蜘蛛の精

 昔、趙という長者がいた。趙家には広い家と土地があり、三人の娘がいた、長女と次女はすでに嫁ぎ、三女も嫁にでることになった。相手は東村の王家である、嫁入り道具もすっかり揃い、趙家ではいよいよ二台の馬車で末の娘を送り出した。
 王家に着いて娘が馬車から降りると、なんと馬車から降りたのは、着ているもの同じ、背丈も同じ、どこからどこまでそっくりな二人の花嫁であった。人々はこれはいったいどうしたことかと驚いた。馬車に乗ったのは一人の花嫁、それなのにどうして二人の花嫁になったのだ、途中で人が乗ったなんて誰も知らない。

 王家はこれは花嫁の父親に見てもらうしかないと趙長者を呼んだ、趙長者が来て娘を呼ぶと二人とも「わたし、わたし」と答える、兄と姉たちも来て見たがやはり分からない、上の姉が「妹なら耳の根元には小さな赤い痣があるはず」と言うのでみんなで見てみると二人とも耳の根元に小さな赤い痣がある、どうしよう、母親にも来てもらおうと母親を呼ぶと、母親が「わたしの本当の末娘なら足の裏の土ふまずに一筋の傷跡がある」と言うので靴をぬがして見てみると、二人とも土ふまずに傷跡がある、母親でも分からなければ、もうどうしようもない。

 そこで陰陽の先生に見てもらったが、陰陽先生は家の方角をみるだけで、人を見分ける術は何もない。みんなは「やはり村の肝煎りに相談するしかない、肝煎りならいろいろ考えがあろう」と言った。(地保…清朝-民国初期の郷村の治安係らしいがここでは村の肝煎りにした)

 肝煎りはさっそく何事かとやって来た。みんながことのしだいを肝煎りに、はじめから話すと、肝煎りはしばらく考えてから、「よし、こうしよう、この王家の門の脇に大きな木が二本ある、二人がそれぞれの木に登り、早く木のてっぺんに着いた花嫁が本物、おそく着いた花嫁が贋物にしよう」と言った。
 二人の花嫁が木に登りはじめると、一人はおそく一人は早い、たちまち早い方が木のてっぺんに着くと、肝煎りは「あの早い奴が化け物だ」と村の若者に鉄砲を持たせ、木に登らせると、木のてっぺんにいる花嫁に向かい一発打たせた、すると盆を二つ合わせたほどの大きな蜘蛛が落ちて来た。

 これはどういう事か、趙長者の屋敷の屋根にいた蜘蛛の精が趙家の末娘をよく知って親しみを持ち、娘が嫁入りの馬車に乗ると、蜘蛛の精も末娘に化け一緒に馬車に乗ったのである。だが、誰も蜘蛛に気づかず、末娘も花嫁の赤いかぶりものをしていたので見えなかったのだ。それで馬車を降りる時は二人の花嫁になっていたわけだが、その一人は蜘蛛の精であったのである。

            撫順市巻上                                     1997.7.25

はじめに戻る