猫と鼠
むかし、猫と鼠は仲のいい友達でした。二匹は同じ家に住み、同じお鍋で食べ、まるで兄弟のようでした。鼠は小さくて力がないから家の仕事、猫は俺が難しい事はやると猟や畑の力仕事と、それぞれの役割りを具合よく分けて暮らしていました。
種蒔きの忙しい季節が来ると猫は鼠に優しく「鼠さん、種蒔きをするから家のいろいろな種をみんな出して干しておいておくれ、俺が畑を耕してから蒔くからね、いいかい」と言って畑へ行きました。
鼠は家の片付けを済ますと、種を入れた竹筒と瓢箪を抱えてゆすってみましたが、竹筒も瓢箪も空っぽです。実はしまっておいた種は鼠が前からひとりで少しづつ食べていたのです。鼠は頭に血がのぼって顔が赤くなり歯をカチカチならして座りこみ、種は自分がみんな食べてしまったことにやっと気がつきました、これは猫が許すわけがない、どうしようと思い、鼠は熱い鍋の上の蟻ように慌てました。
そこへ猫が帰り、畑仕事の道具をおくと「種は用意できたかい」と声をかけました。鼠は急いで病気になったふりをして溜め息をつき、猫にすりより二つの赤い小さな目をパチパチさせ哀れっぽく猫を見ました。猫は鼠のコソコソした態度を怒り「病気はやがて治るが種蒔きはその時でなければ駄目なんだ、早く種を出せ」と大きな声で言いました。
鼠はいま逃げなければ命がないと、猫が種を見に振り向いたすきに“サッ”と天井の梁にかけあがり猫の目をくらまそうとしましたが、猫も素早く鼠が逃げたのを見て“ヒュ−”と梁に飛び上がり鼠を口にくわえて飛び下りると、種をどうしたと責めました。
鼠は猫の爪に押さえられて痛く、“ガタガタ”ふるえながらどうしていいか分かりませんでした。猫は種を入れておいた竹筒と瓢箪を一つ一つ見てから鼠に「お前はどうして種を食べてしまったのだ、諺にも“貧しくても子供は売らない、飢えても種籾は食べない”と言うではないか、種を食べてしまい今年は何を植え、来年は何を食べるのだ、お前は生来の種の敵、お前こそ災いの種だ」と言い終わると、猫は大きな口を開け鼠を噛み殺しました。
それで今でも鼠は猫を恐れ、二つの小さな目で猫をじっと見ると、鼠は子孫代々その時のことを思い出して深い穴倉に逃げ込むのです。
そして猫は鼠を不倶戴天の仇敵として、決して見逃してはならぬと今の今まで子孫に言い伝えているのです。
西双版納哈尼族民間故事集成 1996・12・4