九人の老人
昔、大きな山の麓の九まがりに住む九人の老人がみんな酒好きで飲み仲間の講を作った。
重陽の節句が近づき、九人は重陽の節句にそれぞれ自分の年経た老酒を持ち寄り、仲間の友情を長く深め合うためにその酒を混ぜ合わせ、山で愉快に飲もうと約束した。
重陽の節句の日になって、一人目の老人が何年もたった自分の老酒の瓶を持ち出し、酒壺に移そうと酒瓶の蓋を開けると、いい香りがプ−ン鼻をつき、“ウ−ン、この酒はいい、とっておいて俺一人で飲もう、酒壺には水をいれて行き、みんなの酒に混ぜてしまえ、八人が酒を持って来るのだから俺一人が水をいれても分かるまい”と考えた。そこで一人目の老人は酒瓶の蓋をまたしっかりと締め、酒壺には水をつめて約束の場所へ向かった。
さて、二人目の老人も酒を壺につめる時に“ウ−ン、こんないい酒をみんなに飲ませるのはもったいない、壺に水をいれてみんなの酒に混ぜてしまおう、八つの壺の老酒の中にひと壺くらい水をいれても関係ないだろう”と考え、やはり酒壺に水をつめて持って行った。
こうして、三人目の老人、四人目の老人、五人目の老人………とみんな自分の古い老酒が惜しくて誰も彼も酒壺に水をいれて持って行った。一人目の老人は早ばやと約束の山の上に着くと、みんなの持って来る酒を混ぜる大きな瓶を用意すると、自分の酒壺の蓋の下に小さく四角に畳んだ粗末な紙をはさみ、注ぎ口は紙を丸めて塞ぎ、『酒』の香りがぬけないようにした。
続いて八人の老人が来て九人みんなが集まった。そして持って来た酒を大きな瓶にいれて混ぜようと、みんな酒壺を持ち上げたが、誰も先にいれようとせず互いに「あんたが」「あんたが」と言い合った。
そこで一人目の老人が「わしが一、二、三と言ったらみんな一緒に酒を瓶にいれることにしょう」と言うと、八人の老人は笑いながら「よかろう」と言った。一人目の老人が「一、二、三」と叫ぶと九人の老人は自分の酒壺の『酒』を“トク、トク”といっせいに大きな瓶にあけた。
そして九人の老人はそれぞれに座り、おしゃべりをはじめ『酒』を汲みはじめた。まず一人目の老人が嬉しそうに瓶から『酒』を杯に汲み、心の中で“今日は得をしたな”と思って一口すすったが眉をひそめ“おや、俺は俺の壺の水を汲んだのかな、世の中にはこんな偶然ってこともあるのかな”と思った。
ほかの八人の老人もみんな“ちょうど俺の水を汲んでしまったかな”と不思議に思ったが誰も何も言わなかった。九人の老人は互いに見合いながら顔を赤らめ、長い間、一言も言い出せなかった。
中国幼児故事精選 1997.7.3