三人の恐妻の訴え

 新しい県知事が赴任して来た。
 すると翌日、早々と役所の門を叩いて訴える者がいる、県知事は慌てて官服に着替え、裁きの堂に行くと、三十歳ほどの男が両膝をついて「県知事さま、お聞き下さい」と訴えた、「こんなに早くから何事だ、何を訴えるのだ」 「わたしの怖い女房です」 「どうして怖いのだ」 「怖いのなんの、女房はわたしを一晩中、部屋の外に立たせ、夜明けとともに働かせるのです」と言った、県知事がそのわけを聞こうとすると、もう次の訴える者が来た。

 この男は二十七八で両膝をつくと「県知事さま、訴えます」 「何を訴えるのだ」 「わたしの怖い家内です」 「何を恐れるのだ」 「わたしは一日働いたうえ、飯も作りますが家内は先に食べて、さっさと麻雀に行ってしまいますから鍋も茶碗もわたしが洗います、そればかりか家内は少なくとも一日一回はわたしを叩くのです」 「そういうことか」と県知事が言っていると、そこへ十七八の男が訴えに来た。

 「お前、何を訴えるのだ」 「わたしはふるえる程、妻が怖いのです」 「どうしてそんなに怖いのだ」 「妻は嫁いで来た晩に、わたしを三回平手打ちを食わしたり、罰に飯三回分の間、立たしたりするのです」

 県知事は三人の訴えを聞くと、机を叩いて立ち上がり「お前ら三人はそんなに女房が怖いのか、県知事のわしはなあ……」と言い出したところへ県知事の夫人が出て来た、県知事は夫人を見ると縮みあがって机の下に隠れ、かぶっていた文官の帽子をずり落としてしまった。夫人は亭主の県知事が不様に驚いた様子を見ると、身をひるがえして戻って行った。

 県知事はそっと机にかけた覆いを上げ夫人が戻ったのを見ると、机の下から這い出して「お前らとっとと出て行け、本官の恐れはお前ら三人の恐れより、もっとずっと強いのだ」と言った。

            四老人故事集                                    1996・10・3

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