豚と犬
ずっと昔、あるところに母と息子が暮らしていた。息子が十八になった時、母親は働きすぎて病気になり手足が動かなくなって寝こんでしまった。息子は母の様子を見て胸が痛み「俺はおっかさんの病気を治す薬を探しに行って来る、畑仕事がまだ残っているけど、帰って来たらすぐかたづけるから心配しなくていい」と言って小刀を持って薬草を採り出かけた。
だが息子は何日も帰らず、母親は畑が気になって却って病気が重くなり、いろいろ考えた末、家で飼っている黒豚と赤犬はあたしと息子が植えて収穫したものを食べているのだから少し手伝わせようと、かまどのそばで寝ている赤犬と門のうしろに寝そべっている黒豚にまだ耕していない畑を耕させることにした。
翌日、黒豚と赤犬は畑を耕しに出かけた。畑に着くと黒豚は口の先でモグモグと土を起こし始めたが、赤犬は舌をだし松の木の下へ行って寝た。ずいぶん長く寝ていた赤犬は風に吹かれて松の木から落ちた蟻に口を噛まれやっと目を覚ました。そして畑を耕している黒豚を見るとまた寝てしまった。
太陽が西にかたむきかけ、黒豚は畑を耕しおわると赤犬がまだ眠っているので、黒豚もひと眠りすることにした。しばらくすると遠くから一羽の鷹が来て耕したばかりの畑の上を飛び、ぐっすりと寝こんで少しも動かない黒豚を見て死んでいると思い、黒豚めがけて舞い下りて来た、その気配に驚いて目を覚ました黒豚が “オ−オ−”と叫んで飛び起きると、こんどは鷹が驚いて舞い上がった。
その時、ぐっすり寝こんでいた赤犬が目を覚まして、親切そうに「豚さん、鷹に襲われて怪我はなかったかい、畑を耕して疲れたろう、それにあんたは歩くのがおそいから先に帰っていいよ、俺はあとから追いかける」と言った、黒豚が赤犬の“やさしさ”に喜び先に帰ると、赤犬はすぐ黒豚が耕した畑を走り周り、沢山の足あとをつけてから、黒豚に追いつき一緒に帰った。
赤犬と黒豚は家に入ると、赤犬はさも疲れたような恰好をして母親に「畑を耕やし、疲れて死にそうです」と言った、それを聞くと黒豚は「嘘です、赤犬は畑に行くとすぐ松の木の下で寝たんです、わたしが畑を耕し終わってもまだ目を覚まさなかったんですから……」すると赤犬は黒豚を睨みつけ、一歩前へ進み「いいえ、黒豚こそ何もせずに死んだように寝ていたのです、鷹でさえ死んだ黒豚だと思ってもう少しで食べようとした時、やっと目を覚ましたんです」と逆らい、可愛らしくしっぽをふってみせた、黒豚は怒って耳を立て、目を丸くして言葉もでなかった。
ちょうどこの時、息子が帰って来た、息子は豚と犬の口論を聞くと「喧嘩するなよ、あした畑を見れば分かることだ」と言った。
翌日早く、息子は黒豚と赤犬をつれて畑へ行った、畑を見ると、犬の足あとばかりで豚の足あとは少なかった、黒豚はやっと赤犬のたくらみが分かり昨日の様子を説明した、しかし息子は「でたらめ言うな。黒豚、お前の足あとは少ない、寝ていたのだろう。これからお前は小屋で米糠と草を食べろ、犬は俺たちの部屋で米の飯を食べてもいい」と言った。
それから真面目で気立てのいい黒豚は外の小屋で米糠や草を食べ、ずるい犬は部屋の中で米の飯を食べるようになったのだ。
西双版納哈尼族民間故事集成 1996・12・3