金童子と銀童子

 福の神の使いに金銀の童子がいるか?  いる。
 誰か見た者がいるか?  いる、夏家の長男だ。      

 ずっと昔、夏という老夫婦がいた、娘はいないが、同じような二人の息子がいた。一つ違いで、次男はもうすぐ十八、長男は十九、どちらも妻を娶る年なったが嫁を娶るには金がいるので、老父母は困っていた。なにしろ貧乏で僅かの蓄えも食べる方にまわり、息子に嫁を娶る金の半分もたまっていないのだ。

 ある日の晩も老父はそれを悩やみ、大きな目をあけたまま、床の上でまるで餅を焼くよにうに体をひっくり返りして眠れずにいると、戸口を開ける音がして赤い腹掛けをし髷を結った童子が来て、「爺さん、何を心配しているのだ」と聞いた、老父は外の門は閉めたし、中の門にも錠を下ろしておいたのに、こんな真夜中、何処から来た子供だろうと驚き、何かの神さまが来たのかと思い、「あなたは何の神さまの童子ですか」と丁寧に聞いた、童子は笑って「わたしは福の神の使いの金童子、福の神は爺さんが真面目に暮らしているのに、二人の息子に嫁を娶らせることができず悩んでいるのを知り、わたしを下したのだ」と答えた。

 老父は喜び「わたしには金銀の福がありませんでしたが、我が家の誰がその福分にあずかれますか」と尋ねると、金童子は「そういう天意は言えない、でもわれら金童子と銀童子の兄弟は、南山の曲がった柳の下と北山の荒れ地の中に順番に交替して住んでいる。爺さんが二人の息子を北山と南山に別々に行かせれば、福分のある方が、われらを見つけるだろう」と言うと金童子は一条の光となって消えた。

 やがて鶏が三度鳴き夜が明けると、老父は二人の息子を呼び、金童子のことを一通り聞かせると兄弟は喜んだ。次男はすぐ、南山は遠いが柳を探すのは楽だ、北山は近いが荒れ地の中を探すのは大変だと頭を働かし「南山は道が遠いから、弟の俺が行く、近い北山には兄貴が行けばいい」と言った。兄は人が好くて弟の企みが見抜けず「いいよ」とうなずいた。

 そこで弟は食べ物と水をたっぷり持ち、ツルハシを担いで南山に真っ直ぐ向かった。山を越え峰を越え、どうやら南山の麓に着くともう昼になり、一休みしようと腰を下ろすと、一人の老人がトボトボと来て、咳込みながら「あんた、わしは子供も身寄りもない哀れな者で、もう三日も飯の匂も嗅いでいない、少し食べ物をくれないか」と言った、弟はそれを聞くと笑い「いい年をして何を言うんだ、あんたは何十年も飯を食っているから腹に力があるだろう、二三日食わなくても大丈夫だ。俺は若くてまだ腹に力がない、この飯はやはり俺が食う」と言うと、目尻をさげ旨そうに食べ始めた。
 老人が食べたくて生唾を飲み込むと、弟はわざと目をそむけ、見ないふりをした。老人はまた溜め息をつき「あんた、せめて一口水を飲ましてくれ」と言うと、弟はうるさそうに顔をしかめ「しつっこい奴だ、いつまでグズグズ言ってんだ、水が飲みたきゃ河にある、あっちへ行け、宝探しの邪魔をすると殴るぞ」と言って拳を振り上げた。老人はそれを見ると頭を振り溜め息をついて去った。

 弟は腹が一杯になると山に登って曲がった柳を探しまわり、櫟林のわきにその柳を見つけると柳の周りを掘りまくり、日が山に沈むまで探しに探したが金銀童子の影も形も見つからなかった、弟は怒って家へ帰り、俺を騙したと老父をなじった。

 さて、兄も食べ物と水を持ち、ツルハシを担いで北山へ行った。すぐ山の斜面に広い荒れ地を見つけ、ツルハシで土を起こし昼には荒れ地の半分ほどを掘り起こしたが金銀童子は見つからない。でも兄は掘り起こした細かく柔らかい黒い土をながめ、芋を植えるにはいい土だと喜んだ。
 そして昼飯を食べることにすると、弟に食べ物と水をくれと言ったあの白い髭の老人が来て、兄にも食べ物をくれと言った。兄は老人を丁寧に迎えて座らせ食べ物を出すと、老人は遠慮なくガツガツと食べたり飲んだりして、すっかりたいらげてしまった、兄は老人が旨そうにみんな食べてしまったのを見て、すまなそうに 「お爺さん、まだたりませんか」と言うと老人はハハハと笑って「ちょっとたりないな、ここに芋の苗があるからこれを植え、芋を焼いて食べよう」と言って袖の中から芋の苗を出すと、土をほじくり穴をあけそこに芋の苗を植えた。すると小さな苗はみるみるうちに葉をつけ蔓を伸ばし土の中に根をはった。
 老人がそれを掘ると茶碗ほどの太さで箸くらいの長さの金童子が出てきた、金童子は日の光りを受けて輝き、まぶしくて目をあけていられないくらいだった、老人はそれを兄に渡し、慈悲深く「これを持って行って妻を娶るがいい、お前の弟が欲しいと言ってもやってはいけない」と言った、兄はことのなりゆきに驚き、ボ−としていたが、しばらくして気がつき老人の姿を見るともう消えていた。

 兄が家へ帰ろうとすると、南山から帰る弟が追いついて来て、兄が金童子を持っているのを見ると、兄を殺して金童子を自分の物にしようと考え、笑いながら「兄さん、金童子を探して疲れただろう、俺が代わって持ってやる」と兄の金童子をとると自分の懐にしまった、兄は弟が自分を心配してくれたと嬉しくなり、一緒に家へ帰った、途中に井戸があると、弟は水を飲むふりをして、井戸の前に行き、大きな声で「兄さん、早く来て、井戸の中に子供が落ちている」と叫んだ「早く助けよう」と兄が急いで井戸の中をのぞくと、弟は兄を井戸の中へ突き落とした。兄は弟に井戸へ突き落とされ、はじめて弟の悪だくみがわかった。

 兄はこのままでは溺れて死んでしまうと、井戸の中をよく見ると、これは不思議、何故かそこは南山で、目の前に曲がった一本の柳があり、その前は櫟林であった。兄はこの緑のつやつやした大きな櫟の葉は養蚕にいいと考えていると、金童子をくれたあの白い髭の老人がまた現れたので、兄はきっと神さまだと思い、すぐひざまずいて「神さま、助かりました」と礼を言った、老人が「お前は弟を恨まないのか」と聞くと、兄は 「わたしの弟は悪い心を起こしましたが、わたしたちは一人の母から生まれた兄弟です、わたしは弟を恨みません、どうか神さま弟の罪を許してください」と言った、老人はうなずき兄の手をとると「わしは蚕を持って来た」と言い、袖から一匹の蚕を出して櫟の葉の上におくと、蚕は大きくなって糸を吐き出し老人がこの糸をたぐると茶碗ほどの太さで二尺くらいの高さの銀童子に変わった、そして蚕は花のように美しい娘に変わり、なよなよと兄の前にすすんだ、老人は「蚕娘を妻に娶り、銀童子を持って山を下りよ」と言うので兄は急いで「あなたは何の神さまですか」と聞くと「わしは福の神、心の優しい働き者に金を授ける福の神だ」と言うと、白い雲に乗って飛び去った。

 兄は娘を連れ喜んで家路についた。家では老父母が次男に兄は金童子が探せなかったので井戸へ飛び込み自殺したと告げられ、愛する長男の死を痛み、嘆き悲しんで泣いていると、長男が美しい娘を連れて帰って来たから驚き喜んだ。老父母は長男からいままでの話を聞きおわると、もう気を失うまでにびっくりして、次男に聞きただそうとすると、次男は突然、金童子にみんなの前にひきだされ、バタンと音を立てて倒れると白い泡を吐いて死んでしまった。みんなは次男の悪心を憎んだが、やはり肉親なので死を痛んで埋葬した。

 長男と娘は結婚し金銀童子を大切にした、やがて大きな田畑を持ち、百里四方に聞こえた長者になったという。  

             薛天智故事選                                  1997.8.15

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