運命の結婚
老夫婦と娘が住んでいた。娘は器量よしで目は泉のように澄み、肌は玉のように白く、なよなよとした姿は天女のようで牡丹の花よりも美しかった。それで娘には仲人がひっきりなしに来て、門の敷居が踏みならされ、平になるほどであった。
老夫婦も「娘三六十八歳、結婚させる時が来た」と話していたが、やがて仲人が双方を往来して娘の婚約が決まった。婿の実家は誠実な王と言う家で、やはり一人っ子でいい若者であった。老夫婦はこの両家の縁を喜んだ。娘は婚約が決まり、昼も夜も嫁入り支度の準備をした。
ある日の晩、娘は油の灯火の下で縫い物をしていたが誤って油の灯火が髪につき“アッ”という間に頭の髪がすっかり焼けただれ、頭にぽつぽつと黄色い水泡ができ、痒くなって掻くと手にも水泡が移ってしまった。婿の実家は娘の頭と手が水泡の傷だらけになると婚約を取り消した。娘は嘆き悲しみ、運を天に任せてでも自分の夫を探す旅に出ることにした、老父も老母もそんな娘を止められず、金の鉢と銀の手袋を整え、馬を用意して娘を夫を求める旅に出した。 娘は金の鉢をかぶり銀の手袋をして、馬の行くままに旅を続けた。
三日目の昼、馬は突然、小さな茅葺きの家の前で止まり、どうしても動かない。娘はここが運に任せたあたしの落ち着き先かもしれないと、高粱の茎がらで囲まれたこの小さな茅葺きの家に入ると、白い髪の老婆が縫い物をしていた、娘は丁寧に「お婆さん」と声をかけた。
老婆が頭を上げると、頭に金の鉢を被った綺麗な娘が立っているので家の中へ入れた、娘は顔を赤らめ「お婆さん、おうちの人は」と聞いた。「わしと息子で暮らしています」 「息子さんはどちらへ行ったのですか」 「わしの息子は地主の作男です」と老婆は答えた。娘は「あたしがこちらに来たのはわたしの夫になる人を探しに来たのです、これは天の定めた運でわたしは息子さんの妻です」といった。
老婆はびっくりして「わしの家は貧乏で、息子は妻を娶ることができないのです」と口では答えたが心の中では“息子の嫁が自分から訪ねて来るなんて、これは御先祖さまの徳のお蔭だ、息子に天の定めた嫁がいたとは大変な吉事だ”と喜んでいた。
ちょうどその時、息子が仕事を終えて帰って来た、息子は家の中で人の声がするので、誰かとのぞいて見ると綺麗な若い娘が静かに話している、息子は思わず「こんな娘が俺の妻だったらいいなあ」と呟いてしまった。老婆は息子が帰って来たのに気づき、戸を開けると息子は顔を赤くして逃げ出そうとした。
「息子や、行かないでいいよ、入っておいで。お前が何時もわしを大事にしてくれるから、今日はお前にいいお嫁さんが来てくれたんだよ」と言って、老婆は息子の手をひいて家の中へ入った、娘は立ち上がって若者を見た、中肉中背、濃い眉、大きな目、がっちりした体格であった、娘は頭を下げ「わたしは馬に運命を任せて夫を求めて来ました、するとあなたの家の前で馬が止まりました、これは運命です」と言った。
息子は慌てながら、それでもうっとりして「あなた、わたしは家も畑もありません、この茅葺きの小屋だって地主のものです。あなたそれでも……」と言うと、娘は若者の言葉に逆らうように「わたしたちが一生懸命働けば、きっと幸せな日々が送れます」ときっぱり言った。老婆は「あんたたち二人は天が合わせた夫婦で前世からの因縁だ、わしが花嫁衣裳を作るから結婚しておくれ」と言った。
いく日か過ぎて、老婆は二人の結婚を簡単に済ませた。初夜の二人は互いに愛を誓い、息子は妻の被っていた金の鉢をとると黒い髪が現れ、手にはめた銀の手袋をはずすと白く優しい手が現れ、前よりいっそう美しくなった。夫婦は金の鉢と銀の手袋を売って、家と畑を買い、もう地主の作男としては働かず、若い夫婦と老母は一緒に幸福な日を送った。
姜淑珍故事選 1996・7・21