紅い袋

 ある所に多くの使用人をかかえた大金持ちの長者がいた。長者夫婦はたった一人の娘をたいそう可愛いがっていた。
 ところがある日、長者の屋敷に一陣の怪しい風が舞い、砂や石を吹き散らしたかと思うと、突如、娘の姿が見えなくなった。長者は人や馬を走らせ、あちこち捜し回ったが見つからない。そこで長者は娘を捜した者には財産を譲り、娘と結婚させるという高札を立てた。けれども一か月たっても誰も娘を捜しだせず、長者夫婦は弱り果てていた。

 長者の使用人に馬の世話をする十五歳の劉小二という若者がいた。日頃から長者は劉小二をあまり役に立たぬと思っていたが、小二は黙々として働き、娘がいなくなって気を病んでいる長者を心配していた。そしてある日、長者に娘を捜しに行かせてくださいと申し出た、長者は小二に捜せるわけないと思ったが、行きたいなら行けばいい、何しょうと勝手だと、小二の申し出を承知した。そこで小二は長者の愛娘を捜しに出かけた。

 劉小二は山を越え谷を越え二か月あまり歩き、どれだけ遠くまで来たかわからなかった、疲れて腰は痛く足は痺れ、ただ苦しいばかりであった。
 ある日、小さな荒れ寺を見つけ、腹も空き喉も渇いていたので、何か食べる物を恵んで貰おうと荒れ寺の中の入ると、一人の道士が目を閉じて横になっていた。小二は「道士さま、何か食べ物を恵んでくださいませんか」と言ったが、何度言っても道士はまぶたすら動かさない、見れば何年も体を動かさないのか、道士の体には銅銭の厚さもあるほこりが積もり、そばの小さな紅い袋の中には炒った大豆が幾つか入っている、小二は大豆を出して食べたが幾ら食べてもなくならない、腹が一杯になった後も袋の中には幾粒かの大豆が残っていた。

 腹が一杯になった小二はまた歩きはじめ、山の林の中に入ると、一人の娘が立っている、よく見ると長者の愛娘だった、娘も使用人だった劉小二だと分かると、泣きながら狼の妖精に捕まった一部始終を劉小二に聞かせ 「お前がいま見ているのはわたしの魂で、わたしの体は狼に食べられ、骨は南山の二本松の下に埋められている」と話した。劉小二がそれを聞いて大声で泣くと、娘は「泣かないでいい、お前がわたしを助けてくれる方法がある、わたしの骨を背負って帰り、骨をもとの人のかたちに並べ、毎日お椀三杯の清水をわたしのしゃりこうべに百日かけてくれればわたしは生き返る」と言った。小二は娘の骨を掘りだして背負って帰った。

 狼の妖精は娘の墓があばかれ、骨が無いのを見ると、誰かが娘を救うとしていると気づき、小二を追いかけて来た。小二は命がけで逃げ、もう少しで狼の妖精に捕まりそうになった時、あの荒れ寺が目の前に現れた、慌てて中へ駆け込み、道士の頭を揺って起こし救いを求めた、すると道士は目を開け、狼の妖精が来ればわしに方法があると、道士の体の後に隠れるように言った、小二が道士の後に隠れると、怪しい風が吹き狼の妖精が来て荒れ寺の壁を破り、しばらくして窓の外から毛がもうもうと生えている大きな手が入ってきた、小二が驚いていると、道士は枕の下から宝剣を取り出し狼の妖精の腕に斬りつけると狼の妖精は逃げて行った。

 だが道士は「妖精は腕が治れば仕返しにくる、その時はわしに頼らずお前が妖精を退治しなけれならぬ、だがこの三つの宝があれば恐れることはない、一つは払子、一つは宝剣、一つは紅い袋、この三つの宝を長者の家の大門と玄関、部屋の戸に分けてかけておけば、すべて安心だ」と言った。小二は道士に礼を言い、三つの宝を持ち、娘の骨を背負って帰り、長者に愛娘の骨を助けた話しをすると、長者は大喜びし女中たちに小二の言う通り娘の骨をもとの人のかたちに並べさせ、大門の上に払子、玄関の上に宝剣、部屋の戸の上に紅い袋をかけさせた。

 さて、狼の妖精は傷が治ると小二に仕返しに来た。狼の妖精は長者の家の大門に入ると、はじめに払子に払われて前に這いつくばり、玄関に来ると宝剣に腕を斬られ、部屋に入ると紅い袋がかぶさった。そこへ道士が現れ、払子で払い宝剣を振ると紅い袋は小さくなり袋の中の狼の妖精は動かなくなった。道士は「妖精は退治した、お前は娘を生き返らせてやれ」と言って消えた。

 小二は人のかたちに並べられた長者の娘のしゃりこうべに毎日お椀一杯の清水を三回かけた。こうして百日たっと娘は生き返り、母と娘は抱き合って泣いた。長者も喜び、劉小二と娘の結婚式を挙げ、劉小二は長者の家の婿となり若い夫婦は末永く仲よく暮らした。

              沈陽市巻中                                    1997.8.25

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