小神仙

 小神仙とはある男の別名である。昔、仕事もせずブラブラして、何時も人から金をとることばかり考えている怠け者がいた。
 男は大きな村に住んでいたが、なんとかして村人みんなに自分を信用させ、金を巻き上げる法はないものかと考え一計を案じた。夜中に村の王爺さんの家の二頭の豚に大豆をやって山へおびきだし、山の空掘りの井戸に木の枝などをかぶせ、その上にまた豆を撒き散らした、豆に誘われた豚は前へ進み“ドタン”と空井戸の中へ落ちてしまった、二頭の豚が驚いて“ブウブウ”なくのを見ると急いで家へ帰ってしまった。

 翌日、王爺さんは豚がいないので騒ぎだした。人々は「どうしたんだ」 「誰かに占って貰ったらどうだ」などと言い出した。そこへ男は何食わぬ顔をして行き「なに、豚がいなくなったって」 「そうなんだ、どういうわけか豚がいなくなったんだ」 「保証はできないが俺が占ってやろうか十中八九は当ると思う、何時いなくなったんだ」 「たぶん夜中だ、いなくなって三日たつ」 「よし、俺が占ってやろう」と占う真似をして「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」と手を捏ね回すと「ウ−ン、豚は南にいる、深い底なしの空井戸の中だ、急いで行った方がいい、早ければ生きているが、おくれると危ない」 この小神仙の言葉を聞くと家の者はみんなで豚を捜しに出かけた。

 やっと山の奥に空井戸を見つけると、中から“ブウブウ”と豚の声がする「アッ、本当にこの中にいる」と数人で縄梯子を下ろして空井戸に入り、豚を縛って上へあげた。村に帰ると人々は口々に「小神仙の占いはすごい、豚が何処にいるかがわかるのだ」と言った。この噂はすぐ周りの村々に広く伝わった。

 ある日、小神仙はまた夜中にある家の子牛を牽きだして北の山の麓の林に放して来た。翌日、この家では子牛がいないので捜しはじめた、今度は小神仙は何も言わずすましていた。するとその家から「小神仙、うちの子牛がいなくなった、何処へ行ったか占ってくれ」と頼みに来た。小神仙は“ヘイ、むこうから来た”と心の中でうまくいったとほくそ笑んで「よろしい」と、もったいぶり目を閉じ手を揉み占いの恰好をつけると「ウ−ン、牛は南でもない、西でも東でもない、正にに北にいる、急いで行け、おくれると、誰かが見つけて子牛を連れて行ってしまうぞ」人々が慌てて北の麓に向かって捜しに行くと林の中から「モウ、モウ」と牛の声がする、見ると確かに子牛がうずくまっていた。「ヤア、これは不思議だ」と言い子牛を牽いて帰った。

 何事も口で伝わるのは早い、これがすぐ県知事の耳に入った。「オ−、われらのこの良き地には占いあらたかな小神仙がいるのか、さあ、小神仙を招いて来い。わしは県知事、王朝の高官、一県の主だ、そやつと語ってみたい」 すぐに小役人は小神仙を呼びに行った。「え、県知事がわしを呼んでいる、何かなくなったのだな、それは卦を立てねばなるまい、よし、行こう」小神仙はわざと偉そうに振舞い、小役人と一緒に行った。だが衛門の中には滅多には入れない。県知事が「小神仙を入れろ」と言うと書記は「客人を府内に入れるには知事の“請”のしるしがなければなりません」と進言する、「よし、“請”」この知事の“請”があると赤い提燈をかかげ、少なくとも県知事自らが出迎えなければならないのである。

 こうして小神仙は府内に入り席に着くと「県知事閣下、閣下は夲県の長、いかなる重大事で私を呼んだのか話してください」と聞くと県知事は両脇の小役人たちを気にして見回すので、書記は目くばせして小役人とともに出て行った、県知事は小神仙と二人だけになると「小神仙、わしはお前の占いがよく当るという評判を聞いている。実はわしの第二夫人だが、どうも誰かと通じてわしをないがしろにしているらしいのだ。その相手が誰だか分からない。それを占いで明らかにして、捕らえれば褒賞を与える」と言った。小神仙はそれを聞いて、ああ、県知事はのんきなものだな、これがはっきりすれば、かえって意気地なしと言われるのにと心で笑い「よろしい、三日待ってくれれば、私が捜しだしましょう」と言った。県知事は「よし」と言って小神仙が泊まる部屋を用意した。

 小神仙はすぐ“県知事は第二夫人と通じた男を占いであぶりだすように小神仙に言い、そいつを捕らえ死罪にすると決めた”という噂を流した。この噂はすぐ第二夫人の耳にも入った。「どうしよう、占いで分かればわたしの面目はなくなり、あの人の命はどうなるかわからない。人は誰だってお金が欲しいのだからお金を使って占いをもみ消してやろう、それがいい」と決め、第二夫人は書記を呼び出した、実は書記が第二夫人と通じていたのだ。「それはいいことです。あなたがお金をだすなら、私が小神仙に話し合ってうまくします」 「いいわ」県知事の第二夫人はお金を用意し、書記がその金を持って小神仙の様子うかがいに行った。小神仙はこれにはきっと書記にうしろめたいことがあるのだと考えた。

 書記は部屋に入るといきなり小神仙に丁重な礼を捧げた。「小神仙さま、私はある人から頼まれて贈物を持って参りました、どうか受け取ってください。だがどうか内密にしてください」小神仙は笑って「ハハハ、何の用です」 「私は書記で、いろいろ仕事をしております」 「その書記のあなたがどうして県知事の第二夫人の姦通をかばうのです」と言うと書記は顔を赤らめた、小神仙は何事かと思ったがその様子ですぐなにもかにも悟ってしまい「おいおい、私にも人情はあるがあんたは自分のしたことがわかっているのかい」と言うと書記はバタッとひざまずき「アアッ、小神仙さま、あなたはお目がたかい、通じていたのは私です、こうなっては死ぬよりほかありません、どうか助けてください」 「よろしい、そのお金を持って、ここから何処かへ高飛びしなさい。そうすれば私があんたの名を言っても捕まらず罪はみんな第二夫人がかぶる、だが県知事は夫人を殺せはしない、もし逃げないなら私は神仙だ嘘はつけない、これはあんたが助かるたった一つの道だ」 「分かりました。私は逃げます」財産を持っては逃げられないから、書記は小神仙に「小さな物はを持って行きますがあとの財産は持って行けません、よろしくお願いします」と言った、小神仙はそれは自分に財産をくれることだと分かり「ハハハ」と笑った。

 三日目になって、県知事は小神仙を呼んだ、小神仙はニコニコしながら「県知事、占いはおわりました、だがあなたには言いません」 「どうして言えないのだ、言え、わしは絶対の権力者だ、罪のある者は罰する」 「奸夫はもう自分から姿を消したでしょう」 「誰だ」 「もう調べる要はないと思います、遠くへ逃げてしまいましたから」それを聞くと知事はすぐ「ここからいなくなったは誰だ」と調べさせると書記がいない。知事は「ハハハ」と膝を叩いて笑い「そうか、灯台もと暗し、あいつだったのか」と言うと第二夫人を呼んだ、第二夫人は「あたしが間違っていた、あたしを許してください」と泣いて謝った。
 小神仙も賄賂を貰っていたから「これは女のせいではありません、第二夫人が分かればそれでいいではないですか」と第二夫人をかばった。県知事は小神仙の人情にひかれ「よし、やつは逃げてしまった、やつの物はお前にやろう、お前はやつのところへ移り、これからはわしの書記になれ」と言った。

 こうして小神仙は県知事の書記になった。やがてこのことは宮廷にも伝わった。
 ある時、国の宝がなくなった。これは国家の富である。それはいくつもの城に値する。皇帝はがっかりしてしまった。文武の官が「皇帝陛下、国の中のある県に霊験高い小神仙という占い師がおります、なくなった物が何処にあるか占わせたらいかがでしょう」と言うと皇帝は「それはよい、わしの宣旨として早く小神仙を北京に呼べ」と言った。
 皇帝が小神仙を呼びだすと県知事はふるえあがり、すぐに送りだした。小神仙は馬に乗り“タッタッタ”と北京城に向かった。北京城に着いたが小神仙は宮廷のしきたりを知らない、でも胸を張って「皇帝万歳、今日は」と入って行った、皇帝は一目で「なんだ、こいつは」と思ったが、まあどんな人間でもいい、神仙なのだから荒だてないようにしようと考え「よい座れ」と席に着かせ「こんどお前を呼んだのはなくなった国宝を占って貰いたいのだ」と言った、小神仙はハハと笑い「これはすぐ占えません、三日の期限をおいてください、三日後には自然と国宝は戻っているでしょう、もし戻っていなければ私が占いで秘密をあばき出します」と言った、これを居並ぶ文武の高官から宮廷の女官たちまでみんな聞いた。これが伝わらないはずがない、宮廷のあらゆる場所のすべてに伝わった。

 小神仙には国宝が何処にあるか分かっていないのだから、心は焦り今度は駄目だ、アア大きなほらを吹いてしまったな、いなくなった豚も牛も俺が隠したのだ、そうしなければ捜せなかった、県知事の時はやみくもにおどかしたら、本人がおどしに騙されて驚いてでてきた。だが宮廷の中で国宝がなくなったのは俺には捜せない、皇帝を騙した罪はきっと脳天の引っ越し首切りだと、部屋にいても不安で眠れず宮廷の中を歩き回った、誰も小神仙だと知っているからとがめる者はいない。あちこち歩いて悲しくなり涙が流れ「アア、もし国宝が戻って来なければ、俺の脳天は引っ越しだ、これを自業自得というのだな、アア」と泣きだした。

 そこはちょうど西宮の前で、中にいた西宮皇后と太監(宦官)がこの泣き声を聞いた。西宮皇后は太監に誰かと調べさせると“さっきここを通ったのは小神仙”とわかった。
 実は西宮皇后は国宝を盗んで自分の父に渡そうとしていたのだ。それで将来父が謀反を起こし天下を奪取するのを助けようとしたのだ。小神仙がほかの場所に行かず、ここに来て泣いたのはきっとわたしの所を狙って来たのだ、小神仙はどうして国宝がわたしの所にあると分かったのだろう、これはまずい、わたしは殺されるかもしれない、まだ国宝は父に渡してないから、いまのうちにもとに戻しておこう」と考え、宦官を呼び「太監、これは小さな冗談よ、わが国にはこんな有能な人がいるかしら、さあ有能な人、この国宝を急いで戻しておいておくれ」 「アッ、皇后が持っていたんですか」と太監は国宝をもとの場所へ戻しておいた。

 三日目になって皇帝は小神仙を九龍亭に呼んだ「今日は三日目だ、国宝は戻ってない、もし戻らなかったらお前を罰する」小神仙は畏まって座り、心の中で “おわりだ、俺は大きなことを言ってしまった、三日で俺の首はなくなるのか”と思っていると外から「報告します」の声、「何ごとだ」 「国宝が戻っています」皇帝はハハハと笑って「小神仙、さすがにだな」と言った。小神仙は有難く畏まると、居並ぶ文武の官もみな安堵した、だがなかには事情が分かっていて、確かに国宝は戻ったがそれは小神仙の占いがあたったのかどうか分からないとする者もいた、しかしそれでも霊験だと褒めそやしたから、皇帝は小神仙を許した。

 一日、二日と半年も過ぎないうちに、皇帝は何時も手元から離さず大事にしていた物をまたなくした。そこでまた小神仙に占わせた。
 小神仙は慣れっこになって今度も西宮に行くしかないと考えた。小神仙が西宮の宮殿に行っても、皇帝に信任をえている小神仙を誰もとがめる者はいない。小神仙はすぐ「西宮皇后、小神仙が参りました、皇帝陛下の大事にしていた物がなくなりました、西宮皇后はそれを御覧になりませんでしたか」と聞いた、皇后は心の中で“今度はわたしではない”と、皇帝に知らないと告げたので、皇帝は小神仙を怒り「三日のうちに捜さなければわしはお前を死罪にする」と言った。小神仙は今日一日、明日一日と二日過ぎて、三日目には殺されると恐ろしくなってガタガタとふるえ、魂を失ったようにフラフラと歩きまわった。

 実は西宮の太監が前に国宝を戻した時小神仙を疑い、西宮皇后が皇帝と遊びに出たとき、太監は機をみて皇帝の物を盗み、小神仙を試そうとしていたのだ。
 小神仙は歩いているうちに暗い家の前に来た、のぞいて見ると中は暗くて何の音もしない、小神仙は中に入って壁によりかかって座り、“みじめなことになった、面目丸潰れだ、初めは小神仙といわれたが、今度はバレてしまう、脳天の引っ越しだ、皇帝は俺を罰するだろう、今は死を待つばかりだ”と嘆いていると奥から人の声がする。

 フフと笑う男女の声、太監の声と女官の声だ。太監は皇帝の物を盗んだのを女官に見られていたのだ。「あなたは皇帝に忠実なのにどうして皇帝の物を盗んだの」 「お前は知らないだろうが、この前、国宝を盗んだ西宮皇后が小神仙の占いで見つかったと思い込み、国宝をもとの場所に返したのだ。それで小神仙が本当に神仙なのかどうか今度は試しているのだ」 「あなたは人の命を救って十年長生きするか、人の命を奪って徳を損なうか、どっちがいいの、小神仙は明日首を切られるのよ、あなた早く皇帝の宝を戻してあげなさい」 この二人の話を聞いた小神仙はびっくり仰天、「ゲエ!」とたんに側の家具をガタンと倒してしまった。

 音に驚いた女官と太監が出て来て見ると小神仙が手足を上げて仰向けにひっくり返っている、二人で小神仙を起こし「小神仙ではないか、どうしたのだ」と聞くと小神仙は頭を上げ涙を流した。女官が「小神仙、わたしたちの話しを聞いたのね」 「いいえ、聞きません」 (また嘘を言っている) 「聞かないというならどうしてここにいるのよ、いいでしょう、あんたが聞いていないならそれでいいわ、わたしたちは行きましょう」と言った。

 小神仙はもし皇帝の物が戻らなければ俺の命はないと、急いで二人を引き止め涙を流して「お二人様、私を助けてください」 「どうしてお前を助けなきゃいけないのだ」 「私は神仙ではありません、はじめは人の豚を盗んで空井戸にいれ、豚は井戸にいると占い、二度目は牛を盗み北の方角にいると占い、県知事に呼ばれ、私は書記と県知事の第二夫人の姦通を騙してみつけました。宮廷で国宝をがなくなると、偶然西宮皇后の言葉を聞き助かりました。今度の国宝がなくなったのは私を本当の神仙かどうか試しているとか、もしあなたが皇帝の物を返えしてくれれば私は助かるのです、返してくれなければ私の脳天は切られてしまいます」 「それなら、小神仙は本物なのか贋物なのか」 「私は神仙ではありません、私の占いの秘密は先に仕掛けておいてあとで占ってあてるのです、みんな人を騙していたのです」

 つまり、これが占いの秘密なのである。  

              撫順市巻下                                   1997.6.20

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