兄弟と赤犬

 昔、親の残した僅かな畑を耕し、どうにか暮らしている兄弟がいた。
 やがて兄が結婚すると、しばらくしてこの兄の女房が家を仕切るようになり、義弟は働きが少ないのによく食べると、ろくに面倒をみなくなった。しまいには亭主に義弟の悪口を言うようになり、憎らしい義弟を早く家から追い出したくてしょうがなかった。
 ある日、弟が畑へ行っている間に亭主に「お前さん、あんたの義弟は本当に馬鹿だね、あんなのに嫁を世話する人はありやしない、それにあたしたちだってあいつを何時までも食べさせておくわけにはいかない早く追い出して、あたしたちだけで暮らそうよ」と言った、「それはできない、俺たちの両親は早く死んで、弟と俺だけだから弟を追い出すなんてできない」 「ぐずぐずしていると、この家も半分取られ、結婚もさせなければならない、そうなってもわたしゃ知らないよ」と女房は言ったが、兄の亭主は「今は弟もよく働いているから弟が結婚したら分家させよう」と言った。

 女房は亭主が義弟を早く出すと言わないので、あんたができないなら、わたしがしてやると、いろいろ考えあげく「そうだ」と憎々しそうに歯ぎしりして言った。
 女房は籠を抱えて市場へ行き、帰って来ると亭主に「今日は餃子にして、あたしたちは黒い餃子を食べ、義弟には白い餃子を食べさせよう」と言うと亭主はうなずいた、心の曲がった女房は市場で買った毒を白い餃子の中に混ぜながら「義弟の奴が白いほうを食べればすぐ死ぬ」と言った。この女房の言葉を窓の下にいた赤犬がみんな聞いて、急いで畑に行き、弟に「今日は嫂が白黒の餃子を作っているから、晩に食べる時は黒い餃子を食べろ、白い餃子に毒を混ぜて、あんたを殺そうとしている」と教えた。弟は赤犬がどうして言葉が話せるのかとびっくり、赤犬の毛をなで「わかった、赤よ有難う」と言った。

 暗くなって弟が畑から帰ると、嫂が庭を熊手で掃きながらニコニコして「お帰り、疲れただろう、今日は市場で肉を買って、あんたには白い餃子を作っておいたから早く食べておくれ」と言って、部屋に入ると嫂は湯気のたった熱々の白い餃子をお椀に入れて笑顔で運んで来て「冷めるから早くお食べ」と言った、弟は嫂がこんなに優しいのは初めてなので喜び、食べようとしたが、赤犬が教えてくれたことを思い出し、箸をおいて餃子を見ると、兄の椀の餃子は本当に黒い、「嫂さん、俺は黒いのが食べたい」と言うと嫂は嫌な顔をして「あんたが疲れているから、白い粉で作ってやったのに、あたしの気持ちがわかんないのかい」と言った。弟は「嫂さん、俺は黒いのが好きなんだ」と言いながら黒い餃子を食べて自分の部屋へ戻って寝てしまった。

 嫂は義弟が白い餃子を一口も食べないのに腹を立て、亭主に「明日の晩はあんたが白い餃子を食べるんだよ、黒い餃子に毒を入れるからね」と言った、赤犬がまたこれを聞いて、翌日また畑へ行って弟に「今晩は白い餃子を食べ、黒い餃子には毒が入っているから食べてはいけない」と教えた。弟はまた赤犬に礼を言った。暗くなって弟が仕事から帰ると嫂は「何日も仕事で疲れたろう、あたしも心配しているよ、昨夜あんたが黒い餃子が好きだと言ったから、今晩は黒い餃子を作っておいたよ、どっさり食べて」と言った、弟が「昨夜は黒い餃子を食べたら下痢になったから今日は白い餃子を食べるよ」と言うと「えっ、白いのはうちの人の分しか作ってないから沢山ないよ」 「じゃあ、俺は残りの飯でいいよ」と言って自分で椀に飯を盛って食べた。これを見た亭主は女房に「お前は弟を馬鹿だと言うが、少しも馬鹿じゃないな。弟を分家させよう」と言った。

 翌日、義弟が帰ると嫂は唐辛子のように口をとがらせて「今日からあたしたちは家を分けることにする、お前は何が欲しい」と聞いた、弟は「兄さんと嫂さんが分けてくれるなら何でもいいよ」と言うと女房は義弟は欲がないと喜び「南の荒れ地、それにツルハシと椀二つと箸を上げるよ」と言い、弟が着ていたつぎはぎだらけの二枚のひとえの長い上着もやった。弟は兄夫婦が分けてくれた物を文句を言わずに貰い「あの赤犬をくれないかな」と言うと嫂はあんな役に立たない犬をどうするんだと思い「いいよ、いいよ」と言った。

 こうして兄夫婦と弟は家を分け、弟は荒れ地の端に茅葺きの小屋を作って赤犬と暮らし始めた。それから弟はツルハシが半分になるほど昼も夜も荒れ地を掘り起こし、犂を借りて、牛がいないので赤犬に犂をつけた、すると赤犬は犂を牽き土を深く、早く耕した。そして春には種をまき秋には作物を収穫した、こうして弟は赤犬と三、四年を過ごした。
 ある日、車を引いた絹織物の商人が弟の畑の前を通りかかり、誤って車を道のわきに落とし、動かなくなった、どうしても車は動かない、弟がそれを見て「うちの赤犬に引っ張らせよう」と言った、商人は「犬が車を牽きだせたら、絹織物を二反上げる」と言った、弟は赤犬を連れて来て「赤よ力を出して、絹織物を稼いでくれ」と言った、すると赤犬は力を出して車を道のわきから引き上げた、商人は二反の絹織物を弟にくれた。

 ある日、兄夫婦が弟にやった荒れ地を見に行って驚いた。弟は牛がないのにどうして畑を耕して種をまいたのだ、おまけに弟は絹の服を着ている、どうしたのだと聞くと弟は本当の事を話した。翌年の春、兄の家の牛が突然死んだ。
 女房はは義弟の赤犬が犂が牽けるのを思い出し、赤犬を借りに行くと弟はすぐ兄夫婦に赤犬を貸してくれた。しかし赤犬は兄夫婦の言うことをきかず犂を牽かないので弟に返すことにした。その途中で兄は道で車が動かなくなった行商人に出遇った、兄は行商人に「この赤犬は車が牽ける」と言った、行商人は「本当に犬が車を牽けたら絹織物を三反上げる」と言うので兄は喜んで赤犬を車につけ、力をふりしぼって赤犬の口なわを引いた。

 しかし赤犬は前へ進まない、女房は「赤、お前が車を牽いたら餃子を作ってあげる」と言ったが赤犬は動かない、夫婦で言っても叩いても動かない、夫婦は怒って棍棒で赤犬を打ち殺してしまった。
 弟は兄が赤犬を何日も返してくれないので兄の家へ行った、「兄さん、赤犬は」 「俺が殺した」 「殺した?、それで何処に埋めたの」 「山の麓だ」 弟は赤犬の埋められた所へ行って目に涙をうかべ土を盛って小さな墓を作ってやり泣いた。
 弟はひとしきり泣いて、また泣いた。すると墓に小さな木が生え、みるみる大きくなり、しばらくすると木の上から金の粒が落ちてきた。弟はその金の粒を拾い集め家へ持って帰った。
 兄と嫂はこれを聞くと夫婦して赤犬の墓へ行き丁寧にお辞儀をしてから、泣いてまた泣いた、しかし半日泣いても木から金の粒は落ちてこない、夫婦はひざまずいていた足がしびれ、とうとう女房は木をゆすぶり始めた、すると木の上から大きな石が二つ落ちてきて二人の頭にあたり、血が流れ夫婦は頭をかかえて逃げ出した。

 弟は金の粒を売って家と畑を買い、よい妻を娶り、可愛い利口な男の子と女の子に恵まれ、炭日のように盛んな日を過ごした。  

           姜淑珍故事選                                      1996・8・12はじめに戻る