金の小人

 昔、心の悪い宿屋の主がいた。金がある人、身分のいい人が来ると頭を下げ腰をまげていい部屋に泊まらせるが、貧乏人だと四方から風の入る隙間だらけの部屋に泊まらせた。
 ある日の晩、ボロボロな着物を着た乞食の夫婦が来た。宿屋の主はすぐ「お前たち泊まるのかね」と聞いた、「ええ、わたしたち、二三日泊まりたいのです」  宿屋の主はこんな汚いなりをした二人に宿銭が払えるのかと、夫婦を見返して「いい部屋はないよ、泊まるならあの破れ部屋へ泊まれ」と言った。

 するとその妻は「御主人、夫は病気なので、暖かい部屋にして下さい」と頼んだ、だが宿屋の主は「泊まるならあの部屋だ、いやならやめな」と言うので夫婦はその破れた部屋に泊まるしかなかった。宿屋の主は夫婦が破れ部屋に入るのを見ると「あれがまた明日の朝には幾らかの金になるわけだ」と言った。
 実は夫婦の泊まった破れ部屋には幽霊が出て、毎晩真夜中になると部屋が急に昼間のように明るくなり、寝床や地面がドンドン鳴り、そこに泊まった客が驚いて何人も死んでいるのだ。

 さて、乞食夫婦が破れ部屋に泊まったその晩も真夜中、梁の上から全身光った一人の小人が飛び下りて部屋を明るく照らし、地面や寝床を飛び回り、地震のようにドンドンと響いた。妻が光に照らされて目を覚まし、目を開けて見ようとしたが、眩しくて開けられない、横に寝ていた夫を押して小声で「あんた、幽霊が出た」と囁いた、それで夫も目を開けようとしたが、やはり眩しくて開けられない、夫は小声で「怖いことはない、わしらは日頃から幽霊に仇も恨みもない、幽霊がわしらに何かするわけはない、寝ていよう」と夫婦は眠っているふりをした。しばらくして光る小人は影も形もなくなった。

 翌日夜が明けて明るくなると宿屋の主は下男に幽霊のでる破れ部屋で死んでいる筈の夫婦の死体を片付けにやった、爺さんの下男が破れ部屋の戸の隙間から覗くと、中の夫婦は座ってお喋りをしている、下男はそっと戻って宿屋の主に「旦那さん、あの夫婦死んでいませんよ」 「死んでない、ホー、幽霊の奴、二人を一日生かしたのかな、今晩は死ぬだろう」宿屋の主はそう言うと出て行った。
 下男はいい人でそっと破れ部屋に泊まっている夫婦に「あんたたち、今晩は別な部屋に泊まったほうがいい、またここに泊まると死ぬよ、この部屋には幽霊が出るんだ」と教えた、すると夫は「世の中に幽霊なんぞいるものですか」と言った。
 下男は「わしの話をあんた疑ってはいけない、大勢の人があの部屋で幽霊に驚いて死んだんだから」と言った、妻は「わたしの夫は病気で本当に動けないのです、幽霊が出てもわたしたちはここに泊まります」と答えた、下男は「わしが旦那さんにあんたたちの部屋を替えて貰うようにもう一度話してあげよう」と言って出て行った。

 下男は宿屋の主に「旦那さん、あの夫婦の部屋を替えてやって下さい」と言うと「部屋を替える、わしはわざとあの夫婦をあそこに泊まらせたのだ、二人が死ねば身につけている物などを売って幾らかの金になるからな」と言った、下男は仕方なく、また夫婦の所へ行った、「旦那は替えないと言うのだ、お前さんたち気をつけた方がいいよ」「わたしたちは小さい時から今まで良心に恥じることはしていません、幽霊が出ても恐ろしくありません、替えてくれなくても何でもありません」 「それじゃあ、あんたたちよくよく気をつけてな」 「平気です、わたしたちは怖くありません」
 その晩、夫婦が眠るとすぐまたあの光る小人が来た、部屋が真昼のように明るくなり、夫婦は目が開けられず、頭も上げられない、二人はまた眠ったふりをした。それが三日続いた。

 四日目の朝早く、夫婦が起きてみると土間に小人の金の像がある、「この三日間これが部屋を照らしていたのか、驚くことはなかった、これは正に福運の恵みだ」と夫が言うと妻は「この金の像は人さまの家にあった物でわたしたちの物ではありません」と言った、夫も「それもそうだ、宿屋の主人に渡そう」と言って、夫婦は小人の金の像を持って行き、宿屋の主に今までのことを話した。宿屋の主が聞き終わって、手を出して金の小人を取ろうとすると金の小人の像は突然大きく大きくなった、宿屋の主は驚いてあとざりすると立っていられなくなって倒れ、夫婦が助け起こすと目を回し息がきれていた。

 すると金の像はゆっくりゆっくり小さくなった。夫は「あなたが神様ならばお帰り下さい、神様ではなく、わたくしの福運ならばわたくしの掌に乗って下さい」と言うと、すぐ小人の金の像は夫の掌に飛び上がった、夫が「これはわたしの福運だ、それでは戴きます」と言うと、妻は夫の袖をひき「わたしたちだけが貰っていいの、あの下男のお爺さんにも上げなくては」と言った、夫も「そうだ」といい、夫婦は下男のお爺さんの所へ行き「この金の像の腕をあなたに上げます」と言うと、下男のお爺さんはどうしても受け取らず、やっと小指だけを受け取り「これがわたしの福運です、残りは全部あなたたち二人の福運でわしの福運ではありません」と言った。
 こういうわけで夫婦は死なずに済んだばかりか、大変な財産を手に入れた。   

            姜淑珍故事選                                      1996・8・2

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