豹の精の話

 ずっと昔、化けるのが上手な豹が山の林にいました。この豹は獲物を探す時、いろいろな人間に化けて村に入り、鶏豚牛馬や人を捕まえました。それで人々はこの豹を豹の精だと言っていました。

 この豹が隠れている大きな山の近くに小さな部落があって、そこに母親と姉妹の娘が住んでいました。ある日、母親が山へ野草を摘みに行くと、若い女に化けた豹の精が現れ、親切そうに「おばさん、瓜は食べないの、前に池に沢山あるわよ、わたしが連れて行ってあげる、背中の籠に欲しいだけいくらでも取れるわよ」と言いました、母親は本気にして籠を背負い女に化けた豹の精について行きました、森の中に入ると豹の精は正体を現して母親を山の洞穴にひきずりこみ食べてしまいました。

 豹の精は母親を食べてしまうと娘たちも食べてやろうと、体を揺すると母親に化け、食べた母親の着物を着て籠を背負い、夕方暗くなってから娘たちのいる家に行き、戸口で母親の声を真似て「娘たちや、おっかさんが帰ったよ、戸を開けておくれ」と言いました。妹は喜んで戸を開けようとすると姉がひきとめ「声がしゃがれてちっともおっかさんらしくない、豹の精かも知れないから開けては駄目よ」と言いました。豹の精は姉と妹が戸を開けないので、また大声で「娘たちどうして戸を開けないの、おっかさんがいらないのかい」と叫びました。

 「お前はあたしたちのおっかさんじゃない、おっかさんはいい声なのに、お前の声はしゃがれているもの」と妹が言いました、豹の精は慌てて、でもしゃがれた声で「可愛い娘たちや、おっかさんは山で渋い梨を沢山食べて声がしゃがれてしまったんだよ、早く開けておくれ、お前たちに瓜を取って来てやったよ」と言いました。賢い姉はそれでも妹に戸を開けさせず「おっかさん、戸の隙間から手を入れて見せて」と言いました。すると戸の隙間から毛だらけの手が入りました、それを見た姉妹はびっくり、「豹だ豹だ、お前は豹の精だ」と叫びました。

 それを聞くと豹の精は大急ぎで引き返し、焚き火で手の毛を焼いてまた姉妹の家へ行き、鶏の卵を二つ飲んで喉をなめらかにして、澄んだ声で「娘や、開けておくれ、おっかさんが帰って来たよ」と言いました、その声はとても母親に似ていましたが、姉はやはり妹に戸を開けさせず「もしおっかさんなら、手を見せて」と言うと、戸の隙間から手が入ってきました、姉妹はまた驚いて冷や汗が出ました、手には毛がなかったからです、まるで熱湯でやけどしたように赤くなっていました、姉妹は二人の力で豹の手を押し出し、大声で「やっぱりお前はおっかさんじゃない、開けてやらないよ」と言いました。

 豹の精はまた残念がって引き返し、火で赤くなった両手を藍染めの瓶に入れ、よく染めて乾くまで一刻ほどおいてからまた姉妹の家に行き戸の前で猫なで声で「娘や、おっかさんが帰って来たよ、くたびれて死にそうだよ、早く戸を開けておくれ」と言いました、その声は母親とそっくりでした、でも賢い姉妹は油断しないで戸の隙間から見ると外に立っているの人は母親と同じようです、それでも戸を開けず、戸の隙間から「おっかさん、手を見せて」と言いました、「可愛い子、お前たちは本当の用心深いね」と豹の精は母親の声を真似て「お前たちは豹の精に驚いて、おっかさんの声だけでは分からないんだね」と言って戸の隙間から手を入れました。

 姉妹は黒い手を見て畑の土で汚れた何時ものおっかさんの手と同じだったので、安心して戸を開けるとすぐ豹の精が入って来ました。姉は竹の椅子を運んで来て、おっかさんを座らせ休ませようとすると、おっかさんは竹の椅子を見て「おっかさんはこの椅子に座れないよ、お尻におできができたから、穴のあいた椅子を持って来ておくれ」と優しそうに言いました。
 その時、利口な姉はおっかさんの着物の裾の中に尻尾を見つけ豹の精だと思い、ハッとしましたが、顔にはださず穴のあいた椅子を持って来て竈のそばに置き、豹の精を座らせました、そして姉は豹の精から逃げる方法を考えました。
 夜が明けて姉は豹の精の頭を見て、いい考えが浮かびました、姉は優しそうに「おっかさん、この柱の前に来て、あたしが毛虱を取って髪を綺麗にして上げる」と豹の精に言いました、豹の精は姉の計りごとが分からず、柱の前に座り姉に毛虱を取らせ髪を綺麗にさせました、利口な姉は髪を綺麗にするふりをして豹の精の髪をしっかり柱に縛りつけ、コンロを背負って妹と逃げ出しました。

 豹の精は騙されたことが分かり怒り狂って猛然と立ち上がると、柱に縛りつけられた髪の毛は頭の皮と一緒に剥がれました、でも豹の精は痛いのを我慢して姉妹を追いかけました。
 大きな木の上にいた雀は豹の精が姉妹を追いかけているのを見ると「早く妹は塩の木に、姉は鳥の木に登れ」と叫びました、姉妹は雀の言う通りに妹は塩の木に、姉は鳥の木に登りました。豹の精ははじめに塩の木の下に来ました、先に妹を食べようと思ったからです、豹の精が塩の木に登ろうとした時、妹は塩よりしょっぱい塩の木の実を取って、毛が剥がれて血が出ている豹の精の頭に投げました、豹の精は剥がれた頭に塩がしみて痛くてたまらず塩の木に登れません。

 こんどは姉を追いかけ鳥の木に牙をむき爪を立てて登ろうとしました、姉も鳥の木の固い実を取って豹の精に投げつけました、それで豹の精はまた木に登れません、木の下で大きな口を開けて吠えるだけです、姉は急いで銀の腕輪をはずして担いで来たコンロの中に入れ赤く焼き、豹の精が吠えた時、コンロを逆さまにして赤く焼けた腕輪と燃えた炭火を豹の精の大きな口に投げ入れました、焼けた腕輪と炭火は豹の精の喉を通ってお腹に入り豹の精は地面を転げ回って死んでしまいました。こうして賢い姉はとうとう母親の仇を討ち、愛尼人の敵、豹の精を討ち倒しました。  

            西双版納哈尼族民間故事集成                          1996・11・9

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