鉄拐李の話
“八仙人”の一人“鉄拐李”はもとは俗人で、女房と子どもがいたが家は貧乏であった。
ある年の冬、鉄拐李の家にはもう何日も食べる物がなく、子どもは凍えた紅虫のように綿入れにくるまり、お腹を空かしてオンオン泣いていた。女房は涙を流しながら「お前さん、せめて子どもの分だけでも、どっかで食べる物を盗んで来ておくれ」と訴えた。
他人の高粱の茎一本だって盗んだことのない鉄拐李も今度ばかりはその気になり、夜、人が寝静まってから、肌身離さず持っている貰い物を入れる瓢箪の器を持ち、杖をついて家を出た。ぬき足さし足で行くと、まだ来たことない村の中で高粱の入った笊をさげた家を見つけた。しかし、鉄拐李はこの家は母一人子一人の家ではないか、そうだったらこの家は暮らしに困るだろう、どうしよう、だがぐずぐずしてれば夜が明けてしまうと、行ったり来りしていたが、とうとう手を出さずにはいられず二斗の高粱を盗んで逃げた。
善人の鉄拐李は二斗の高粱を担ぎ、ドキドキしていた、“この家が俺と同じように貧乏だったら、この盗んだ二斗の高粱で人が死ぬかもしれない”と考えると足が鈍った、すると後ろから「何処の人がこんなことをしたんだ、二斗の高粱をだいじにしていたのに、俺たち母一人子一人はどうして生きていくのだ、ア−」という泣き声が聞こえると、鉄拐李は両手で足が押さえられたようになり、一歩も動けなくなった。鉄拐李は夜の暗がりを幸いに身を翻して戻り、その家の窓の下に盗んだ二斗の高粱をそっと返し、空になった瓢箪の器を提げ、足をひきずって家へ帰った。
女房は鉄拐李が手ぶらで帰ったのを見ると“ろくでなし”と怒鳴りつけたが、鉄拐李は苦にもせず、空き腹を押さえて笑いながら、女房だって人情があるからわかってくれるだろうと「今夜はおわりだ、明日の晩は金持ちの家を狙おう」と言った。翌日の晩、鉄拐李は金持ちの家の庭に忍び込み倉を探すと、瓢箪の器を地面に置き、腰の縄を取り出して、あたりの様子をうかがうと物音もしない、そこで倉の壁をほじくり始め、半時ほどで倉の壁に穴をあけ、這いつくばって中へ入ろうとしたが、鉄拐李は“待てよ、もし中に人がいたら、わしの頭はたちまち引っ越しだ(斬られてしまう)”と思い、また頭をちぢめて穴から出し、試しに瓢箪の器を杖の先で倉の中に押し込み、人がいないのを確かめてからにしようと考えた。
ところで、鉄拐李が倉の壁に穴を開ける音は小さかったが、静かな真夜中なので遠くまで聞こえ、金持ちは怪しいと疑い、そっと下男を倉の中で待ち伏せさせていた、鉄拐李が杖の先で瓢箪の器を穴の中に入れる時“カタッ”と音がしたので下男は刀で瓢箪を真ぷたつにした、驚いた鉄拐李はその場で逃げ出したが家には帰らなかった。それは、このことが官に知られ家人も罰せられてはと考えたからだが、また自分は無能で一家の女房、子どもを養う力もないと思ったからである。鉄拐李は思いきって遠い山へ行き、古い寺を見つけるとそこで修行した。
またたくまに二十年過ぎ、鉄拐李は解脱して仙人となった。ある日、鉄拐李は自分の家の前を通ると、家では何か祝い事の最中で、庭は市のように賑やかで太鼓や笛が鳴り、昔のあばら家は立派な邸になっていた。鉄拐李はこの様を見て、喜びの涙を流し、しきりにうなずいていた。すると門番は汚い乞食が門の前を行ったり来たりしてはみっともないと「あっちに行け、来るんじゃない、さっさと遠くへ行け」と鉄拐李を追い払った。鉄拐李はそれには構わず、独り言を言っていたが、指に唾をつけ門の外の壁に四行の詩を書いた。
二十年前盗みに入り 一刀のもと、瓢箪を斬られる 子孫には子孫の仕合せ 父母に孝養はいらぬ
するとこの四行の字が大きく金色に輝やいて現れ、客たちは驚き壁の周りに集まり、下男は慌てて老夫人に知らせに行った。実は老夫人は夫の鉄拐李が家を出てからずっと夫を思い続け目が見えなくなり、苦労して子どもたちを育てたのだった。そして昨夜、老夫人はいなくなって何年にもなる鉄拐李の夢を見たのだった、その鉄拐李が客として来たことを喜び、子どもや孫に手をひかれて門の前に迎えに出ると、目に光を感じ、両手で目をこすると、見えた、見えたのである。はっきりと天の上に夫の鉄拐李が杖をつき髭をなでて笑いながら立っているのが見えたのである、やがて鉄拐李は手を振り白い雲に乗って飛び去った。
沈陽市巻中 1997.9.3