勇敢な金牛
ずっと昔、大きな山の麓に狩猟で豊かに暮らしている勤勉で勇敢な満族の人々がいた。
ところが、ある年の夏、大雨が何日も続いた晩、突如大きな音がして山の上の泉が陥没し、泉の水が濁流となって海のように猛然と麓に襲いかかり、みるみる村は水に浸った、村の老若男女は危険をおかして泉の口を塞ごうと命がけで土を運び、石を担いで昼も夜も奮闘したが水を防ぐことはできなかった。一人ひとり、みんな力をつかい果たし疲れきっていた。その中の金牛という若者は立ったまま眠ってしまい夢を見た。
一人の白い髭を生やした老人が、龍の頭を彫った杖をつき、「カッカッカ」と笑いながら来て、「若者よ、あの泉の口は土や石では塞げない、この濁流を鎮めるのは頂上の槐の老木の下にある金龍だけだ」と言いおわると老人は消えた。
夢から覚めた金牛は、半信半疑でこの夢の話を村人のみんなに話し、山の槐の老木の下をひと鍬ひと鍬、慎重にしばらく掘ると、本当に光輝く金の龍がでてきた。村人はみんな大喜びすると、一人の村人が「本当かどうか、この龍を泉に担いで行って試してみよう」と言い、みんなでこの金の龍を担ぎ上げ、陥没して水が溢れる泉の口へ置くと、これは不思議、泉から溢れる水はとまった。こうして村人は水の災害を免れた。
泉の水を鎮める金の龍を掘り出し、村人を幸せにした若者の金牛はそれからますます村の人々みんなに愛されるようになった。わけても村の若い娘たちは金牛の心の愛を求めようとして、そっと金牛に愛の目を向けた。けれども金牛は狩人の那尭の娘小尼と幼馴じみで、小尼は小さい時から金牛が好きだったし、金牛も早くから小尼という可愛い花を摘みたいと思っていた。
ある晩、金牛と小尼は昼間の狩りの獲物を担ぎ、月の光の小道を歩きながら、互いの気持ちを話し合った。「村の人にはわたしたちの仲を知られてないけど、誰がわかってくれてるかしら」と小尼が言うと、金牛は空の月をさしながら「俺たちの仲は月と星がわかっているよ」と答え、互いの恋心を確かめた。二人が話しながら歩き、村の近くまで来ると山の頂上で何かが動いている。じっと見ていると、泉の口に三人の盗賊があの金龍を盗もうとしている、勇敢な金牛は小尼に「急いで村人に来るように伝えてくれ、俺は先に行っている」 「駄目よ、一人じゃあぶないわ」 「小尼、俺のことは気にするな、急がないと間に合わない、もし金龍が盗まれれば、再び水が溢れ俺たち満族の命が危ない」と言うと金牛は矢のように山に向かって走り出した。
さて、この三人の盗賊は前から金龍が欲しくてたまらず、鉄の金づちで動かそうとしたのだ。だが金龍はびくともしない、そこで盗賊は金龍を転がそうとした、その時、金牛が矢のように駆けつけ、刀を振り上げ「盗賊」と怒鳴った、三人の盗賊は突然の声に驚き、振り返ると金牛一人だったので、ひらきなおり、賊の一人は金牛に斬りかかり、二人は石で金牛に殴りかかってきた、金牛は恐れず、斬りかかってきた賊に斬りつけ、何回かの鍔ぜりあいのあと金牛はその賊の頭をバッサリと斬り落とした、残った賊は形勢不利と、ひるんで逃げようとすると、もう一人の賊が「逃げるな、やってしまえ」と大きな石を投げてきた。金牛がその石をよけると、つぎつぎと石を投げてくる。金牛はただ盗賊を打ち村の災難を除くことだけを考え夢中で飛んでくる石を避けていたが、盗賊が金牛の後ろから投げた石が金牛の頭に当たり、金牛はぐらりとゆれて地上に倒れた。
二人の盗賊はこの時とばかり逃げると、「盗賊」と言う声がした、小尼と父の那尭が村人たちと盗賊を追いかけて来たのだ。二人の盗賊は驚いて命からがら林の中に逃げると、那尭の射った矢は盗賊の一人の背中に当たり「ア−ッ」と声をたてた、残った盗賊も命がけで逃げたが、矢の飛ぶ早さにはかなわない、また「ア−ッ」と声を立て、振り向いた時に、小尼の射た毒矢が盗賊の喉に刺さった。こうして三人の盗賊は退治された。
村人たちが頂上の泉の口に行くと金龍は無事であった。しかし、勇敢な金牛はそこに血を流して倒れ、みんなのために若い命を捧げていた。小尼は金牛を抱いて泣いた、村人の熱い涙のうちに金牛は山の頂上の葬られ、小尼は野の花を摘み金牛の墓の周りに挿した。そして小尼の涙はまるで小さな川のようにとめどもなく流れた。
それから村のために身を捧げた金牛を記念して人々はこの山を金牛山と呼ぶようになった。
沈陽市巻中 1997.8.28