猫の食べる分がない、蘭子と三毛猫はしかたなく田氏母子が食べ残した物を食べた、三毛猫はお腹を空かしニャアニャア鳴き、蘭子はお腹が空いて元気がでなかった。

 こうした事に三毛猫は我慢できなかったのか、それとも貧乏な家が嫌だったのか、田氏母子の食べ残しを蘭子だけに食べさせようと三毛猫が思ったのか、蘭子と互いに寄り添うように生きてきた三毛猫は家を出てもう戻らなかった。
 ある晩、蘭子がうとうとしていると三毛猫が、とうもろこしの餅をくわえて来てくれた、蘭子は田氏に見られてはいけないと、そっと外のかまどの上の洗い桶に隠し、三毛猫を抱こうとすると目が覚めた、夢だったのだ。また何日かして、蘭子は三毛猫が耳もとでニャアニャア鳴くのを何回か聞き、それから洗い桶を持ってかまどへ行く夢を見て、ハッと目を覚ました、体を起こし、三毛猫が来るわけがないと夢を打ち消した。

 翌日の朝、蘭子は米を洗い、とぎ水を洗い桶にあけると、桶の中にとうもろこしの餅が二つ浮き上がってきた、蘭子は不思議に思い急いで蓋を閉め、田氏母子が気づかない時に、こっそりそれを食べた。こんなふうにして蘭子はどうにか日を過ごし、 やがて十六歳になった。
 ある晩、蘭子は三毛猫が何か贈物をくれる夢を見た、朝になって、田氏母子が見ていない時に洗い桶の中を見ると一対の翡翠の腕輪があった、蘭子は喜んで、両手にはめてみるとちょうどよかった。何日か過ぎて蘭子が水を汲みに行き、手首の腕輪を小香に見られてしまった。

 それを小香が母に告げると田氏は口惜しがり、斧を用意すると、蘭子を自分たちの前に呼び出し、怒ったように「蘭子、手をお出し、わたしがお前の腕に何があるか見てやる」と責めた、蘭子はどうしようと思っていると、小香がサッと蘭子の手を床に押さえつけた、すると残虐な田氏は、バサッ、バサッと蘭子の両手を斬り落とし、翡翠の腕輪が抜けるとそれを小香にさせ「何処のならず者に貰ったんだい、こんな不始末をした罰が手ですんでよかったと思いな、あたしの言うことは間違いないよ、お前の父親の留守の間に何処かへ行ってしまいな」と罵った。
 蘭子は痛くて泣き、どうすることもできなかった。家を出れば飢え死にするとわかっていても、この家にいたら、もっと酷い目に遭うと泣きながら家を出た。

 蘭子は何処でも行き着いた所で残飯を貰い、夜は野宿して歩いた。毎日毎日どれだけ歩いたかわからないが、とうとう遼陽東の山あいの村に着いた。村には東と西に池があり、三軒の家があるだけだった。真ん中の家は張家で布を織る老母と蚕を飼う息子の張小が安楽に暮らしていた。張家の母子は残飯を貰いに来た蘭子を見ると可哀相に思い、そして不幸な身の上話を聞くと蘭子を家にひきとることした。蘭子は喜び、何か家の仕事を手伝いたかったが手がない、それでも蘭子は張小と池に行って張小が水を汲むと、水桶を担いで帰り張小に水を瓶にあけて貰った。
 張小は蘭子を可愛がり蘭子に何もさせたくなかったが、蘭子は何もしなければ食べるだけでこの家にすまないと、いろいろ考えては仕事をした。こうして張家では蘭子が来てから、張小の母は布をどんどん織り、張小は蚕を増やした、母豚は子豚を生み、子豚は母豚になってだんだん豚が増え、鶏は置く場所がないほど卵を生み、張家の暮らしは豊かになっていった。

 二年目の春になると、張小の母は蘭子が純朴で、可愛いく、心も優しいので蘭子が息子の嫁になれば、わたしはあの世に行っても安心だと思うようになった。
 蘭子は張小が働き者で賢く優しいと慕い、もしわたしが張小の妻になれたら一生幸せになれると想ってみたが手がないから、張小がわたしを好きになるわけはないとあきらめていた。張小は蘭子を姿はいいし働き者で心は優しいと感じていて、もし夫婦になれればきっと幸せなれると想っていた。そしてそれを母に打ち明け、二人は喜んで結婚することになった。
 結婚する前の晩、蘭子は三毛猫が自分の手や腕を舐める夢を見た、だんだんくすぐったくなって蘭子は三毛猫を撫でようと、手を伸ばすと三毛猫は消え目が覚めた。それでまた腕をこすると、とてもかゆくてなったので、池に行き月の光の中で腕を洗おうと思い、東の池に行き右腕で水をかきまわすと池の水が澄み、またかきまわすと右腕に手が伸びてもとのようになった。西の池に行って左腕で水をかきまわすと水が澄み、またかきまわすと左腕に手が伸びてもとのようになった。
 両手を振ってみても手は落ちない、左手の中指を歯で噛んでみると血が出て痛い。これは夢ではないと、喜んで空の月を見ると月は丸く明るく輝いていた。喜んで家に帰り張小の母と張小を起こしてもとのようになった両手を見せた。
 やがて、村人にそれが伝わると、村人は驚き蘭子を祝った。結婚式と喜びが二つ重なり張小の母はとても嬉しかった、張小も喜びで胸がドキドキした、そして蘭子はまるで天女のように美しかった。

 話かわって、田氏母子二人は何もせず、ただ棚から落ちる餅を食べるように、家の財産を売っては食べ、金も使い果たしてしまった。おまけに李貴は病気で働けなくなり、田氏母子について町を歩き乞食をするしかなかった。   仇同士はよく出遇と言う。
 李貴と田氏母子の三人がこの村に物貰いにやって来て張家の門前に立ち、「旦那さん、内儀さん、あまった食べ物があったら、あたしたちに恵んでください」と言った。蘭子はそれを聞くと、新しく挽いた高粱を一升持って門へ行き、田氏の袋にあけてやった。
 すると、蘭子は自分の父親が土塀の下にうずくまっているのを見つけ、思わず「お父さん」と叫び、熱い涙が頬を流れた。驚いた李貴と田氏母子は蘭子だと気がつくと袋を捨てておのおの東の池と西の池に逃げ、身を投げて死んでしまった。

 蘭子は晩年子供や孫にこの事を話し、わたしが死んだら家の庭に三毛猫のために小さなほこらを建てておくれと言った。そして母が亡くなると子供や孫は蘭子の遺言どうり、三毛猫の記念のほこらを庭に建てたということである。

            沈陽市巻中                                    1997.9.14

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