ここに銀貨三百両ない
昔、自分は利口者だと自負する張三という男がいた。何とか銀貨三百両をためこみ、いったんは喜んだが、銀貨を盗まれはしないかと心配になった。それでいて、何処へ隠したらいいか分からない。さんざん考えたあげく、この銀貨三百両を小さな箱に入れ、大きな鍵を二つつけることにした。
だがまた、もし泥棒が箱ごと銀貨を持って行ったらどうしょうと考え直し、考えに考え、とうとう家の中に安全な隠し場所はないとあきらめ、悩みに悩んだ果てに、やっといい方法を思いついた。そして夜中になって家の裏の土塀の下に穴を掘り、そこへそっと銀貨三百両を埋めた。
だがまたすぐ、ここに銀貨を埋めたと人が思いやしないかと心配になりはじめた。そこでまた、ああだ、こうだと考えた末、自分でも、うまい方法を考えついた。張三は紙に“此地無銀三百両”(ここに銀貨三百両ない)と七個、大きな字で書いた紙を目につくように銀貨を埋めた土塀の上に貼った。張三はこうしておけばもう安全だと、やっと安心してぐっすり寝こんだ。
ところが、この張三の様子をすっかり隣に住む王二が見ていた。王二は張三がぐっすり寝こんだ真夜中、張三の家の裏に行き、そっと銀貨三百両を掘り出した。この王二もまた自分は利口だと自惚れている馬鹿で、銀貨を盗んだのが自分だと張三に疑われるといけないと、いいことを思いつき、“隔壁王二不曽偸”(隣の王二は盗んでいない)と七個、大きな字で書いた紙を目につくように銀貨の埋まっていた土塀に貼って逃げた。
後世、この物語をもとにして“此地無銀三百両、隔壁王二不曽偸”という一句を作り、ある事を隠そうと考えてしたことが、かえってそれを露顕させてしまう比喩とした。やがてこの一句が簡略化されて“此地無銀三百両”となった。
<成語故事三百篇>北方婦女児童出版社 1997.7.27