九人の息子

 昔、遼河のほとりに一人の老母と九人の息子が安楽に暮らしていた。ところでこの九人の息子にはひとりひとり違った能力があった。
 長男は耳が早い、どんな遠い所の音も聞きのがさない、それで“早耳”と呼ばれた。
 次男は目がいい、どんな遠い所にある物でも見える、それで“千里眼”と呼ばれた。
 三男は足が強い、石臼を毬のように蹴とばす、それで“鉄足”と呼ばれた。
 四男は首が硬い、刀で斬っても槍で突いても一本の毛も落ちない、それで“石首”と呼ばれた。
 五男は肉の皮が厚い、焼いても煮ても平気だ、それで“煮えない”と呼ばれた。
 六男は足が長い、河を渡るにも船はいらない、それで“足長”と呼ばれた。
 七男は泳ぎがうまい、水の上を飛ぶように泳ぐ、それで“飛魚”と呼ばれた。
 八男は手に力がある、高い塔を倒し、石を砕いてしまう、それで“手力”と呼ばれた。
 九男は声が大きい、その声は百里四方に届く、それで“黄金の声”と呼ばれた。

 ある日、一家で御飯を食べおわり、みんなで喋っていると“早耳”が「ホ−、この音はどっかの地震の音だ」と言うと“千里眼”が高い所から眺め「遼陽で地震だ、白い塔が曲がっている」と言った。
 果たして、二日たつと遼陽県の衛門に『白塔の歪みを直した者に白銀一千両の賞金を与える』という布告がでた。三男の“鉄足”はこれを知ると早速、遼陽県へ行き、傾いた白塔をもとのように正しくできると申し出た。県官がその方法を聞くと“鉄足”は「わたしのひと蹴りで直します」と答えた、県官が信用しないので“鉄足”は地震で傾いた衛門の石柱を軽く蹴って真っ直ぐにした。県官はそれを見て「よし、蹴って直せ」と言った。

 人々は傾いた白塔を足で蹴って直すと聞いて大勢集り、県官も見に来た。役人たちが “鉄足”を傾いた白い塔の前に連れて来ると“鉄足”は慌てず、白塔の前に立つて「ヤア−」と声を上げて蹴飛ばすと塔はあちら側に曲がった、すると“鉄足”は反対側に回り、また蹴飛ばした、するとこちら側に曲がる、“鉄足”がまた反対側から蹴ろうとすると、県官は「また蹴れば壊れてしまう」と怒鳴って止めさせた、すると役人が塔に割れ目ができたと県官に報告した、県官はこれを聞くと大いに怒り、“鉄足”を捕まえようとしたが“鉄足”はこれはまずいと早々に逃げてしまったので、県官は「やつの家の四男を身代わりに捕まえろ」と言った。

 役人は老母の家に行き、四男の“石首”を捕らえ衛門に引き立てた。県官が「お前の家の三男が白塔を蹴って壊し、首を斬られるのを恐れ逃亡した、お前が身代わりになって罪を償え」と言うと、四男はうす笑いしてゆっくりと刑場へ行った。首斬人が「ヤア−」とひと声あげて大きな刀を振り下ろしたが“石首”は目を開けたまま、首は斬れず刀が折れてしまった、首斬人は刀を換えてまた振り下ろしたが、やはり刀は折れてしまった。これを聞いた県官は「五男をひっ捕らえて来い」と命じた。

 役人はまた老母の家に行き、五男に「お前の四番目の兄は首が固くて斬れない、お前が代わりになれ」と五男の“煮えない”を捕らえて衛門へ連れて行った。“煮えない”は俺の首は四番の兄の固さはないから首斬人に斬られてしまうと考え、わざと自分の首を出し「俺たち兄弟九人はみんな首が固いのだ、斬れるなら斬ってみろ」と言った、それを聞くと県官は困ってしまい、よしそれならと、五男をせいろ蒸しにしろと役人に命令した。役人は急いで大きなかまどをつくり、その上に大きなせいろをかけ、中に五男をいれ蓋をし、交替で一晩中火を燃やし続け、朝蓋を開けてみると、五男はせいろの中でのびている、役人は死んだなと思って近寄ってみると鼾をかいて寝ているのだった。そこでまた県官は「六男を捕まえて来い」と命じた。

 また役人は老母の家に行き、六男の“足長”を捕まえようとしたが、六男は河の中へ逃げてしまった、役人は河の中を追いかけたが、六男の足は河の水が膝までにもつかないのに、役人は河にまず膝までつかり、つぎは腰まで、臍までとなりとうとう首までつかり、追いかけられなくなり、みすみす“足長”をとり逃がしてしまった。役人がこれを県官に報告すると県官は「こうなれば、あいつら兄弟をみんな捕まえてしまえ」と命令した。役人はまた老母の家へみんなを捕まえに行った。

 七男の“飛魚”はこれはいけないと、老母を背負い、両手に長男と次男、両足に八男と九男をのせ河の中へ船のように泳ぎだし矢のように見えなくなった。みんなは誰もいない岸にあがって、どうしようかと相談した。八男の“手力”は「こうやって逃げ回っていても長くは続かない、それより俺たちが衛門へ行き白塔を直して、県官に俺たちを許してもらおう」と言った、みんなが賛成したので八男は衛門へ行った。

 八男が県官に白塔を直すと申し出ると、県官は「この兄弟をみんな殺しても、白塔は直らないし、あとでこれを皇帝に責められたらもっと面倒だ、先ずこいつの言うとうりにして白塔が直せるか直せないか見てからにしょう、直れば許し、直らなければそのあと殺してもおそくはない、と考えた。

 八男の“手力”が塔の前で見上げると、塔はひどく曲がっている。“手力”は片方の手で塔を支えながらもう一方の手で塔を押しゆっくり塔を直していった、県官の見ている前で塔は真っ直ぐになった。それで老母一家の九兄弟はみんな許された。  

              沈陽市巻中                                    1997.9.8

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