犬殺しの張三

 昔、ある村に張という老母と息子が住んでいた。息子は張三と呼ばれ体は大きく力が強い。それに暮らしをたてているのは張三だったから威張りちらし、少しでも気に入らないことがあると、老母を大声で怒鳴りとばす乱暴者であった。
 それで六十を越えた老母は張三が怒りだすとブルブルふるえてすぐ腰をぬかした。張三の商売は“犬殺し”である。張三母子は犬の肉を売って暮らしていたのである。

 ある日、張三は犬の肉を売りおわり、籠を背負って帰ろうとすると、雑貨屋の親爺が呼び止め「オイ、張さん、犬はいらないかね」と言った。
 張三は「親爺さん、犬がいるのかい」と立ち止まった。「二匹いるんだ、一匹は母犬でもう一匹は子犬だ、いるんだったら、明日にでも持って行きな」 それを聞いた張三は明日殺す犬がなくてよわっていたので「飼っていた犬がどうしていらなくなったんだ、幾らだね」と聞いた。「いいよ、金はいらない、持って行ってくれ」 「どうして、金は払うよ」 「いいんだ、金がかかっているわけではない、あの犬は去年の秋、どっかから来ていつたんで残り物をやっていたんだ。
 ある晩、泥棒がうちの土塀に穴をあけて入ると大声で吠えて追い出したから、少しは役に立つと思って飼っているうちに子犬を生んだ。だがこの子犬が走り回り物は壊すし、うるさくてしょうがない、それに二三日前から病気になった子供にもよくない。だから持って行ってくれ、一銭もいらない」 これを聞いた張三はこいつは丸儲けだとばかり犬を縛って家へ帰った。

 張三は家へ帰っても、今日は一銭も使わず二匹の犬を手に入れたと嬉しくってしょうがない、老母も今日は息子の機嫌が春風のようだと思っていた。張三は庭に子犬を放してから犬切り台をだして母犬を殺す準備をはじめた、血を入れる盆を出したが、出したはずの犬切り包丁がない、どうしたかなと思ってあちこち探し回っているうちに、怒りだし、老母に向かって「俺の犬切り包丁を見なかったか」と怒鳴った、老母はオロオロして「見なかったよ、お前が出したじゃないか」と言うと、張三はしばらく考えて「そうだ、俺が出したんだ」と庭をよく見ると西側の土塀の下に子犬がうずくまっている。
 見ると子犬の体の下に包丁が見える、張三は鼻をまげ「オ−、俺は何処へおいたかと思ったが、お前がここにくわえて来たのだな、どけ」と子犬を五六尺先へ蹴とばして、犬切り包丁をとると犬切り台の前へ行った、すると子犬もしつっこくついて来る、張三が母犬の首に犬切り包丁を当てると、子犬は自分の首を母犬の首の上にのせ涙を流して“クウクウ”と叫んだ。

 とたんに張三は子犬が母犬を守ろうとする姿に驚き、毎日母親に辛く当たり、母親をオドオドさせていたことに気づき、犬切り包丁を放り出して、家のなかに駆け込んだ。老母はまた息子が怒ったのかと驚いて腰をぬかしてしまった。
 すると張三は老母の前にひざまずき「おっかさん、おっかさん、ごめんなさい、もうこれからは怒りません、おっかさんはもう何もしないで楽にしてください、わたしは犬の肉の商売はやめます」と言った。老母は目に涙を一杯ためて「お前どうしたんだえ」と聞いた。
 張三は「わたしは犬の子が母犬を助けるのを見て、わたしが犬の子にも劣ると分かりました、もう親不孝はいたしません」と答えた。
 老母は庭に行くと、犬に「お前たち、ここにいたければ何時までいてもいいよ、あたしがみてあげるからね。もしいたくなければ、何処でも好きな所へお行き」と言って母犬を縛った縄をほどいてやった。張三も出て来て、これからは犬殺しをやめて別な仕事をすると、犬に謝った。

 子犬が張三を悔い改めさせたのである。   

              撫順市巻下                                  1997.6.23

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