鶏の仇討ち
むかし、一羽の母鶏が三羽の雛を孵した、母鶏はたいそう喜び、夜になると三羽の雛を自分の羽の下にいれて暖めてやり、朝になると庭に連れ出して遊びながら餌をやった。そして何時も“コッコッコ−、シッシッシ−”と歌を教えていた。
三羽の雛はだんだん大きくなり、母鶏のあとについてひとりで餌を探して食べられるようになった、そして母の有難さを思い、何時も母の恩に報いようと話し合っていた。
ある日、母鶏が小鶏を連れて林の中で餌を探していると、山猫が来て母鶏をくわえて逃げた、小鶏たちは泣き叫びながら母鶏を探し求めた。やがて小鶏たちは山猫にむしられた母鶏の羽を見つけ、大きくなったらきっと母の仇を討とうと誓った。
母を失った三羽の小鶏たちは助け合って暮らし、秋になると二羽の小鶏はとさかも赤くなり、コッコッコ−と母鶏の声に似てきて若い雌鶏になり、もう一羽の小鶏もコケコッコ−と鳴きはじめて若い雄鶏になった。ある日、三羽の若鶏は「わたしたちを育ててくれたおっかさんにまだ恩返ししないうちにおっかさんは山猫に殺されてしまったが、いまこそわたしたちがおっかさんの仇を討つ時がきた」と話し合った。そして若鶏たちは山猫を討ちに出かけた。
若鶏たちが栗の木(苦子林)の下を通りかかると栗(苦子)の実が「若い雄鶏と雌鶏さん、ここは山猫が出入りする所だよ、どうして来たんだい」と聞いた。三羽の若鶏はかわるがわる母鶏が山猫に食べられたことを栗の実に話した、栗の実はそれを聞くと「あの山猫は本当に悪い奴だ、俺は何時もここで山猫が鶏や鴨をくわえて行くのを見ているよ、俺も一緒に行って助太刀しょう」と言った、三羽の若鶏は喜び栗の実を嘴にくわえて行った。
しばらく行くと小さな溝があり、そこで遊んでいた蟹が「若い雄鶏と雌鶏さん、何しに来たんだい」と聞いた、若鶏たちは蟹にわけを話した、すると蟹は「俺は前に山猫が一羽の母鶏をくわえて走って行ったのを見たよ、よし、俺も行こう」と言うと、若鶏はしっぽを蟹の鋏でつかませ一緒に連れて行った。三羽の若鶏と栗と蟹が一緒に行くと野菜畑に大きな冬瓜が横になっていた。
冬瓜はみんなを呼び止め「お−い、みんなどこへ行くんだい、」山猫の野菜畑へ行くのかい」と聞いた、三羽の若鶏はまた自分たちにあったことを初めから話した、冬瓜はとても怒って「わしもあの山猫を恨んでいるのだ、あいつは毎日ここをむちゃくちゃに走り回って俺たちの仲間を傷だらけにしているのだ、俺も一緒に仇を討とう」と言った、若鶏は喜んで藤の蔓で冬瓜を縛り、それを自分の足に繋いで、冬瓜をひきずって山猫が逃げ込んだ林の中に入って行った。
林には蜂の巣で蜂たちが一生懸命働いていた、蜂たちは若鶏たちを見ると蜂の王を呼んで来た、若鶏たちは蜂の王にここに来たわけを話した、それを聞くと蜂の王は非常に怒り「あの山猫は実に悪い奴だ、あいつはここから遠くない所にいるから、働き蜂を助太刀に連れて行くがいい」と言った、若鶏たちは蜂の王に礼を言って働き蜂を連れて行った。
しばらく行くと、ひと塊りの牛の糞が行く手をふさいでいたので、若鶏たちは避けて行こうとすると、牛の糞が急いで「あんたたち、これから先は行かないほうがいいよ」と言った、それを聞いて若鶏と仲間たちは「どうして…」と聞くと、牛の糞は声を低くして「すぐ前に山猫の家があるから、行ったらあんたたち帰れないよ」と答えた。若鶏は「わたしたちは山猫をやっつけに行くのだ」と言ってまた今までのことを初めからひととうり話した、すると牛の糞は大声で怒りだし「あの山猫の無法者め、俺もあんたたちに助太刀する」と言った。
こうして若鶏と仲間たちはみんなで山猫の家へ向かった。 山猫は猟師が建てた家にいた、その時はちょうど暑い日中で、山猫はグウグウと大いびきで寝ていた。若鶏と仲間たちは山猫の家に来ると、まず牛の糞が「俺はここを守る」と家の下に、冬瓜は「俺はここがいい」と家の階段を登り、働き蜂は戸の上に、家の中には、蟹が俺は水の中がいいと言って水瓶の中、栗の実は若鶏の嘴からでるとかまどの火の中、三羽の若鶏は仲間がそれぞれ肝心な場所に陣どったのを見ると、山猫に大声で「ヤイ、目を覚ませ」と怒鳴った。
山猫は驚いて目を開けると、自分の前に太った美味しそうな若鶏がいる、まさかこんないいことに出会うとは思わず、目をパチパチさせて夢ではないかと疑った。若鶏は「わたしたちは母の仇を討ちに来た」と言ったが、山猫は跳び起きて、目の前の若鶏のどれから食べてやろうと、嬉しそうにパンパンと腹を叩いて「俺の腹はまだ一杯じゃあない」と言った。
二羽の若い雌鶏は首を縮めて飛びかかる用意をし、雄鶏は首を立て、決闘の姿勢で「この夏、お前はわたしたちの母を殺して食べたのを覚えているだろうな、わたしたちは母の仇討ちに来たのだ」と言った、それを聞くと山猫は首を伸ばして「俺じゃあない」と怒鳴ると同時に猛然と飛び上がり一羽の若鶏に食ってかかった、すると火の中で膨れあがった栗の実が“パチン”とはじけて山猫の顔に炭の灰を吹きかけた、山猫は驚いて跳び上がったとたんに水瓶の中に落ちてしまった。
水瓶の中で鋏を広げて待っていた蟹がギュウと山猫の足を挾んだ、足を挾まれた山猫は七転八倒、やっと蟹から逃げ出すと水瓶から跳び出して戸の外に逃げ出すと、戸の上にいた働き蜂がウワ−ンと飛び出した、蜂に刺された山猫は階段から転び落ちると下の牛の糞につまずき口や目の中は牛の糞だらけ、牛の糞から逃げ出そうとすると上から大きな冬瓜が山猫の頭に落ちて山猫は牛の糞の中で死んでしまった。
それから山猫は母鶏を捕って食べることはしなくなったそうである。
西双版納哈尼族民間故事集成 1996.12.5.