鍋の蓋で隠す
昔、二人の兄弟がいた。小さい時に両親に死なれ、何も教えられずに育ち二人はやがて盗み、強盗などをして暮らすようになった。
ある時、兄は金の元宝五枚を盗んで来たが隠しておく箱も戸棚もない、そこで瓶の底に隠した。弟は兄が盗んで来た五枚の金の元宝を何処へ隠したか知らず、兄も黙っていた。
ある日、弟は酒と肴を買って兄にふるまうふりをして、兄の酒に毒を入れた。何も知らない兄は酒を飲みほし、またたく間に死んだ。弟は兄を殺すとすぐ兄が隠した五枚の金の元宝の場所を捜し、あちこちひっくり返したり、掘ったりしたが見つからない。
その晩、弟は寝床に横になったが、兄が何処へ元宝を隠したかと考えて眠れない。すると瓶の底から何やら話し声がする、体を起こしてじっと聞くと「弟は実の兄を殺すなんてずいぶん悪い奴だ、俺たち兄弟五枚もここを出よう」と話している、すると別な声が「じゃあ何処へ行こうか」と言う、また別な声が「鍋蓋隠しへ行こう」と言った。
これを聞いた弟はきっと兄が盗み出した五枚の元宝が話しているのだと、寝床から跳び下りると瓶を運んで来て、ガリガリ瓶の底を削るともう金の元宝は見えなくなっていた。
弟は“金の元宝を見つけなければ兄を殺したのが無駄になる、こうなったからには、あいつらが言っていた鍋蓋隠しとやらへ行って金の元宝を取り戻すしかない”と夜が明けるとすぐ出かけた。
だが、鍋蓋隠しが何処にあるのか分からない。弟はあちこちの村、あちこちの部落を回り鍋蓋隠しが何処か聞いて歩いた、けれども人々は「知らない、そんな名は聞いたこともない」と首を振った。そこでまた弟は別な場所へ行って聞き回った。何か月かが過ぎたが、まだ鍋蓋隠しは何処だか分からず弟は何時もすごすごと家へ帰った。
ある日、家に帰る途中で突然すごい雨になった。宿屋へ行くにも金がない、どうしょうと走って行くと前の方にポッンと小さな茅葺きの家がある。急いでその小さな家へ駆けて行き、戸を叩いた、するとカチッと戸が開いて「誰…」と男が出て来た、「この大雨で、宿を…」と言うと男は「いいよ」と答えた。入って見ると小さな寝場所しかない、これじゃ寝られないと出ようとすると、男は「すごい雨だよ、何処へ行くんだい、つめれば寝られる」 「いやこんな狭くてはきつくて泊まれない」 「心配ないよ、外はもっと大変だ、ここに泊まりなよ」と言った。
弟はこの男がこの家の亭主で親切に引き止めてくれたのが分かり泊まることにした。ところが真夜中になるとこの家の女房が「アイヨ−アイヨ−」と声を上げて、陣痛を起こし子供が生まれそうになった。亭主は家の中には雨で泊めた男がいるから、女房を布で隠そうとしたが貧乏で小さな布切れもないので困ってしまった。弟も慌てて外へ出ようとして戸を開けると、外はぶちまけたような雨、さっきよりもっとひどい降りだ、出るに出られない。それに前にも後ろにも何もない所だ、真夜中で何処へ行ったらいいかとオロオロした。
この家の女房の「アイヨ−」の叫びはますます大きくなるばかり、もうすぐ子供が生まれようとしている、どうしょう、するとこの時、亭主の頭がひらめき、跳び起きて鍋の蓋を持ち「鍋蓋隠し、鍋蓋隠し」と言った、とたんに「オギャア−オギャア−」と泣き声を上げて赤ん坊が生まれた。弟は戸の前で外を向いて立っていたが、この亭主の叫んだ「鍋蓋隠し」の言葉を聞いてびっくり、「わかった、わかった、あれだけ捜し回った鍋蓋隠しとはなんとここだったんだ」と言って喜んだ。
それを聞いたここの亭主は「あんた何を言っているのだ、何のことかさっぱり分からない」と聞くと、弟は鍋蓋隠しという所を捜していたわけを話した。するとこの亭主は「あんたの物はあんたの物、俺の物じゃない、俺はいらないから持って行ってくれ」と言った。
弟はこの家の水瓶の水を庭にあけると金の元宝が五枚、地面に光った。弟は嬉しくなった、亭主が「あんたの物だから持って行ってくれ」と言うと、弟は腰を曲げて元宝を拾い、抱えるように手に持つとそれは五つの石ころだった、弟は慌ててひっくり返し、倒し、右から左から見たが、どう見ても五個の石ころであった。
空が明るくなると、弟は癪にさわって五つの石ころをこの家の庭へ投げ捨て、「これは俺の心が悪いからだ、盗みをしたり人を騙したり、実の兄さえ殺してしまったり、それでいいことがあるわけがない」と思い、うなだれて外に出て歩き出した。
諺に“福運はゆっくり来る、焦っても福運は来ない”と言う。男が行ってしまったあと、この家の亭主が赤ん坊のおむつを干していると、地面に五枚の金の元宝が光っているのを見つけて拾った。こうして、この家の夫婦は五枚の元宝で家を建て、畑を買い、炭火がカンカンおこるように裕福になった。
姜淑珍故事選 1996・8・3