奈河を渡る

 あの世には奈河という河があると伝えられている。これはこの世へ通じている最後の関所である。閻魔大王は強い鬼二匹にこの関所を守らせいる、ここを渡ろうとする者は誰でも、みんなこの二匹の鬼の取り調べを受けなければならない。

 奈河を越えられた者は、再びこの世に人となって生まれ変われるが、越えられない者は二匹の鬼に奈河に投げ入れられ、永久に甦ることはできない。  ある日、一人の若い女が関所にやって来ると、この鬼に止められ「あばずれ女め、お前は娑婆にいてどんな悪いことをした、早く白状しろ」と訊問された。女は慌てて跪き「わたくし奴は世間におりまして祖父母に従い、両親を敬い、盗みをせず、食べ物は大切にいたしました、おふたかたのお調べをお願いします」これを聞くと二匹の鬼は怒りだし「何だと、また俺たちに調べろと言うのか、この女、あきれた奴だ」とうむを言わせず、いきなりこのあばずれ女を奈河に投げこんでしまった。  

 ちょうどこの時、向こうから屠殺人が来て、さっきのあの孝行で善行な娘が河に投げこまれたのを見て、俺は一生、牛や豚、羊を殺し、肉を切りとってきたのだから、とても駄目だ、それなら思い切って鬼を騙してやれと考え、大またでさっさと鬼の前に歩いて行った。鬼は厳めしい顔できた男を見て、憎々しそうに「こいつ奴、大胆にもわしの前に立ちやがって、お前も娑婆で犯した悪事のかずかずを話せ」と言うと、男も憎々しそうに「俺は娑婆では、お前らの親父だったんだ」と言った、二匹の鬼はこれを聞くとたちまち嬉しそうに、二匹そろって「アイヤ−、お父さんだったんですか、どうぞ早く河を渡って下さい」と言った。屠殺人は心の中でとても喜びながら、大急ぎで奈河を渡り、人の世に戻って行った。  

     中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻下            1993・12・28

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