閻魔大王の病気   

 ある時、閻魔大王が重い病気にかかりました。霊界の医者が診察しましたが誰にも治せません。閻魔大王の手下たちは「大王さまもいよいよ終わりが来たか」と心配でたまりません。そこで判官が「娑婆の有名な医者を連れて来ては如何でしょう」と意見を述べると閻魔大王は「それはいい、早く行って連れて来い」と喜んで言いました。

 ところが、手下の鬼たちは誰一人として「行きます」と言いません。判官は「もしお前らみんなが誰も行きたくないと言うなら、お前らみんなを現世に遣わし、よい医者を連れて来なかった者には罰を与えるぞ」とおどかしました。すると年配の鬼がおそるおそる判官に「わしらは霊界の医者の誰が有名で誰が有名でないかは分かっておりますが、現世では看板を見て医者と分かるだけで、さてどの医者が脈をとるのが上手で、どの医者が下手かは分かりません、どうしたらいいでしょう」と聞きました、判官は「それは簡単だ、お前たちが何処の医者に行こうが、医者ならば誰だって、その医者にかかって死んだ死霊が恨みを持って医者の背中に幾つも、きっととりついている、もし名医なら背中にとりついた死霊は少ない、だから背中の死霊が少ない医者を連れて来ればいいのだ」と言いました。

 この話を聞くと鬼たちはみんな「それならわけはない、誰でも行きます」と一斉に答えました。判官は「そんなに大勢はいらない、死霊鬼が一匹行けばいい」と言いました。そこで一匹の死霊鬼が現世へ遣わされました、死霊鬼は現世に来て、いろいろな医者の処へ行きましたが、一人として背中に死霊のいない医者はいませんでした、少なくても五六十、多い者は百以上も背中に死霊がとりついていました。死霊鬼は大きな町から小さな村まで、くまなく何回も訪ね、十日あまりも歩きまわり、すっかり、へたばってしまいました、それでもまだ背中に死霊のない医者を探せません。  

 死霊鬼は今日もまた背中に死霊のない医者を探し歩いていると、前に綺麗な医者の家が見えました、急いでその医者の背中を見ると二つしか死霊がついていません、死霊鬼はこれこそ名医だと、すぐにこの医者の首に鎖をかけ、霊界へひっぱって行き、判官に見せました。この医者は判官に「お前は現世の医者か」と尋ねられましたが、何がなんだか分かりません、でも正直に言うより仕方がないと思って「はい、私は医者です」と答えました、すると判官は急に丁寧になって鎖をはずすと先ず煙草とお茶をだし、続いて遠来の客を迎える宴を開き、閻魔大王の病気を治してくれと頼みました、医者は顔を土色にして驚き、慌ててこれを辞退しました。

 すると判官は「先生は現世の名医ではありませんか」と言うので、医者は「いいえ、とんでもない」と答えますと「ご謙遜には及びません」と判官が言うので医者が「どうして私が名医なのですか」と聞くと、判官は笑いながら「先生が現世の医者の中で背中に恨みの死霊が一番少ないことはもう死霊鬼に調べさせてあります、これは先生が病人を甦させる名医だからでしょう」と言いました、医者はこれを聞くと、はたと膝を打ち「私は開業してまだ三日で、二人の病人の治療を始めたばかりです、まさかあの二人を私の手で死なせようと言うのではないでしょうね」と言った。  

       李占春故事選               1998・1・11校正(1992/10/28)

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