五穀の種と白い犬
天地の初め、人は畑を耕す事を知らなかった。天から降る雪は白い小麦粉で、雨は油だったから人は思うままの食べ放題で、何の不自由もなく遊び暮らしていた。
ある時、天上界の玉皇大帝は下界の人心を探りに太白金星を地上に下した。太白金星は老婆に変装して、ある人家を訪ね「どうか白い焼き餅を恵んで下さい」と物乞いをした、するとその家人たちは老婆をじろりと見て「なに、白い焼き餅が欲しいだって、うちじゃあ白い焼き餅はお尻に敷くのにとっておくんだ」と言った。
太白金星はこれを聞き、これで人心が善であると言えるかと、天上界に戻って玉皇大帝に申し上げた。この時から、雪は雪となり雨は雨となり人々は食糧を蓄えておく事ができなくなった。人々は困り果てたが打つ手もなく「あの連中があんな事を言ったから天上界の神が怒ったのだ」とみんな怨みごとを言った。
この時、地上の神農氏は百草で人々の病気を治していたので、人々は神農氏に「何かよい方法を考えて下さい」と頼んでみた。神農氏は「わしが飼っている天上界の白犬を、如来菩薩に遣してお願いしてみよう」と言って、白犬に「白い小麦粉が降らなくなって人はみんな飢えている、お前、西天の如来菩薩にどうしたらよいか聞いて来てくれ」と言うと白犬は雲に乗って西の空へ走って行った。
これを知った玉皇大帝は怒って太陽に白犬を焼いて行かせまいとしたが白犬は太陽を見ると“グワッ”太陽の半分を噛み切って“カッ”と吐き出すと「お前は下界を照らさなければ食べてしまうぞ」とおどかしたので、太陽は白犬を止めることはできなかった。
玉皇大帝は太陽が白犬を阻めなかったので月に白犬の邪魔をさせたが白犬は月の半分も一口で噛み切った、月が驚いて声を上げると白犬は「お前も下界の夜を照らさなければ食べてしまうぞ」と月をおどかした。
こうして太陽と月を追い払った白犬は雲に乗って真っ直ぐ西の空に走って行き如来菩薩に会ってことの次第を話すと、如来菩薩は咳払いして五穀の穂を取り出し、白犬に「お前はこれを口にくわえて帰り、人々に植え付けさせろ」と言った。白犬はこの五穀の穂をくわえて戻り神農氏へ渡した。それで五穀の種は神農氏から世に伝えられたのである。
しかし、人は五穀の種を初めは焼き畑に植えたので収穫が少なく、何時も腹を空かして暮らしていた。天上界の豚の神は人がいちいち小さな穴をあけてはそこに種を植えているのを見てイライラして口で土をほじくり返して耕し畝を作ってやった。神農氏は喜んでこの畝に種を撒いた。すると作物の成長がずっとよくなった。
こうして人は土を耕し畝に種を植え付けるようになったのである。豚の神は何時までも下界の畑を耕してはいられず、天上界の金牛星が自分の息子夫婦の牛を下界に下し神農氏の耕地の手伝いをさせた、神農氏は牛に犂をつけて土を耕した。
それから今に至るまで農民は畑を耕すのに牛を使い、牛は農民の宝となったのである。金牛星が下界に下した牛は誠実に人を助けおわれば、天上に帰るつもりで食べる干し草も多くを求めず、叩かれても、けなされても黙って働き、今もやがては天上に帰りたいと思っているのである。
撫順市巻上 1997.5.15