楊小が水を取り返す
昔、ある村に身寄りのない独り者で、羊飼いの楊小という若者がいた。村には井戸がなく、人々はみんな河の水を飲んでいた。
ある日、村に赤ら顔の大男が手に水桶を提げてやって来ると、河の水を桶一杯に汲むと、それを持って西南の方に姿を消した、ところが大男が見えなくなると河の水はみるみる干上がっていった。
楊小が羊を連れて村へ戻ると、村の男や女、老人、子供までみんな涙を流して泣いていた。楊小はわけを知るとすぐその大男を追いかけようと決心し、大男が行ったという西南に向かった。しばらく行くと白髪の老婆がいて、楊小に「お前、あの男を追いかけてどうするんだい、追いかければ命はないよ」と言った、楊小は「わたしは命をとられても怖くはない、どうしても村に水を取り返すのだ、わたしは命がけだ」と言った。
白髪の老婆は楊小の決意が非常に堅いことがわかると「お前さんは勇敢な人だ、じゃあ追いかけるがいい。ここに三つ小箱がある、はじめの災難が起きたらこの藍の小箱を開ければ助かる、第二の災難には赤い小箱を開ければ凶が吉に変わる、第三の災難が起きたら黄色の小箱を開ける、そうすればお前は水を取り返して村へ帰れる。だが、小箱を開けるたびにお前の体は傷ついていくよ、そして最後には命をとられる。それでも追いかけるかい、きっぱりとやめたほうがいい」 「いや、わたしは行く」 楊小の心は鉄のように堅かった。
白髪の老婆から小箱を受け取ると、礼を言って大男を追いかけた。 夜になって楊小は道に迷い、お腹が空き眠くなってきた。ふと前に灯りが見える、急いでその灯りを目指し、門を敲くと、美しい娘が出て来て楊小を招じ入れ、食事を出してくれた、楊小は礼を言って、出された食事をガツガツと食べ、食べおわるとそこに箸とお椀をおいたまま寝込んでしまった。真夜中になって楊小は“カサカサ”いう音に目を覚ました、目をあけると床の下で二匹の鼠が喧嘩している、お椀をとって鼠を叩くと、二匹の鼠はロバのように大きくなり、口を開けて楊小に迫って来た、楊小は驚き慌てて藍の小箱を開けると中から大きな猫が飛び出して、ロバのように大きい鼠に襲いかかった、するとびっくりした二匹の鼠は元の大きさに戻り、そして猫に食べられてしまった。安心して楊小が思わず自分の耳に触ると、なんと耳がなくなっている、ハッとして猫を見ると、もうそこに猫の姿はなかった。
翌日、楊小が大きな池の前に来ると、突然、大きな魚の化け物が大きな口を開けて楊小に迫ってきた、楊小が急いで赤い小箱を開けると中から火の玉が飛び出し、ちょうどひらいた魚の化け物の口の中に入り、魚の化け物は焼け死んでしまった。
楊小に喜びの涙が流れ、目をこするとなんと左の目が潰れていた。それでも楊小はひるまず、更に足を速めて大男を追いかけ、遂に赤ら顔の大男に追いついた。赤ら顔の大男は山の頂上に座っていた、そばにあの水桶がおいてある、楊小は大声で「わたしは水を取り返しに来た、早く水を返せ」と怒鳴った、すると赤ら顔の大男は立ち上がり「お前という奴はあきらめの悪い頑固者だな、わしはお前に二度、帰るように仕向けたのに、それでもかまわずやって来た、水と命をひきかえてもいいのだな」と言い、楊小は「村の人が救われれば、わたしの命はどうでもいい」と言って闘った。
楊小は黄色い小箱を開けた、すると中から二羽の黄色い小鳥が飛び出して、木の枝にとまり“羊飼いや、羊飼いや、水を取り返すなら、桶を壊せ”と鳴いた、それを聞くと楊小は腰にさした羊飼いの鞭で素早く桶を打ち砕いた、すると赤ら顔の大男の姿が消え、桶の水は山の頂上でひと塊りになった。また木の上の鳥が“羊飼いや、羊飼いや、水と一緒に山を下りろ”と鳴いた、楊小が山を下りると水も一緒に山から下り、楊小が麓に着くと水は村に入って流れ、もとの河となった、村人はみんな喜んで楊小に向かって駆け出すと、楊小も喜んで“ハハハ”と笑ったがそのままバッタリ倒れてしまった。
すると楊小の心臓や肺などの内臓が木の枝にかかり、その血が河の流れに滴り、河の水は赤く染まった。人々はみんな楊小を悲しんで泣いた。
それからこの河の水はとぎれることなく流れ、どんなに日照りでも涸れず、どんなに雨が降っても溢れなかった。そして人々は河の水を飲む度に心の中で楊小の名を唱えるのだった。
沈陽市巻中 1997.8.11